「組織図」とは、企業や組織の内部構造を図式で体系的に表したものを指す。この組織図は、「指揮命令系統が把握しやすい」、「コミュニケーションが円滑になる」など、さまざまなメリットがある。しかし、いざ作成しようと思ったときに「何に留意すべきか」、「ポイントや作成ツールとしてどのようなものがあるか」と頭を悩ませてしまうかもしれない。そこで、本稿では人事担当者やマネジメント担当者として抑えておきたい知識の一つとして「組織図」を取り上げ、その作り方やメリット、注意点、作成ツールを一通り解説する。
会社で使える「組織図」の作り方を解説! メリットや注意点、ツールも紹介

「組織図」とは?

「組織図」とは、企業や組織の内部構造を図式で体系的に表したものだ。どんな情報を織り込むかは、目的や用途によって異なる。具体的には、企業内すべての部署の配置や関係性を示したもの、従業員の氏名や顔写真、連絡先、役職などを載せたものがある。いずれも、指揮命令系統がわかりやすいように作られている。

会社・企業が「組織図」を作るメリット

次に、会社・企業が「組織図」を作るメリットを取り上げたい。

●指揮系統の明確化

「組織図」を作成することで指揮命令系統を明確にできるので、責任者が判断しやすくなる。プロジェクトなどで問題が発生したとしても、誰の指示を仰ぐべきかが瞬時にわかる。なので、特に組織構造が複雑な企業の場合にはメリットが多大と言える。

●スムーズな情報伝達

従業員が多い企業では、報告や承認のプロセスがわかりにくい場合がある。その点、「組織図」に従業員の名前や役職などの情報を載せると、誰が指揮命令するのか、決裁するのかが把握しやすくなり、報告するルートも明確になる。結果的に、業務を迅速かつ円滑に進めることができる。

●人材配置とバランスの最適化

「組織図」に従業員の氏名や顔社員、役職などの情報も載せると、人材の分布が把握しやすい。人材をマッピングした格好になるからだ。「どの部署に人員が何人在籍しているのか」が一目で見てわかるため、人員の過多や不足にも気付きやすい。それぞれのケースに合わせて、他部署に配置転換を図ったり、新たな人員を採用したりと次のアクションも迅速に取れる。

●従業員の役割認識や企業理解

「組織図」を作ることによって内部構造が見える化され、従業員は自分の立ち位置や役割、自分の部署と他部署との関連性を認識しやすくなる。その結果、お互いの連携・協力がよりスムーズとなる。特に、展開している事業が多岐に渡る、支社・支店数が多いといった企業は効果が大きいと言える。

●健全性のアピール

「組織図」を外部向けに作成する場合、株主などのステークホルダーに自社の健全性をアピールしやすくなる。それは、責任の所在が明確になるからだ。そのため、上場企業ではコーポレートサイトに「組織図」を載せることが多い。

「組織図」の種類

引き続き、「組織図」の種類について説明しよう。

●ピラミッド型(階層型)組織図

ピラミッド型(階層別)「組織図」とは、社長や取締役会などを頂点にして下に向かってツリー状にわかれていくものである。部長・課長・係長と役職で階層を分けるパターンもあれば、部門・部署・チームの順で落とし込んでいくパターンもある。いずれも、情報伝達のプロセスがわかりやすく、従業員一人ひとりの上下関係が一目で把握できるメリットがある。一般的に、階層型の組織は責任の所在も明確であるものの、現場の意見が上層部に伝わりにくいとされている。
ピラミッド型(階層型)組織図の例

ピラミッド型(階層型)組織図の例

●フラット型組織図

フラット型「組織図」は、ピラミッド型と同様の形式だが、より階層が少ない。多くは、社長・マネージャー・一般社員の3階層だ。それだけに、役職者が少ない、各部署の人員が少ないなどのケースに向いている。フラット型の組織は、意識決定や情報伝達が早い。ただ、それぞれの責任の範囲が広く負担も重くなりがちな傾向がある。
フラット型組織図の例

フラット型組織図の例

●マトリックス型組織図

最後が、マトリックス型「組織図」だ。これは、複数の要素を組み合わせて構成される。例えば、縦軸にプロジェクトないしエリア、横軸に職務を置く。マトリックス型の組織は職能や部門がクロスオーバーとなるため、新しいアイデアが生まれやすい。その半面、従業員には縦軸、横軸それぞれの要素で管理者が存在することになるので注意が必要だ。指揮命令系統が二つあるため、責任の所在が曖昧になりがちである。
マトリックス型組織図の例

マトリックス型組織図の例

「組織図」の作り方・手順

ここでは、実際に「組織図」をどう作れば良いのか、その手順と併せて整理しておきたい。

(1)目的を明確にする

「組織図」を作成するにあたっては、目的を明確化しなければいけない。例えば、内部向けなのか外部向けなのか、何のためにかなどを定めておく必要がある。これをしっかりと抑えておくと、出来上がった段階での関係者の認識ギャップを防止することができる。

(2)対象範囲を決める

対象範囲をどこまでとするかも明らかにしたい。「組織図」と言っても、社内全体なのか、部門内なのか、チーム内なのか、さらにはグループ全体などと、さまざまなケースが想定されるからだ。なので、目的に応じて「組織図」の対象範囲を決める必要がある。その結果として、情報収集がスムーズとなる。

(3)必要な情報を集める

対象範囲を決めたら、次は「組織図」に必要な情報を収集したい。従業員の氏名や役職なども載せるのであれば、従業員リストを作成するのも一案だ。それぞれの情報は、個別で収集するとどうしても時間を要してしまう。もし、対象人数が多いようであれば、各部門・部署に収集担当者を決めてまとめて収集してもらえるようにすると効率的だ。

(4)形式を決める

既に「組織図」にはピラミッド型、フラット型、マトリックス型の3つの種類があることを述べた。その中で、自社の組織体制に最も合致した「組織図」の形式はどれであるのかを選ばないといけない。今後、組織をさらに広げていく意向であるならば、拡大後の組織体制を踏まえた形式を考えるようにしたい。

(5)実際に作成する

「組織図」の目的や形式、載せるべき情報が決まったら、次は実際に作成を進めていく。その際には、基本ルールを設けておくのも一つの手法だ。例えば、同じ等級の従業員を何名か羅列する場合に、入社年次順にする、五十音順とするなど規則を決めておけばわかりやすい。

(6)レイアウトを整える

「組織図」に従業員情報を落とし込んだところで、見栄えを良くするために工夫を施したい。具体的には、レイアウトを整える、部署ごとに色分けをする、フォントを調整するなどが考えられる。ただ、やり過ぎは良くない。逆に見えにくくなってしまうからである。

(7)更新と管理を仕組み化する

「組織図」には継続的な更新と管理が不可欠となる。そのため、「誰が、いつ、どのような変更を入れるのか」という仕組みを作っておきたい。最近では、クラウド上で変更が可能なツールやシステムも多いので、それらを有効に活用すればスムーズに更新作業ができる。また、共同編集機能を搭載しているものもあるが、過失や故意による変更がないよう、編集権限を管理者や担当者以外の第三者に委ねることは絶対に避けたい。

「組織図」の作成ツールを紹介

続いて、「組織図」を作成する際の便利なツールを紹介したい。

●Googleスプレッドシート

Googleスプレッドシートは、Googleが提供している表計算ソフトだ。Googleのアカウントがあれば、ブラウザ上で無料で使える。表計算はもちろん、統計グラフや地図グラフも作成できる他、複数のメンバーが同時進行で作業できるとあって使い勝手が良い。

実際には、「組織図」を作成するにあたって以下の手順が想定される。
▼A列に部署名やチーム名・氏名を入力
▼B列にA列の内容をどこに紐づけるかを入力
▼「組織図」の対象範囲を選択し、[挿入]タブから[グラフ]を選択
▼グラフの種類を[その他]の[組織図]を選択
▼組織図の色や文字サイズを調整

●MicrosoftのSmartArt機能

MicrosoftのOfficeソフト「Word」、「Excel」、「PowerPoint」に搭載されている「SmartArt」という機能も「組織図」の作成には便利だ。「組織図」のテンプレートが幾つか提示されるので、その中から自社に合致するものを選択し文字を入力していけば良い。また、図形に文字を添えたり、デザインや色も変更したりすることも可能だ。

Excelの場合の手順は以下の通りである。
▼[挿入]タブ、[図]タブに続いてSmartArtをクリック
▼階層構造から、作成したい組織図のテンプレートを選択
▼各ボックスに、部署名・チーム名・氏名などを入力
▼[ホーム]ないし[SmartArtのデザイン]タブから、色や文字のサイズを変更

●人材管理システム

タレントマネジメントシステムによっては、人材管理システムに「組織図」の作成機能が搭載されているので、それを活用するのもお勧めだ。中には、顔写真データを反映できたり、人事評価機能と組み合わせて利用できるケースもあったりする。その場合には、人事評価から人事異動、「組織図」への反映までの流れを同システム内で一気通貫でできるようになる。

見やすい「組織図」作成のポイント

どうせなら、より見やすい「組織図」にしたいものである。ここでは、そのためのポイントを列挙したい。

●図形や色を統一する

図形や色がバラバラであっては、統一感がない。場合によっては、「図形の大きさの大小に何か意味があるのか」と余計な詮索や解釈を招いてしまうかもしれない。綺麗にまとまって見えるためにも、配慮はしておきたいものである。それぞれのメンバーの立ち位置の違いを理解してもらえるよう、同系色の濃淡を工夫するのも一つのアイデアだ。

●図形の高さと幅を揃える

図形の高さや余白の幅がバラバラだと、全体的に雑な印象を持たれてしまいがちだ。外部向けに公開すると却ってマイナスの印象を与えかねないので注意を要する。あくまでも、見やすさや美しさを意識するようにしたい。

「組織図」を作る際の注意点

最後に、「組織図」を作る際に注意すべき点をリストアップしておきたい。

●目的を明確に定義する

「組織図」の作り方・手順のところでも説明したが、作成する目的を明確に定めておくことが、スタートラインとなる。「何にために作るのか」、「どう活用するのか」などが明確でないと、落とし込む情報も曖昧なものとなるだけでなく、仕上がりも大きく変わってくる。例えば、目的が社内コミュニケーションを活発にしたいという場合には、従業員の顔写真や氏名を載せた方が良いが、コーポレートサイトに掲載したいのであれば、それらを入れる必要はなくなってくる。

●変化に対応できるようにレイアウトに余裕を作る

現在の組織体制をベースに「組織図」を作りがちだが、それにこだわりすぎて最初からギチギチなレイアウトにし過ぎてしまうと何かあった場合に、再びイチから作り直しになることもあり得る。やはり、今後の組織変化や人員の増大などを見越して余裕を持ったレイアウトにしておくこともポイントだ。フレキシブルに対応できるようになる。

●適宜更新する

「組織図」は一旦作成したら終わりではない。社会情勢や新規事業によって、企業の組織体制が随時変わっていくからである。必要に応じて更新するようにしたい。できれば、「誰が更新するか」、「どのタイミングで更新するか」をあらかじめ決めておき、社内で共通認識として持つようにしておくと対応がスムーズとなる。

まとめ

「組織図」は、部門・部署同士の関係性を深める、指揮命令系統をクリアにするなどの役割がある。しかも、それを外部に発信すれば、自社の健全性が保たれていることが瞬時にわかる。会社の経営計画を立てやすくなる点も大きなメリットだ。実は、経営計画を立てるフローの一つとして「組織図」の作成が位置づけられている。会社が目指すべきビジョンを実現するには、役割分担が適正でなければいけない。それを明らかにしてくれるのが「組織図」であり、作らない手はないと言って良い。また、昇格や新規事業などによって組織体制に変化がある時期は特に、本記事を参考に「組織図」の見直しもぜひ図ってみてはいかがだろうか。

よくある質問

●「組織図」はなぜ重要か?

会社・企業が「組織図」を作ることで、指揮系統の明確化やスムーズな情報伝達、人材配置とバランスの最適化が図れる。また従業員の役割認識や企業理解にもつながり、株主などのステークホルダーへの健全性のアピールにもなる。

●「組織図」を作る手順は?

「組織図」を作るには、(1)目的を明確にする、(2)対象範囲を決める、(3)必要な情報を集める、(4)形式を決める、(5)実際に作成する、(6)レイアウトを整える、(7)更新と管理を仕組み化する、という手順を経ると良い。

●「組織図」を作る際の注意点は?

「組織図」を作る際には、「目的を明確に定義する」、「変化に対応できるようにレイアウトに余裕を作る」、「適宜更新する」などが挙げられる。
  • 1

この記事にリアクションをお願いします!