本連載は『“大企業出身者”を中途採用して活躍を支援する――スタートアップ人事向け指南書』と題して、雇用の流動化が始まった現代における経験者採用のおける予備知識をお伝えすべく、今回スタートしました。
大企業出身者が新しい環境にフィットし、スムーズに即戦力として活躍できる環境作りや支援策についてお伝えしていきます。自社のカルチャーとは異なる業界から人材獲得したいという企業人事や経営者の皆さまの「ヒント」になれば幸いです。
大企業出身者がスタートアップ企業へ転職する背景
本題に入る前に、大企業出身者がスタートアップ企業へと転職する背景について述べていきたいと思います。その背景には主に次のような3つの理由があるようです。【2】ルーティン業務やセクショナリズム環境下からの脱却・新たな環境への渇望
【3】若い世代が理想とするキャリアプランをスタートアップ企業が満たしやすい
今回は、これらの3つの背景を解説していきます。
【1】リスキリングの推奨をきっかけとしたキャリアプランの再考
大企業を中心に、ITをはじめとした時代に適合した新たなスキルの習得を社員に推奨する動きが広がっています。その流れに従い、既に社内研修を受けて新たなスキルを習得し新しい部署で業務に取り組んでいる方々もいることでしょう。その一方で、「これまで培ったスキルは自分にとっても誇りであり、これからも今のスキルを活かした仕事をしていきたい」と考える社員もいます。自分のキャリアプランを再考する場合、「社内でのキャリアプラン」しか考えていなかった人が活路を社外に見出す人達も出て来るのは自然な流れです。今現在の会社ではその人が持つ成熟したスキルは必要がなくなったとしても、スタートアップ企業などは組織が整備段階の会社も数多くありますので、普遍的、基礎的なスキルを求めているケースも多々あります。そのため、大企業で培った知見をスタートアップ企業で発揮しご活躍されるケースもあります。
【2】ルーティン業務やセクショナリズム環境下からの脱却・新たな環境への渇望
ルーティン業務の仕事が中心で、今後も新たなスキルを求められない業務環境、また、積極的に部署をまたいだ活動を行おうとしても、制約がありそれができない、といった、自分の向上心や好奇心を満たせない環境下にいる人の中には、スタートアップ企業の自由な働き方に関心が傾くケースがあります。
実際にはスタートアップ企業は自由闊達というよりは落ち着いてルーティン業務をしたくても常にイレギュラーの事態が発生し、社内で誰か困っている人がいたら部署に関係なく全員で手伝って助け合わないと会社がまわらないというだけの話なのですが……。それが「自由闊達に働いているように見える」というのも事実だと思います。大企業の場合、何千人、何万人の人が同時に自由気ままな行動をしたら統制がとれなくなってしまいますので、ある程度制約された環境下というのは大企業である以上仕方がないともいえますが、その環境下ではもう十分働いたので、今度は新しい自由な職場環境で“チャレンジしたい”という人も増えているのでしょう。
【3】若い世代が理想とするキャリアプランをスタートアップ企業が満たしやすい
「今現在、大企業に勤めていて転職を考えている」という20代の社員の方にインタビューをすると、総じて「上司も優しいし、福利厚生も充実していて今の職場環境には特に不満はないのですが、自分の長期的なキャリアプランが描けないのです」とおっしゃいます。「自分の上には優秀な上司がたくさんいて出世するにも順番待ちなので、自分がリーダーになってやりたいことができるようになるまでの長い年月を、どのようなモチベーションで日々過ごしていけばいいのか」ということを悩まれています。“ホワイトすぎる”環境で働くことに物足りなくなっているようなのです。
そのような人達の前にスタートアップ企業が現れると、自分と同世代の人達が既に幹部として活躍している環境が新鮮で魅力的に映るでしょう。その姿を自分と重ね合わせて、大企業で働くよりも短期間で自分が活躍できるキャリアプランが描きやすいと感じ、転職を決意する人もいます。
それぞれの転職動機に合わせて“カルチャーフィット”をサポートする
このように、一口に「大企業からスタートアップ企業に転職をする」といっても、「スタートアップ企業に自分の知見を提供したい」と考える人から「スタートアップ企業で自分と同世代の人達と自由闊達に働きたい」という人まで、それぞれがイメージする“理想の働き方”は千差万別です。そのため、スタートアップ企業側の人事担当者が大企業出身のオンボーディングをサポートすると言っても、各々のタイプや動機に応じた方法で支援する必要があることはイメージがつくと思います。
期待を胸に大企業からの脱出を決意し、転職される方達がスムーズにカルチャーフィットしていくために、どのようなフォローがよいのか。第2回以降は、そのポイントやコツについてお話したいと思います。
(第2回は2023年9月中旬の公開予定です)
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