“期限”を区切らないと人は動かない
皆さんの身近で次のような話を聞いたことはないだろうか。「1週間後に使用するプレゼン資料の作成を部長が部下に命じた。命じられた部下は「分かりました!」と明るく返答したので、部長は安心していた。ところが、1週間後、部長が部下に「資料はできた?」と聞くと、部下は「すみません。まだできていません。ここのところ忙しくて……」などと答える始末である……」
業務を命じた部長からすれば「1週間もあったのに、なぜできていないんだ!」と思うことであろう。しかしながら、部長が部下に「なぜできていないんだ!」と声を荒らげたとしても後の祭りである。それどころか、次に資料作成を命じたときにも、また、同じ事態が起こりかねない。それでは、部下が時間のかかる仕事を適切に遂行できるようにするためには、リーダーはどうすればよいのだろうか。
一つの方法は、リーダーが指示を出す際に“期限”を明確に指定することである。さらに、日にちだけでなく時間まで指定することがポイントである。たとえば、先ほどのケースでは、「来週月曜日の午前11時までに提出するように」などと指示を出すのである。
時間のかかる仕事に対して“期限”を明確にしないで指示を出した場合、指示を受けた部下はその仕事を後回しにし、通常業務などを優先させることが多い。その結果、リーダーが必要とするときに資料が完成していないという事態が起こりがちである。
ところが、命じられた業務に対して“期限”が明確に区切られている場合には、部下はその“期限”を守ろうとアクションを起こすものである。したがって、「来週月曜日の午前11時まで」というわずかなフレーズがあることにより、自然に「期限に間に合うように準備する」という部下の行動が促され、時間のかかる仕事を適切に遂行できる確率が高くなる。
「期限前の声掛け」が計画的な行動を生む
ただし、作成を命じた資料の“期限”を事前にリーダーがはっきりと示したとしても、間がある場合には、直前までその仕事に手をつけないという部下もいるものである。そのため、“期限”ギリギリまで手をつけず、提出日が近くなって慌てて資料を作成した結果、「資料に間違いがあるが、もう修正する時間がない」などという事態も少なくない。このような事態を回避するためには、作成を命じた資料の“期限”になる前に、ときどきリーダーの側から部下に「頼んだ資料、進んでる?」などと声掛けをすることが有効である。これにより、部下が命じられた業務に“期限”ギリギリまで手をつけない、ということが発生しにくくなるからである。
また、「期限前の声掛け」を行うことにより、命じた業務の途中経過をリーダーが確認できることになる。そのため、万一、作成中の資料に修正を命じる必要がある場合にも、修正の必要性を早期に発見でき、時間に余裕をもって部下に修正を命じることが可能になる。
リーダーから「期限前の声掛け」があることが分かっている場合、部下が業務を上手く遂行しようと思えば、「“期限”から逆算した行動計画」を部下自身が考えることになる。そのため、「期限前に声掛けをする」という手法は、ゴールから逆算したアクションプランを作成し、プランに沿って行動するというスキルを部下に身につけさせる効果が期待できる。その結果、時間がかかる仕事を命じられても、他の業務との帳合を上手くとりながら完遂できるようになるものである。
忙しいリーダーにとり、とくに「期限前の声掛け」は怠りがちなコミュニケーションである。「頼んだ資料、進んでる?」の一声が、部下を動かすキーになることをぜひ知っていただきたい。
コンサルティングハウス プライオ
代表 大須賀信敬
(中小企業診断士・特定社会保険労務士)
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