ワークライフバランスには、さまざまな内容があります。「不妊治療」もその一つであり、会社として職場環境の整備が必要とされてきています。今回は、2023(令和5年)度に実施された不妊治療に関する厚生労働省調査を手掛かりに、厚生労働省の “不妊治療に関する3つの施策” を紹介します。

「不妊治療」と「仕事」の両立を推進するために、助成金など会社で活用できる厚生労働省の “3つの施策” を紹介

厚労省施策1:不妊治療連絡カード
~不妊治療に関する社内のコミュニケーションツール~

厚生労働省「令和5年度不妊治療と仕事の両立に係る諸問題についての総合的調査(以下、厚労省調査)」において、『仕事と治療の両立が難しいと感じる内容』の質問に関する上位3つの回答として、次のようなことが挙げられています。

仕事と治療の両立が難しいと感じる内容(両立中・両立経験者)
【上位3つの回答】

●通院回数が多い(53.5%)
●精神面で負担が大きい(51.4%)
●待ち時間など通院にかかる時間が読めない、医師から告げられた通院日に外せない仕事が入るなど、仕事の日程調整が難しい(35.9%)
※厚生労働省「令和5年度不妊治療と仕事の両立に係る諸問題についての総合的調査」より

これらの回答は、治療を受ける上で避けられない問題ではありますが、会社の理解により、その問題が軽減できるものでもあります。そして、会社が特に理解したいのは「従業員の治療の現況」です。現況を知ることで、会社と従業員間の社内のコミュニケーションを円滑にすることへつながります。

そして、社内のコミュニケーションツールとして活用したいのが『不妊治療連絡カード』です。厚生労働省ホームページからダウンロードすることができます。厚労省資料では「不妊治療連絡カードは、不妊治療を受ける労働者の方が主治医等から診療に基づき治療や検査に必要な配慮事項について、企業の人事労務担当者に的確に伝達するためのカード」と説明されています。

不妊治療の内容に関しては、個々によって異なります。また通院日数などの違いだけでなく、治療に伴う身体的負担やストレスの感じ方なども異なります。ぜひ『不妊治療連絡カード』を活用し、従業員が抱える仕事と治療の両立の難しさを少しでも解消していきましょう。

厚労省施策2:両立支援等助成金(不妊治療両立支援コース)
~不妊治療に関する職場環境の整備に活用~

厚労省調査での、企業に対するアンケート結果の概要として次のようなことが挙げられています。

企業に対するアンケート結果の概要
●半数以上の企業が、不妊治療を行っている従業員の把握ができていない。
●不妊治療を行っている従業員が受けられる支援制度等がある企業は「26.5%」。
●不妊治療と仕事の両立に関する従業員への普及啓発を実施していない企業は「95.7%」。
●不妊治療を行っている従業員を対象に相談や面接の機会等を設けていない企業は「78.9%」。
※厚生労働省「令和5年度不妊治療と仕事の両立に係る諸問題についての総合的調査」より

不妊治療に関する取り組みが十分ではない現状がありますが、仕組みづくりのきっかとして活用したいのが雇用保険の助成金です。雇用保険助成金として『両立支援等助成金(不妊治療両立支援コース)』があります。「不妊治療休暇制度」または「両立支援制度」の制定など職場環境を整備し、実際にその制度に関して所定の要件を満たし労働者が活用した場合において、会社(中小企業)へ助成される制度です。助成要件に該当した場合は、1回30万円が支給されます。詳しくは、厚生労働省ホームページをご確認ください(今回紹介の内容は、2024/令和6年度のものとなります)。

厚労省施策3:くるみんプラス
~不妊治療と仕事の両立を推進する証(あかし)~

厚労省調査では『不妊治療の職場への共有』及び『職場で伝えていない理由』として、次のようなことが挙げられています。

職場への共有状況
●上司に伝えている(伝える予定):26.6%
●同僚に伝えている(伝える予定):23.5%
●人事に伝えている(伝える予定):11.8%
●職場ではオープンにしている(する予定):7.6%
●その他:0.3%
●一切伝えていない(伝えない予定):47.1%

職場で伝えていない理由 ※職場ではオープンにしている(する予定)者を除く
●伝えなくても支障がないから:37.1%
●周囲に気遣いをしてほしくないから:33.0%
●不妊治療がうまくいかなかった時に職場に居づらいから:27.7%
●不妊治療をしていることを知られたくないから:24.7%
●周囲から理解を得られないと思うから:19.5%
●その他:0.7%
※厚生労働省「令和5年度不妊治療と仕事の両立に係る諸問題についての総合的調査」より

不妊治療中であることを、必ずしも職場へ伝えなければいけないものではありません。ただ回答の中には、職場へ伝えることによるデメリットを懸念し、伝えることができない理由も挙げられています。それらの問題を解消するには、会社が、不妊治療と仕事の両立を明確に掲げることで、組織風土を醸成することが重要となります。

会社が不妊治療と仕事の両立を推進する上で、目標となるのが『くるみんプラス』です。それが「不妊治療と仕事の両立を推進する証(あかし)」となります。

「くるみん」自体は認定制度として、子育てサポート企業であることをPRできたり、公共調達において加点評価の対象になったりするなどのメリットがあります。その「くるみん」で、所定の要件を満たし、不妊治療と仕事との両立をしやすい職場環境整備に取り組みを行った場合は『くるみんプラス』となります。詳しくは、厚生労働省特設サイト「両立支援のひろば」をご覧ください。

まずは「くるみんプラス」に限らず、『一般事業主行動計画などに、不妊治療と仕事との両立に関する内容を盛り込む』など、身近にできることから始めていきましょう。
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