「電子帳簿保存法」に対応するために必要な実務の手順とは
書類の整理から従業員への周知まで、具体的な実務対応について解説します。(1)現状の取引内容を整理し、把握する
現状作成・保管している社内の国税に関する帳簿や書類、取引先等とやり取りしている書類に関して、「請求書、領収書など、どのような取引書類があるか」、「取引先ごとにどのように受け取っているか」、「受け取ったものは誰が、どのようにどこに保存しているのか」の3点を整理し、「その帳簿や書類が、『電子帳簿保存法』上のどの区分(電子帳簿等保存、スキャナ保存、電子取引)に該当するか」を把握します。(2)システムの見直し、規定等を作成、備付ける
現状のシステムが「電子帳簿保存法」の保存・検索要件を満たしているかどうかを見直し、社内の事務処理規定を整備して、関係書類(システム概要書や操作マニュアルなど)を備え付け、見読可能性を確保します。(3)電子取引に関しては、電子データで保存できる業務フローを構築する
上記(1)で把握した電子取引に関しては、「紙に印刷することなく、電子データで経理に回せるフローを構築すること」が必要になります。電子データを保存する媒体は、ハードディスクやUSBメモリー等様々なものがありますが、「電子帳簿保存法」では特に規定はされていませんので、自社で最も利用しやすいものを選定することになります。ただし、ひとつの保存媒体に保存をするのが原則になります。また、バックアップデータの保存は要件にはなっていませんが、予期しない自然災害などに備えて、バックアップデータは保存しておいた方がいいでしょう。(4)社内に周知し、運用を開始する
上記(2)で作成した事務処理規定や、上記(3)で構築した業務フローを、社内の従業員に周知して運用を開始します。「宥恕措置」は2023年12月31日で廃止され、その後は「猶予措置」へ
2021年度(令和3年度)の税制改正で電子取引については紙での保存が原則禁止され、2022年(令和4年)1月1日から電子データでの保存が義務付けられました。しかし、その準備が間に合わない事業者に配慮をする形で2年間の「宥恕措置(ゆうじょそち)」が設けられ、2023年(令和5年)12月31日までは紙出力が容認されることとなりました。この「宥恕措置」は、予定通り2023年(令和5年)12月31日で廃止されますが、下記の要件の全てを満たしている場合には、電子取引による紙出力保存を認める「猶予措置」が整備されています。
(2)税務調査の際に、電子取引データのダウンロードの求め及びその電子取引データをプリントアウトした書面の提示・提出の求めにそれぞれ応じることができるようにしている場合
【参考】
●国税庁:電子帳簿保存法の内容が改正されました ※PDF
実務対応における「留意点」とは
次は、実務対応での留意点を整理します。以下は「国税庁の電子帳簿保存法に関する一問一答Q&A」の要点を抜粋したものです。1)電子取引の具体例(問2)
●電子メールにより請求書や領収書等のデータ(PDFファイル等)を受領インターネットのホームページからダウンロードした請求書や領収書等のデータ(PDFファイル等)又はホームページ上に表示される請求書や領収書等の画面印刷を利用
●電子領収書や電子領収書の授受に係るクラウドサービスを利用
クレジットカードの利用明細データ、交通系ICカードによる支払いデータ、スマートフォンアプリによる決済データ等を活用したクラウドサービスを利用
●特定の取引に係るEDIシステムを利用
●ペーパレス化されたFAX機能を持つ複合機を利用
●請求書や領収書等のデータをDVD等の記録媒体を介して受領
2)電子取引のデータ保存についての書面による保存との混在について(問18)
規則性及び継続性なく、保存方法が混在することは認められません。ただし、支店や事業所ごと、取引の相手先ごとなど、明確に区分整理が可能となる単位で同一の保存方法を行っている場合には、それぞれの方法に区分して保存することは差支えありません。3)訂正又は削除の履歴の確保の要件を満たしているシステムとは(問25)
●電子データの訂正・削除について、物理的にできない使用とされているシステム電子データの訂正又は削除を行った場合には、訂正・削除前の電子データの訂正・削除の内容について、記録・保存を行うとともに、事後に検索・閲覧・出力ができるシステム等のシステムが該当します。
おわりに
「電子帳簿保存法」は、事業者に多大な影響を与える制度です。一方で、業務の効率化や資料の印刷費用の削減、資料の保管費用の削減など、事業主にもメリットはあります。このコラムが「電子帳簿保存法」の理解と対応策へのご参考になれば幸いです。
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