優れた経営戦略があっても、素晴らしい経営理念やビジョンがあっても、また、優れた製品、サービス、制度やインフラ、ビジネスモデルが企業全体にあっても、それを実行する社員がいなければ意味がありません。
優れた経営戦略があっても、素晴らしい経営理念やビジョンがあっても、また、優れた製品、サービス、制度やインフラ、ビジネスモデルが企業全体にあっても、それを実行する社員がいなければ意味がありません。また、社員がいてもその質と量が求められます。
求める人財要件を満たしている社員の確認
第3回で「求める人財要件」を明確化することを理解しました。これを具現化させ実際に利用するとなると、経営としてその要件を満たす社員の確認も必要となります。つまり、人財要件を満たしている社員が、現在どの程度いるのか、それが足りているのか、それとも不足しているのかを明確かつ正確に把握することが必要です。順を追って説明してみたいと思います。
■ Step1 定義する
明文化した「求める人財要件」からコンピテンシー、パフォーマンス、資格、経験を定義することからはじめます。
まず「○○ができる」を定義します。この定義が上級レベルだとすると、さらに中級、初級と言ったレベル区分まで定義します。
たとえば、営業やコンサルタントなどで「担当顧客の事業内容、主要マーケット、経営方針、財務環境に関する情報を収集し、現在と今後の重要課題を把握することができる」これを上級レベルと設定し、「担当顧客の事業内容、主要マーケット、経営方針、財務環境に関する情報を収集し、現在の課題を把握することができる」を中級レベルとするなどです。そして情報収集ができるレベルを初級と設定します。
■ Step2 計画値を決める
経営戦略、成長戦略に合わせて、「○○ができる」社員の必要人数を算出します。このとき、事業のタイミング(来年、3年後など)や、組織に合わせて必要な人数を概要レベルで出しておくと良いでしょう。
そして事業のタイミングを来年としたとして、先の事例の上級レベルをどこの組織にどれほど必要なのか検討します。
■ Step3 現状を把握する
現在の社員の力量分析を行います。
全従業員の力量(コンピテンシー、パフォーマンス、資格、経験など)を洗い出し、先の事例の上級・中級・初級レベルの社員が現時点で何人いて、どこの部門にいるかを把握します。
■ Step4 差異を分析する
必要な社員の質と量と、現状との差異を把握します。
その際、求める人財の質、量との差異を組織別、時期別などによって確認をしておきます。
先の事例の各レベルの社員を経営戦略で活かすためには、何が問題なのかを把握することが大切です。問題解決の前の問題の認識をしっかりとしておきましょう。
■ Step5 解決案を検討する
差異によって発見された問題の解決策を検討します。
この解決策に人事機能の重要な要素が含まれることになります。
すなわち、経営戦略を実現するための社員がどの程度不足しているのか、質的な問題、量的な問題、時期的な問題、組織的な問題などの解決にあたる人事機能の検討です。
具体的な解説は、「第7回タレントマネジメント戦略の本質」で解説をします。
経営戦略を実現する人事機能とは
Step1では、現在の社員の状況を理解するための仕組みとして、等級制度と人事評価制度の確認が必要となります。等級制度とは仕事のレベルを表したもので、いわゆる仕事の物差しです。
等級の低いレベルから高いレベルまでの複数レベルが存在し、一般職や管理職、経営職もこの等級レベルに合わせて定義されていると思います。
この等級制度は人事機能のなかでも一番重要な仕組みであり、軸です。これは、あらゆる人事機能の物差しであり基準となります。各等級のレベルには、それぞれのレベルの定義がされていて、その内容は、コンピテンシー、資格、経験などで表現される場合があります。
この等級制度の各レベルに社員を当てはめていくためには、人事評価制度が必要です。
全社員が人事評価の制度によって、正しく公平に、タイムリーに評価され、記録されなければなりません。人事評価は少なくとも1年単位で社員の力量を正確に確認する仕組みが必要です。
「そろそろあいつを昇格させてやりたいから、今年の評価はAにしておくか」
「この社員を辞めさせたくないので、S評価にしておくとしよう」
「同期を考えると、この社員だけ評価するのは控えたいものだ」
「社内の評価分布を考慮すると、S評価が今回多いので、A評価に何人かしないといけないな」
上記のような評価は正確性や公平性に欠け、評価の目的がそもそもずれているのかもしません。原因が仕組みにあるのか、それとも評価者にあるのかの見極めが必要です。
いずれにしても評価結果の内容に信頼性が薄いとなると、教育研修にも、人事異動や昇格・昇進にも影響を与えるので、ことは重大になります。
すなわちStep4での差異をStep5で検討するとき、求める質や量が足りていると判断した場合、教育研修や採用、人事異動などの戦略は足りている可能性があります。逆に、質が足りていると思っていたら実態は不足していた、といった場合は、教育訓練などの対応が適切に取れなかった、などの問題もでてきます。
人事評価の機能の一部に、360度評価を検討することも必要です。
360度評価は業績評価には使いませんが、コンピテンシーや行動、価値観の評価には使えます。評価者だけの視点ではないので、総合的に確認することもできます。
社員の力量を分析し、「○○できる」社員が足らないことが判明した場合、まずは教育研修の検討から入ります。教育研修での習得は時間も費用もかかるので、効果をどのように検証するかの検討も事前にしておく必要があります。
教育研修だけでは対応できない課題もあります。たとえば、「変革を起こすことができる」、「イノベーションを起こすことができる」、「PMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)ができる」などは、教育研修ですぐに効果が得られるとは限りません。
教育研修でも、ノウハウ、スキル、経験がない場合、キャリア採用を検討することも必要となります。採用する場合でも、募集してから入社までの時間は、半年は見ておく必要はあります。高度な人財であれば、それ以上の時間も費用も必要となります。
また、外部コンサルタントを利用し、特定の社員の教育研修も含めながら実施し、思い切ってアウトソース化することも可能です。
人事機能として、これらを整理してみると、
① 等級制度(コンピテンシー定義、資格、経験の定義)
② 採用
③ 人事評価(コンピテンシー評価、パフォーマンス評価、360度評価制度)
④ 配置・人事異動
⑤ 教育研修
これらが、経営戦略や成長戦略を実現するために必要な人事機能・制度となります。ただし、経営戦略実現に貢献した社員は、人事評価に応じて処遇をしなければ社員の定着もありません。金銭的な報酬と非金銭的な報酬の仕組みを考える、
⑥ 報酬
が必要となります。
等級制度は、全ての人事機能に共通する根幹となるため、下記のように、5つの人事機能と根幹の等級制度で構成されます。
経営を支える人事制度
人事機能としては5つの機能が重要となりますが、それを人事制度で実現させるとなると幾つかの注意事項があります。それは、人事制度を構築する際、企業の3~5年先を検討したうえで構築する必要があるという点です。人事制度を構築するには、半年から1年ぐらいの時間が必要となります。グローバル化などによる全面刷新となると、1年では足らない場合もあります。
出来上がったときにはすでに古い制度になっていた、という話も珍しくなく、その原因は現状分析の現在の問題解決策を人事制度に組み込んでしまったことにあります。
労務においても5~10年先を検討し、シミュレーションを行いながら社員の適正人数などを検討する必要があります。
人事制度を(再)構築する目的、意図はどこにあるのかを明確にするのは、経営陣の役割です。人事部にこれを任せてしまうと、どうしても人事制度を構築すること自体が目的になってしまいます。
人事制度は、あくまでもマネジメントの手段であり、ツールです。
3~5年先の経営、マネジメントの姿を実現するために使うので、そこには経営陣の思考や思想が入っていなければなりません。
そうした思想は、就業規則にも規程にも盛り込まれていなければいけません。人事部に丸投げをすることは、大げさかもしれませんが、経営として人事を放棄しているとしか思えません。
求める人財像を明文化し、評価基準や報酬について全社員に分かりやすく見せなければなりません。さらに、求める人財が末永く成果をだして貢献してくれることで、本人とその家族にどのような利益があるのかも見せなければなりません。
成果主義や能力主義ばかりが注目を集めがちですが、その本質を理解せずに制度や仕組みだけを信じて構築しても、経営戦略や成長戦略の実現は困難です。
今後、どういった経営を展開していきたいとお考えでしょうか。
目指すマネジメントの形を実現するためには、人事機能にどのような期待や役目を持たせるべきでしょうか。
今一度、検討してみることが必要ではないでしょうか。
次回の第5回「経営戦略に必要な人事部とは」では、期待する人事機能を任せる人事部について理解を深めていきます。
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