ただし、これは自分自身の成果を望むときには有効ですが、部下や同僚に対して必ずしも同様の効果が期待できるわけではありません。「できて欲しい」「そうなって欲しい」と思うあまり「何をやってるんだ!」「ダメじゃないか!」とネガティブな言葉がけになってしまい、相手が委縮して失敗してしまうことも多いのです。
モチベーションアップのステップを意識する
ネガティブに考えがちな時の「状況の受け入れ」からポジティブに「とらえ方変換(発想変換)」をするためのトレーニング法を前回ご紹介しました。これはモチベーションアップのステップにおける最初の2ステップです。今回は、3ステップ目である「して欲しい変換」の仕方である、相手にして欲しいことをストレートな言葉に乗せて発するためのトレーニング法です。
「ミスをするな」は「ミスをしろ」に等しい
相手に行動の改善を促したいとき、「否定形」で伝えてしまうことはよくあります。しかし「○○するな」と言われた相手は、なぜか体が勝手に「○○する」という逆方向に動きがちです。「計算ミスをするな」と言われた相手は、脳の中で「計算ミスをした状態」をイメージしてしまい、そのネガティブなイメージがミスを引き起こしてしまうのです。
人間は本来、「肯定形」が好きな動物なのです。右手に赤旗、左手に白旗を持つ“旗揚げゲーム”をイメージしてください。「赤上げて」「白上げて」と言われた段階では誰も間違いませんが、「赤下げないで」「白下げない」と言われた途端、間違える人が続出するでしょう。
このことからも、否定形が間違いを引き起こしやすいことがわかります。
業務においては当然、間違いは避けたいわけですから部下に対する指示や動機づけなど、大切な場面での言葉がけには否定形を使わず、肯定形でストレートに「○○して欲しい」と伝えるべきなのです。
「して欲しい変換」で具体的に言葉がけをする
「○○するな」とつい否定形が出てしまう人は、「○○して欲しい」と肯定形の表現に変換することを常に意識しましょう。無意識のうちに否定形で話す人も多いので、ミーティングや研修の時間を利用して社員の皆さんと一緒に考えてみることをお勧めします。次のような課題に取り組むと効果的です。
<ひとつの状況に対して、否定形による言葉がけを肯定形に変換した例>
①部下が難しいプロジェクトを提案してきた。
失敗したら、どうする気なんだ。 → どうしたら成功するのか、一緒に考えよう。
②部下・後輩が何度も同じことを聞いてくる。
何度も同じことを聞いてくるな。 → ポイントをしっかり聞いてメモしよう。
③お客様に提出する商品の仕上げをしている。
傷をつけるなよ。 → 最後は丁寧に仕上げよう。
④大役を任されて尻込みしている。
逃げるな。 → しっかり取り組んで成長しよう。
⑤待遇や組織の対応に反感を抱いている。
不満を言うな。 → どうしたら良い組織になるのか、意見を出し合おう。
このように「して欲しいこと」を肯定形でストレートに伝える習慣をつけることで、相手を好ましい方向へ導きやすくなります。
“肯定形”だけでは無理が生じるケース
しかし、肯定形も単純に否定形を裏返せば良いわけではありません。例えば、競合企業が集うユーザー向けのプレゼンテーション会など、“負けられない場面”に挑む時、「勝てよ」と声をかけられたらどう思うでしょうか?
心強いと感じて奮起する人もいるかもしれませんが、性格によっては「勝たねばならない」とプレッシャーに感じ、緊張のあまりミスを誘発しかねません。
肯定形で正しく励ましているはずなのに、かえって相手を委縮させてしまう、といった状況を防ぐためには『三段階の承認』に基づいた言葉がけをする必要があります。これは、人間がモチベーションをアップし、本来の力量を発揮しやすい状態を作り出すための基本となるものです。
第1段階:存在の承認
その人が組織に存在してくれていること自体を認めること
言葉がけの例→ 「いつもありがとう」「あなたが居てくれるから心強いよ」
第2段階:行動の承認
その人が行動していることについて認めること
言葉がけの例→ 「頑張っているね」「よくやってくれているね」
第3段階:結果の承認
その人が出した結果について認めること
言葉がけの例→ 「よくやったね」「よく出来たね」
ここで注目すべきは、前述の「勝てよ」という表現は、承認することなく『結果』を求める言葉がけであることです。
“結果”よりも“行動”にフォーカスする
相手を勇気づけて、大切な本番で十分に力量を発揮してもらうためには、“結果”を求めるのではなく“行動”にフォーカスして言葉がけをすることが大切です。先の例でも、「成功しろよ」でなく「他社と比較して、トータルコストが安いという部分を徹底して訴求しろよ」などの具体的な“行動”を示すことで、どうすれば好ましい“結果”を生み出すことができるのかをイメージさせるのです。次回は、「とらえ方変換」や「して欲しい変換」を個人のアイデアで終わらせるのではなく、組織全体でスキルアップしていくためのツールとして使える「シナリオ」の作成法を解説します。
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