「RPO」の定義や注目されている背景とは
「RPO」とは、「Recruitment Process Outsourcing(リクルートメント・プロセス・アウトソーシング)」の略語であり、企業が社内で行っていた採用に関わる業務を外部パートナーに委託する行為を指す。日本では「採用代行」や「採用アウトソーシング」と呼ばれることもある。●「RPO」の起源
1980年代のアメリカで発展した事務代行サービスが、経理や労務、給与計算業務にまで範囲を広げ、その延長線上で採用業務の代行を行う企業が登場した。日本では2000年代から導入が進み、現在では多くの人材紹介会社や人材派遣会社が「RPO」サービスを提供しているほか、「RPO」サービスのみを提供する専業のベンダーも増えている。●「RPO」が注目される理由
日本で「RPO」が注目されるようになった理由は、長らく続く売り手市場による影響が大きい。また、新卒一括採用が形骸化し、転職・キャリア採用が一般化することでWeb・SNS型求人メディアの普及が進み、一つの企業に対する応募者の数が飛躍的に増えたことも要因の一つだ。企業の人事部門では母集団形成や応募者管理、面接・選考・内定といった採用活動にかかる業務量が増加の一途を辿っている。その結果、採用担当者の業務負荷を減らすと同時に、少しでも優秀な人材を獲得すべく自社の採用競争力を向上させたいと考える企業が、「RPO」の利用や導入検討を進める状況が生まれている。「RPO」では実際にどのような採用業務を委託することができるのか
「RPO」で委託できる業務は、候補者管理や面接日程の調整といった事務的な業務だけにとどまらない。採用計画の立案や課題分析のようなコンサルティングに近いものから、母集団形成、書類選考、面接、内定後の研修まで、必要に応じて様々な業務を委託することが可能だ。ここでは一般的な採用業務のプロセスに沿って「RPO」で委託できる代表的な業務を紹介していく。●母集団形成(集客)
「募集計画の立案」から、「実際の集客に活用する求人サイトやダイレクトソーシングサービスの選定」、「求人広告・求人票・スカウトメールの作成」、「インターンシップや企業説明会」、「各種採用イベントの企画・運営」、「リクルーターの選抜など」、人材募集に関わる様々な業務を委託できる。多くの「RPO」ベンダーは、採用チャネル選定に関するノウハウ、求職者の動向、採用市場のトレンドを把握しているため、ベンダーに対して自社のニーズを正確に伝えることで集客力の向上が期待できる。●候補者対応
「応募書類の回収や管理」、「候補者からの問い合わせ対応」、「候補者データの管理」、「面接日程の調整」、「応募・選考に関わる各種連絡業務」など、候補者対応に関する様々な事務作業を委託できる。これらの事務的で煩雑な業務をアウトソーシングすることで、自社の人事部門のリソースを企画や選考といった採用におけるコア業務に集中させやすくなる。●選考
「書類選考や筆記試験」、「Webテストの実施・運営」、「面接会場の設定」、「面接当日の受付・案内」、「各選考段階における成績管管理、合否連絡」など、選考における周辺業務の委託が一般的だが、大規模な採用活動を行う企業では、採用のコア業務とされている面接や合否決定を「RPO」ベンダーに委託することも珍しくない。そのようなケースでは、書類選考と一次面接のスクリーニングのみをベンダーに委託し、重要な最終面接・最終選考については社内の役員と人事部門が担当するなど、選考のフェーズによって役割分担を行うことが多い。●内定
「内定者への連絡業務」、「内定辞退者へのヒアリングや個別面談」、「研修や懇談会、説明会といった内定者向けのイベント企画・運営」など、内定者とのコミュニケーションにおける様々な業務を委託することもできる。ただし、新卒採用における内定者管理は非常に重要な業務となるため、新卒採用に関する豊富な実績・ノウハウを持った「RPO」ベンダーを選定する必要がある。●採用計画
「現状の人材採用や人材活用に関する課題抽出」、「各種採用施策に関する費用対効果の分析」、「採用管理システム(ATS)の選定・導入支援」、「転職エージェントや求人メディア運営会社のコントロール」、「SNSやオウンドメディアを中心とした採用広報施策の企画立案」、「社員定着率向上施策の企画立案」、「面接官・採用担当者・リクルーターの選定とトレーニング」など、人事・採用コンサルティングと呼ばれる領域に近い業務を委託することもできる。単純な事務的業務の代行ではないため、すべての「RPO」ベンダーが対応できるわけではない。また、これらの業務を委託する場合は、会社の経営や事業の根幹に関わる情報を共有しなければならないため、信頼のおけるベンダーに対して段階的に委託していくことが望ましい。気になる「RPO」のメリットとデメリット
採用に関わる事務作業はもちろん、選定するベンダーによっては採用企画や面接・合否決定といったコア業務まで委託できる「RPO」。以下では、「RPO」を導入した際のメリットとデメリットについて解説する。●「RPO」を導入するメリット
・採用力を強化できる「RPO」を請け負うベンダーは、様々な企業の採用活動を経験しているスペシャリストであるため、各社の採用・求人ニーズに合わせて最適な採用手法を選択し、実施することができる。また、ベンダーによってもたらされる客観的な視点からのアドバイスやノウハウを自社の人事部門に取り込むことで、会社としての継続的な採用力強化も期待できる。
・人事部門や採用担当者の負担が減る
業務量に対して人事部門の人数が足りていない場合は、採用に関わる業務を委託することで採用担当者の負担を削減できる。とくに面接の日程調整や応募書類の管理、候補者への連絡業務など、工数のかかるルーチンワークを委託することができれば、社内の採用担当者をコア業務だけに集中させることができ、仕事に対する満足度の向上や業務の質的向上にもつながる。
・人件費や採用コストを削減できる
増え続ける採用業務に対応するために人事部門の社員を増やす方法もあるが、社員を増やすよりも「RPO」で外部に委託する方がコスト的に割安となるケースが多い。また、採用に関する豊富なノウハウを持つ「RPO」ベンダーに任せることによって採用活動全体が効率化されるため、結果として採用コストの削減も期待できる。
・採用のパフォーマンスを可視化できる
採用業務の一部、あるいは大部分を「RPO」ベンダーに委託することで、コストに対する成果を管理しやすくなり、社内の社員だけで採用活動を行っている状態よりも採用のパフォーマンスを可視化しやすくなる。費用対効果がはっきり見えるようになれば、人事部門としても次の一手が打ちやすくなり、さらに効率的な採用活動の推進にもつながる。
●「RPO」を導入するデメリット
・自社に採用のノウハウが蓄積されない採用におけるコア業務を「RPO」ベンダーに任せる場合、ベンダー担当者とのコミュニケーションが不足するようなことがあれば、得られるはずだった採用ノウハウが自社に蓄積されないリスクが生じる。任せる業務が重要なものであればあるほど、ベンダーと定期的に連絡を取り合うなど、ノウハウの共有を行える場を確保しておくことが重要となる。
・ミスマッチが起きる
書類によるスクリーニング、面接や合否決定まで「RPO」ベンダーに任せている場合、企業が求めている要件を満たしていない人材が採用されてしまうリスクが生じる。面接や選考といった採用に関するコア業務を委託する場合は、事前に採用基準や条件についての綿密な擦り合わせが必要になる。
・コストや工数がかかる
「RPO」ベンダーに委託することで採用コストを削減できる場合もあるが、逆にコストが膨らんでしまうケースも少なくない。各ベンダーが設定している料金体系を正確に把握し、現状の採用コストと比較検討した上で委託先を決定することが重要になる。また、自社内で完結する業務と委託する業務の明確な切り分けが行われていない場合、業務を進める際に双方で混乱が生じやすくなり、「アウトソーシングしたことで逆に社内での工数が増えてしまった」という事態に陥る可能性がある。
押さえておきたい「RPO」を進める上でのポイント
最後に「RPO」を有効活用するために押さえておきたいポイントを紹介する。前出のメリット・デメリットと合わせて把握しておくことで、自社へ導入する際の参考にしてほしい。●委託する業務を明確にする
ベンダーによってサービスラインナップが異なるものの、一般的な「RPO」では採用に関する幅広い業務を委託することが可能だ。業務のすべてが採用に関係するものであり、各業務が密接につながり合っているため、一度委託すると知らず知らずのうちに「あれもこれも……」と、任せる業務の幅が広がり続けてしまうことも珍しくない。とくに自社のメンバーが上司の知らないうちに、ベンダーに対して追加業務を頼んでしまうような事態は避けるべきだ。業務の委託を始める前段階で、自社で行う業務と委託する業務の範囲を明確に定めておき、自社のメンバーとベンダーのメンバー双方に対して正確に伝えておきたい。●求める人物像やスキルを明確にする
書類選考や面接を委託する場合は、採用ポジションごとに求める人物像や必要スキルを定義しておき、ベンダーに共有しておく必要がある。その際は「意欲のある人」、「明るい人」といった抽象的な表現ではなく、可能な限り具体的な言葉で言語化し、採用したい人材の詳細なペルソナ(人物像)を共同で策定するような機会を設けておくとミスマッチの削減につながる。また、採用計画などについても単純にアウトプットを受け取るだけではなく、ベンダーとのミーティングやディスカッションを重ねることで、施策に対する共通認識を構築しておくことが大切になる。- 1