この視点には、“現在”だけでなく、“将来”も求められていることに気づいたと思います。
このように、人事部への役割が大きく変わってきており、それは社員のマネジメントにも大きく影響を与えています。
人材と人財の言葉の違いについては、すでに「第1回 タレントマネジメントは必要か」で説明をしました。今回は、その意味や内容、本質について理解をしていきます。
さて、Human Capital(人財)を初めて使った人物が英国のA.W.Lewisで、彼の著書「Economic Development with Unlimited Supplies of Labor, 1954」の中で紹介されました。
彼は、人財とは組織の成果を出すことができ、非常に高い生産性を発揮することができる人として紹介しています。一方、人材は、大量生産時代の単純労働者であり、上から言われたことを言われたとおりに行い、言われたものを出す人として紹介しています。
人財という言葉が徐々に使われ始めたのは、1990年後半からで、特に英国・米国から再び使われるようになりました。
人財マネジメントとは何か
人材と人財の大きな違いは、社員を資本のように“将来”に渡って、長期的な視点から活躍してもらう仕組みがあるかどうかです。“現在”において、そして、“将来”においても、資産としての価値、投資をするだけの価値がある社員を、戦略的にマネジメントすることを人財マネジメントと言っています。
日本企業には、もともと長期的な視点の雇用、終身雇用がありました。現在もなお健在の企業も少なくありません。定年までの長期雇用のある終身雇用は、日本企業の独特の特徴だと思います。欧米企業も日本がバブル後にマネをしたことがありましたが、どこも長続きはしていません。欧米の企業には、長期的な視点を持った仕組みは、最近まではありませんでした。
ただ、長期的な視点の雇用、終身雇用の仕組みがあれば人財マネジメントといえるかと言えば、そうではありません。
社員を長期にわたって組織の中で活躍してもらい、貢献してもらうためには、入社から退職までのプロセスと機能を、長期的視点から見直してマネジメントできる仕組みが必要です。
人材マネジメントでは、すぐに必要な人材に注目した短期的なニーズ優先の採用を行います。
“今の求めるニーズ”に人材がマッチしているかが重要で最優先となります。
しかもパフォーマンス重点主義で、採用決定権も採用したい部門の責任者にあります。人事が採用予算を持ち、発言権も強く、採用基準が明文化されていたとしても、現場の責任者次第で採用が決まる、と言うのが実態で、パフォーマンス重視であることから、採用後は本人任せ。「何かあれば、聞いてくださいね」ぐらいの支援がせいぜいです。
かつての欧米企業の採用ではこのような方法が主流で、高い手数料をかけて即戦力を採用し、それに見合ったパフォーマンスを期待してマネジメントをしてきました。
パフォーマンス VS 価値観
今や、フォーチュン100社の優良な欧米企業には、パフォーマンスだけを期待した以前のような採用はありません。まず、「求める人財像」にマッチした人を採用します。
そのため、経営戦略の実現だけでなく、企業の成長戦略にも貢献してくれる人財であるかどうかを見極めます。採用したい部門だけの視点だけでなく、全社的な視点も含めて雇用の決定をしています。これまでは、職務定義書で定義された人材を採用していましたが、今は職務定義書も使いますが、絶対条件ではありません。
適性や将来性、価値観なども十分に考慮して採用をしているからです。採用時は確かにニーズのある部門に配置するかもしれませんが、キャリアパスで異動が行われる可能性もあるため、統合的に検討しながら採用をします。絶対条件はパフォーマンスより価値観にあるようです。
パフォーマンスが低い人に対しては、パフォーマンスを高める仕組みがあります。
企業で教育研修やパフォーマンスを高めるための仕組みを用意しています。最も有名な手法が、コンピテンシーではないでしょうか。
コンピテンシーとは、社内の高パフォーマーの行動特性を調査、分析し、全社的に展開する方法です。さらに、ビジネスコーチやメンターによる支援を通して、平凡な社員でも高いパフォーマンスが発揮できて、企業価値を高める成果を出すことができるように支援をしています。
しかし、価値観を変えるとなると、教育研修やビジネスコーチやメンターでは簡単に変えることは困難です。時間も手間もかかります。そのため、価値観の見極めを大切にしています。
次の図1のパフォーマンスと価値観のマトリックスを見てください。
著者が経営者の方からお話を聞かせて戴くとき、図1のフレームワークを使って質問をさせて戴くことがあります。
「御社では、パフォーマンスと価値観の4つのタイプの社員がいるとしたら、最も評価する順番から教えて戴けませんか」とお願し、図1のシートに数字を記載していただきます。
多くの経営者は、右上が1、右下が2、左上が3、左下が4です。
つまり、1と4は問題ないのですが、問題なのは、2と3です。思いの2は、実態では3であったり、4であったりしています。
著者が就業したGE社では、図2のパフォーマンスと価値観のマトリックスによる人材の分類のように、2と3の理由付けがありました。
「第1回 タレントマネジメントは必要か」でも解説したレッテルの話を敢えてしてみると、1が人財、2が人材、3が人罪、そして、4が人在です。
3の社員は、パフォーマンスが高いため、もし管理者であれば、部下からも尊敬されているかもしれません。パフォーマンスが出せない部下からは「すごい人だ」と思われかもしれません。この社員の影響力は高いので、やがて退職するとき「ここにいつまでいても評価されないよ」と、部下も引き連れて辞めていくこともあり得ます。
そもそも価値観が違うために、企業で末永く貢献する人かどうかは疑問です。
マネジメント戦略の本質とは何か
どのような人材、人在、人罪であっても、人財に引き上げるための仕組みがマネジメント戦略になければなりません。確かに、採用においては、少なくとも企業の価値観に合っている人を選ぶことが重要となります。もしかすると、現在いる社員では「時、すでに遅し」かもしれません。
また、近年のグローバル化の急速な拡大により、全て海外の拠点を見渡すことが困難になっていたり、M&Aによってある日突然、文化も制度も言葉も価値観も違った仲間が大勢増えることも珍しくありません。
こうなると、常に理想的な社員を選んで、配置できるとは限りません。
グローバル経営やグループ経営の加速化も考えると、むしろ理想的な状態で理想的な社員を採用する方が限定的かもしれません。
人財マネジメントにおけるマネジメント戦略の本質は、マトリックスの2、3、4の状態の社員でも、企業の価値観に共鳴し、共感し、高い成果を出してもらえるようにマネジメントし、人財の1へと引き上げることにあります。
また、1の人財も常に高い成果が出し続けられる環境を維持しながら、同時に、他の企業に引き抜かれないようなマネジメントを行います。
すなわち、1の人財に引き上げ、引き上げても戻らせないマネジメントが求められているのです。
たとえば、普通の人を採用する場合は、2の人です。パフォーマンスの高い人を採用する場合は、1に限ります。採用で選べるのであれば、企業の価値観に合った人を優先させます。
活用の場合では、1にいる人財でも人財マネジメントをしないでそのままにしていると、やがて3や2になることもあります。
それを防ぐために、エンゲージメント(いわゆる帰属意識や良い意味の愛社精神)と言うマネジメント手法を取り入れています。燃えつき症候群になることもあるので、目的意識を高めるマネジメントも行います。退職することもあるため、リテンション(定着)マネジメントや1の人しか受けられない教育研修制度などといった総合的で統合的なマネジメントの仕組みが人財マネジメントには必要となります。
人財マネジメントでは、採用で1に入る求める人物が確保できたからと言っても、すぐに高い成果を要求したまま、本人任せにすることはありません。
前職で高いパフォーマンスがあったからといって、転職後も同じような高いパフォーマンスが出るとは限らないからです。
そのため、ビジネスコーチングやメンターをつけて、高いパフォーマンスを出してもらうための支援や工夫をします。必要に応じた教育訓練を実施し、社内のコミュニティを紹介し、着任のワークショップなどを行い、素早く組織にもメンバーにも馴染むことができるようなプログラムを用意しています。
これは採用においても配置においても、さらには教育研修においても、社員が高いパフォーマンスを発揮し続けられるようなマネジメント戦略を持っています。
人財マネジメントは、長期的雇用はありますが年功序列はありません。
成果や実力に応じた評価制度と報酬制度があります。また、本人の強みやチャレンジしたいこと、適材適所に応じたパフォーマンスが発揮しやすい環境での配置が基本となります。
パフォーマンスを引き出すための研修と、価値観の共感が得られるための教育が用意されているのです。
次回は、タレントマネジメント戦略の本質を理解していきます。
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