2023年(令和5年)7月28日に行われた中央最低賃金審議会において、最低賃金額が更に引き上げられました。その結果、東京都が「1,113円」、愛知県が「1,027円」、大阪府が「1,064円」に決定し、10月から順次適用されています。物価高騰の折、利益を確保するのが困難な中で人件費もアップすることになり、企業にとっては引き続き厳しい経営環境となります。本稿では、賃金額の算定方法や、どのような支援策があるのかをご紹介しましょう。
10月より「最低賃金額」が引き上げ、加重平均額は1,002円に

「最低賃金額」の正しい知識を身に付けよう

「最低賃金額」の対象は“すべての労働者”で、正社員・アルバイトなどの立場は関係なく適用されます。

最低賃金には「地域別最低賃金」と「特定最低賃金」の2種類あります。「地域別最低賃金」は都道府県ごとに適用され、「特定最低賃金」は特定の産業で設定されるものです。また、最低賃金額の考え方は「時給ベース」です。そのため、たとえば月給制の正社員の最低賃金額を把握しようとすると、「時給ベース」に算定し直す必要があります。

●「最低賃金額を下回っていないか」のチェック方法

最低賃金額の対象となる賃金は、「毎月支払われる賃金」が対象となります。したがって、ボーナスなど1ヵ月を超える期間で支払われるものは最低賃金の対象外です。また、毎月支払われるものでも、「精皆勤手当」や「通勤手当」、「家族手当」は最低賃金額の算定から外されます。

さらに、残業代として支払われる「時間外割増賃金」や、休日出勤の際に支給される「休日割増賃金」、深夜業務に従事した際に支給される「深夜割増賃金」も、最低賃金額の計算の対象外です。

ではここで、月給制で働く従業員の最低賃金額を計算する方法をお伝えします。

まず、従業員の「1ヵ月の平均所定労働時間」を把握する必要があります。「1ヵ月の平均所定労働時間」を計算するには、会社カレンダーで年間の所定休日の日数を出します。365日から年間所定休日数を引けば、1年間の出勤日数が出ますので、それを1日の所定労働時間で掛けて12(ヵ月)で割れば、1ヵ月の平均所定労働時間が出ます。

たとえば、年間の所定休日が122日、1日に所定労働時間が8時間だとすると、
(365日-122日)×8時間÷12ヵ月=162時間 →  1ヵ月の平均所定労働時間
となります。

次に、月給額から、通勤手当のような「上記の算定対象外の手当を引いた額」を1ヵ月の平均所定労働時間で割れば時給額が算出されますから、最低賃金額を下回っていないかチェックすることができます。

2023年度の最低賃金額は、発効日以降の労働時間で算定される賃金額から適用されますので、賃金支払日時点で判断するのではないことに注意が必要です。たとえば、発効日が10月1日の場合、「10月1日以降の勤務で算定される賃金額」が、改定された最低賃金額の適用を受けるということになります。

万が一、最低賃金額を下回っていたら速やかに差額を支払うようにしましょう。最低賃金額以上の賃金を支払うことは、「最低賃金法」で定められています。違反すると50万円以下の罰金が課されることになりますので、早めにチェックしましょう。

では次に、最低賃金額の引き上げに対する支援策をご紹介します。

「最低賃金額引き上げ」に対する支援策とは?

厚生労働省では、さまざまな助成金を用意しています。所定の要件を満たせば支給されますので、ぜひ検討したいところです。

●業務改善助成金

「業務改善助成金」では、「事業場内で一番低い時間給を一定額以上引き上げる」とともに、「業務の生産性向上に役立つ設備投資を行う」ことで、その設備投資にかかった費用の一部が助成されます。

設備投資とは、機械設備の導入や、従業員の人材育成、教育訓練などを指します。たとえば飲食店の場合、「これまで従業員が注文やレジ業務を行っていたところに、券売機を導入することで従業員の負担を軽減して生産性を向上させたこと」や、「従業員向けの接客研修や業務マニュアルを整備することで接客サービスを向上させ、業績アップにつなげること」が考えられます。このように設備投資を行うことで生産性や業績をアップさせ、最低賃金額の上昇分を補うわけです。

●キャリアアップ助成金

企業にとって人材確保は喫緊の課題ですが、「優秀な人材をいかに企業に留めておけるか」が重要です。「キャリアアップ助成金」は、“有期雇用労働者を正社員に転換させた場合”に助成されるもので、たとえば、半年更新のアルバイトに対し、賃金を上げた上で正社員にした場合、一人当たり57万円が支給されます(正社員化コース)。

また「キャリアアップ助成金」には、有期雇用労働者の基本給の賃金規定を一定以上増額改定することで助成されるもの(賃金規定等改定コース)もありますので、企業に合ったコースの利用も可能です。

とは言っても、何をどのように利用すればいいのか分からない場合は、「働き方改革推進支援センター」のご利用をお勧めします。回数制限はありますが、無料で相談ができますので、検討されてみてはいかがでしょうか。


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