「KPI」とは、最終目標を達成するために、中間プロセスの達成度を定量的に計測・評価する指標である。「KPI」を経営戦略や日常業務に活用することで、組織の方向性を明確に示すことができる。しかし、設定する際に陥りやすい問題もあるため注意が必要だ。本稿では、「KPI」の意味や、KGI・KFSとの違いを解説しつつ、設定方法やポイントを詳しく紹介していく。
「KPI」とは? KGIとの違いや設定方法を詳しく解説【具体例も】

「KPI」(重要業績評価指標)とは?

「KPI」とは、最終目標までの中間プロセスの達成度合いを定量的に計測・評価するための指標だ。簡単に言えば、ゴールまでの中間目標である。「KPI」は「Key Performance Indicator」の頭文字をとった略語で、日本語では「重要業績評価指標」を意味すると表す。

「KPI」を活用することで、プロセスの進捗度を確認でき、ゴールまでの道筋・距離が明確になるため、効率的な業務遂行が可能となる。なお、経営において「KPI」の達成率を管理することを「KPIマネジメント」と呼ぶ。

●「KPI」でよく使われる指標

「KPI」で使われる指標は、当然ながら業種や職種によって異なる。人事部門においては、特に以下に関する指標がよく使われる。

・採用の成功度を測る指標
・適材適所の人員配置ができているかの指標
・就業管理や労働環境など労務管理に関連する指標
・従業員エンゲージメントに関連する指標
・人材育成の成果が出ているかを測る指標


また、人事以外の部門では、以下のような指標が例として挙げられる。

・営業:売上やアクションに関する指標
・マーケティング:認知拡大や見込み客獲得に関する指標
・システム開発:製品の品質確保や納期の遵守に関する指標
・製造:生産性や安全管理に関する指標
・財務:経営状況の改善や業績向上に関する指標


記事下部で、さらに具体的な例を紹介しているので、そちらも参考にしてほしい。

KGIやKSFとの違いを解説

「KPI」に類似する言葉で、「KGI」、「KSF」、「OKR」がある。それぞれについて解説していく。

●「KPI」とKGIの違い

KGIとは「Key Goal Indicator」の略で、日本語では「重要目標達成指標」と訳す。「KPI」が各プロセスにおける中間目標であるのに対し、KGIは最終目標を指す。つまり「KPI」を達成した先にKGIがあるという相互関係にある。

KGIの具体例としては「売上高」や「利益率」といった客観的かつ定量的なものだ。なお、売上や利益など財務に関連する目標は、KFI(Key Finance Indicator=重要財務指標)と位置付ける場合もある。

●「KPI」とKSFの違い

KSFとは「Key Success Factor」の略で、日本語では「主要成功要因」と訳す。「KPI」が目標達成に向けた数値指標である一方、KSFは、目標を達成するために必要な要因や条件のことだ。

KSFは定量的である必要はなく、例えば「技術力の向上」や「営業機会の増加」など定性的な事柄が挙がる。そのため、定量的であるKPIと紐づけて設定するケースが多い。

なお、KSFと同じ意味を持つ言葉で、CSF(Critical Success Factor)というものもある。
KGIとKSFとKPIの違い

●「KPI」とOKRの違い

OKRとは「Objectives and Key Result」の略で、「目標と主要な結果」と訳す。OKRは、Objectives(目的)と複数のKey Result(主要な結果)を設定して、目標達成に向けた成果を計測する目標管理手法である。

OKRが目的とするのは、組織や個人の生産性向上である。そのため「KPI」が目標の100%達成を目的とするのに対し、OKRは60~70%の達成率を目指すチャレンジングな目標を定めるのが特徴だ。

「KPI」を設定するメリット・重要性

「KPI」を設定することで得られるメリットや、設定する重要性とは何か。主な3点について解説していく。

●指標の明確化

「KPI」を設定することで目標が定量的に把握できるようになるため、組織や個人の行動指標が明確になる。「KPI」を設定していなければ、ゴールまでの道筋が曖昧になってしまううえ、行動指針が個々の判断に委ねられてしまうため、業務が非効率で属人的となる恐れがある。すなわち「KPI」は、設定するだけでとどめず、組織全体で共有し、管理する仕組みを作ることが重要であると言える。

●目標達成プロセスの可視化

「KPI」によって、目標達成までのプロセスを可視化できる。つまり計画に沿って「取るべき行動」が明確になるため業務がスムーズとなるのだ。さらに、プロセスをチーム・組織内で共有することで、アクシデントが発生した際に周囲からのフォローを受けやすくなる。

●公平な評価基準の設定

「KPI」は、人事評価の基準を設定するのにも役立つ。客観的な数値を指標とすることで、個人の成果を比較しやすくなるため、公平かつ納得感のある評価ができるのである。当然、評価軸が明確なため、評価者の負担の軽減にもつながる。

「KPI」設定の3つのステップ

「KPI」を設定するためには、KGIやKSFの設定など、大きく分けて3つのステップが必要となってくる。順を追って説明しよう。

(1)KGIを設定する

まずは、ゴールであるKGIを設定するのが先決だ。「KPI」はプロセスを評価する指標であるため、前提となる最終目的地が必要になる。KGIを設定する際には期限を明確にし、具体的かつ実現可能性が十分にある数値を目標とすると良いだろう。例えば、「今期の売上は〇億円」などだ。

(2)KSFを設定する

次に、KGIを多角的に分析し、目標達成に必要な要因であるKSFを設定する。例えばKGIを「今期の売上は〇億円」と設定した場合、「新規顧客の獲得」や「客単価の向上」などが挙げられる。

(3)「KPI」を設定する

そして、KGIとKSFに基づき数値目標を設定する。これが「KPI」である。「KPI」は、KGIを細分化して、より具体的に業務に落とし込むと良い。例えば「新規顧客30件」、「商談数50件」などだ。

適切な「KPI」設計を行うポイント

●SMARTで考える

「KPI」を設定する際に有効なのが、「SMART」の考え方だ。これは以下の5つの要素の頭文字を取ったフレームワークである。

Specific=明確な
Measurable=測定可能な
Achievable =達成可能な
Related=関連性がある
Time-bound=期限を定めた


以上の5つの点を踏まえることで、具体的な目標を設計することができる。

●「KPIツリー」でプロセスを可視化する

「KPIツリー」とは、KGIから「KPI」までをツリー構造で表したものである。KPIツリーを作成することで、KGIを達成するための業務フローを可視化でき、具体的なアクションプランの選定やボトルネックの把握につながる。

KPIツリーの例

KPIツリーの例

●定量的な指標を設定する

「KPI」は、極力わかりやすく、定量的な指標を設定すると良い。個人による認識のずれが発生すると、業務の進行に停滞や乱れが生じてしまうからだ。

設定するKPIの数は最低限に

複数の要素で設定された目標は、実行者の混乱を招く恐れがあり、達成率を下げてしまう。そのため「KPI」は、ゴールまで一貫したシンプルなものにし、かつ最低限の数に抑えることが重要だ。

●事業フェーズに応じた適切な指標を設定する

最終目標は同じでも、当然ながらフェーズや部門ごとに達成すべきタスクは異なる。KGIの要素を細かく分解し、それぞれの事業のフェーズに応じた適切な「KPI」を設定することが、目標達成の近道となる。

●責任者や期限を明確にする

最終的な判断を委ねる責任者が誰か、いつまでに達成すべきなのかが明確であることは、KPI達成に不可欠と言っていい。この2点が曖昧だと問題や遅延が発生した時に速やかに改善策を練ることができない。KPIごとに責任者を配置し、進捗の現状把握と従業員の行動を管理する体制を作りたい。

●CRMやSFAで進捗を管理する

CRMやSFAは、新規受注、既存顧客への営業活動など、あらゆるデータを管理することができるため、営業活動の見える化につながる。また、状況把握や分析が迅速に行えるため、「定めたKPIが目標からどの程度乖離しているか」などの原因を追究しやすくなる。

「KPI」の具体例

次に、それぞれの部門における「KPI」の具体例を紹介する。

●人事

人事部門において、採用や人員配置などその業務は多岐に渡る。5つの業務におけるKPI例は以下の通り。

(例)
・採用:採用人数、採用充足率、選考応募者数、内定承諾率
・人員配置:管理者比率、年齢比率、配置への従業員満足度
・労務管理:平均残業時間、有給休暇消化率、産休休暇利用率、コンプライアンス違反件数
・エンゲージメント:定着率、離職率、従業員満足度、エンゲージメントスコア
・人材育成:研修実施数、研修受講者数、研修の満足度

営業

営業で使われるKPIは、売上やアクションに関する指標が主である。

(例)
売上、アポイント件数、受注率、成約率、平均受注単価、リピート率

●マーケティング

マーケティングで使われるKPIは、認知拡大や見込み客獲得に関する指標が主である。

(例)
新規顧客獲得数、顧客満足度、リピート率、ページセッション数、広告インプレッション数、広告CTR、広告コンバージョン率、サイトユーザー数

●システム開発

システム開発で使われるKPIは、製品の品質確保や納期の遵守に関する指標が主である。

(例)
エラー件数、標準化率、プロダクト改善数、テスト終了件数

●製造

製造部門で使われるKPIは、生産性や安全管理に関する指標が主である。

(例)
稼働率、総合設備効率、ライン編成効率、不良率、ヒヤリハット(事故)発見件数

●財務

財務部門で使われるKPIは、経営状況の改善や業績向上に関する指標が主である。

(例)
ROE(自己資本利益率)、ROA(総資本利益率)、当座比率、固定比率、負債資本比率、純利益、当座比率、純売上高、従業員一人当たりの経費

「KPI」活用の成功事例

適切な「KPI」設定は、企業の業績を大きく伸ばす要因となる。ここでは効果的に「KPI」を業績向上につなげている代表的な3社の事例を紹介しよう。

●丸井グループ

丸井グループは、「人の成長=企業の成長」という経営理念の下、サステナビリティやWell-Beingと収益を両立するためにグループ内で様々なKPIを設定している。その一環として進めているのが、多様性の推進だ。2014年3月期から開始した女性活躍推進プロジェクトのなかで「女性イキイキ指標」という独自のKPIを設定し、男女の多様性に対して本質的な取り組みに着手している。

その結果、2019年3月期以降、男性社員の育休取得率が5年連続100%となり、女性の上位職志向も大幅に改善した。こうした取り組みが評価され、6年連続で女性活躍に優れた上場企業である「なでしこ銘柄」に選定されている。

●トヨタ自動車

日本型モノづくりの象徴とも言われるトヨタ自動車の生産方式は、ムダの徹底的排除の思想とジャストインタイム(JIT)のシステムによって、「必要なものを、必要なときに必要な量だけ造る」という効率性を追求している。このトヨタ生産方式の中で、現場の状況把握に活用されているのが「KPI」だ。稼働率、不良率、生産稼働率、設備稼働率などを可視化し、ムダの把握と改善に努めている。

また、すべての従業員が心身ともに健康で、安全な環境で活躍し続ける職場づくりを目指している同社。健康・安全に関する「KPI」を会社総括安全衛生管理者が選定し、全地域・前職場で取り組んでいる。

●JAL

JALは2010年に経営破綻後、見事にスピード再建を果たしている。再建の過程で行ったのが、LCCとは明確に異なるフルサービスを提供するという「JALブランド」の追求だ。「お客さまに最高のサービスを提供する」という企業理念の下、定時到着率を「KPI」に設定し、定時運行のための時間短縮や情報収集に注力し、顧客満足度を回復させてきた。

そしてコロナ禍からの回復を遂げつつある現在は、成長への転換期と位置付け、「事業戦略」、「財務戦略」、「ESG戦略」を経営戦略の3本柱として設定。ESG戦略において環境、人・地域社会、ガバナンスの各課題に対して「KPI」を設定し、事業を取り巻く環境や国際社会の問題に対して取り組んでいる。

まとめ

「KPI」は、目標の達成に向けて企業や組織の方向性を示す重要な指標である。従業員一人ひとりの業務の明確さや実行のしやすさにつながるだけでなく、行動を可視化することで組織全体で管理・把握もしやすくなる。生産性向上・業務効率化の実現に向けて、具体的かつ適切なKPIの設定はもちろんのこと、これを機に見直しを図ってみてはいかがだろうか。

よくある質問

●なぜ「KPI」を設定する必要があるのか?

「KPI」を設定することによって、組織や個人の指標の明確化や、目標達成プロセスの可視化ができ、目的達成に向けて業務をスムーズに進めることができる。さらに人事評価において、公平な評価基準を設定する指標にもなる。

●「KPI」の設定方法は?

「KPI」を設定するためには、大きく分けて3つのステップが必要になる。(1)KGIを設定し、「KPI」の前提となる最終目的地を決める。(2)KGIを多角的に分析し、必要な要因であるKSFを設定する。(3)KGIとKSFに基づき数値目標である「KPI」を設定する。
  • 1

この記事にリアクションをお願いします!