自分と違う特徴に“苦手”を感じる
誰しも得手不得手があるものである。組織内の人間関係も例外ではない。たとえば、「直観派」のリーダーは「理論派」の部下に苦手意識を感じることが多く、「慎重派」のリーダーは「行動派」の部下に仕事のやりづらさを感じることが多い傾向にある。とかく人間は自分とは異なる特徴を持つ相手に違和感を持つものである。しかしながら、リーダーが部下に苦手意識を感じたとしても、特殊なケースを除けば、その部下が業務遂行に支障を来すような大きな問題を抱えているわけではないであろう。従って、組織を預かるリーダーとしては、「苦手な部下」に対しても他の部下と同様に動機付けを行い、組織目標の達成を目指さなければならない。
「苦手意識」は態度・表情に現れる
人間は苦手意識を感じたとき、知らず知らずのうちにその思いが態度や表情に現れてしまうものである。たとえば、リーダーが特定の部下に対して苦手意識を持っている場合、リーダーが意識をしなくても「私はあなたのことを苦手に思っています」という“マイナスの感情”が態度や表情に出てしまうものである。また、部下はそのような“マイナスの感情”を極めて敏感に感じ取る傾向にある。自分に“マイナスの感情”を持つ相手に対し、好意を抱く人間はいない。従って、態度や表情で“マイナスの感情”を示すリーダーに対して部下は「接しづらさ」を感じ、部下自身もリーダーとのコミュニケーションを避けるなど、“マイナスの感情”がこもった態度を示し始めることになる。部下のそのような態度にリーダーは一層、苦手意識を強めてしまう。結果的に両者の間では円滑なコミュニケーションが成立しなくなるという“悪循環”に陥ることになる。
コミュニケーションは表裏一体である。自分が相手に“好意的なコミュニケーション”を取れば、相手もこちらに“好意的なコミュニケーション”を取る。自分が相手に“非好意的なコミュニケーション”を取れば、相手もこちらに“非好意的なコミュニケーション”を取るものである。つまり、目の前に現れている「相手の態度・表情」は、現在の「自分の態度・表情」が反映された鏡のようなものといえる。
「相手の反応」は「自分の反応」の鏡
従って、苦手意識を持っている部下の態度が自分に対して“マイナスの感情”を示していると感じたときは、「やはり彼のことは苦手だ」と考えるのではなく、「私の態度・表情が彼に対して“マイナスの感情”を示しているのではないか」と考え、自身の態度や表情をセルフチェックすることが大切である。もしも苦手意識を持っている部下のことを「取っ付きにくい奴だ」と感じたら、「彼に対する私の態度が取っ付きにくいのではないか」と考え、自分自身を振り返ることがポイントである。リーダーが部下に対して苦手意識を感じるとき、多くのケースでそのように思っていることは相手に伝わっており、その結果、リーダーに対する部下の態度も連動して悪化していることが多い。「相手の反応」は「自分の反応」の鏡である。リーダーのコミュニケーションがプラスに変われば、部下のコミュニケーションは連動してプラスに変化するものである。そのため、「苦手な部下」を動機付けて“動く人材”に育成するためには、そのような部下に対してこそリーダー自らが“好意的なコミュニケーション”を意識的かつ積極的に取ることが重要になる。
苦手な相手に自分から“好意的なコミュニケーション”を取るのは、あまり気が進まないかもしれない。しかしながら、部下のコミュニケーションを変える唯一の手段は、リーダーのコミュニケーションを変えることであると言っても過言ではない。リーダー自らが「苦手な部下」に対して“好意的な反応”を見せれば、比較的容易に部下の反応は好転するものである。苦手な相手にこそ、笑顔で“好意的なコミュニケーション”を取るという第一歩が踏み出せれば、組織内でのより良い人間関係が築ける“好循環”が生まれるに違いない。
コンサルティングハウス プライオ
代表 大須賀 信敬(中小企業診断士・特定社会保険労務士)
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