『スタートアップ人事向け指南書』として始まった本連載も最終回です。雇用の流動化が始まり、40代・50代のミドルシニアが大企業を退職し、勢いのあるスタートアップ企業に入社することは珍しくありません。組織文化や体制が大きく異なるところから、人材を受け入れてカルチャーフィットしてもらうための「ヒント」を全12回でお伝えしてきました。
▶本シリーズのバックナンバーはこちらからスタートアップ人事向け指南書――“大企業出身者”の活躍支援【連載】
今回は、スタートアップや新規企業の人材育成に有効な「メンター」をどう獲得するかという視点でお話しします。
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今回は、スタートアップや新規企業の人材育成に有効な「メンター」をどう獲得するかという視点でお話しします。
メンターと老害は「紙一重」
この度、新刊『メンターになる人、老害になる人』(クロスメディア・パブリッシング)を上梓しました。【HRプロ】書籍・本 紹介/レビュー
『メンターになる人、老害になる人。』前田 康二郎 (著)(クロスメディア・パブリッシング)
『メンターになる人、老害になる人。』前田 康二郎 (著)(クロスメディア・パブリッシング)
周囲に老害に苦しんでいる人が多く、それを解決するべくお手伝いできないかと考え、老害について調べ始めたのですが、すぐあることに気付きました。周囲に老害になる人の特徴をインタビューして書き出していくと、「人脈のある人」「過去に実績を残している人」など、メンター(仕事、キャリア、ライフプランなどについて助言などをしてくれる、信頼のおける相談相手)の特徴とほぼ一致しているのです。
メンターになる人と老害になる人を別々に想像すると、全く違う人物を私達は想像してしまいがちですが、実はそうではなく、メンターの資質のある人が何かのはずみで老害に転じてしまう、つまり「同一人物」であることが非常に多いということなのです。人を2種類に分類するとしたら「メンターになる人」と「老害になる人」ではなく、「メンターにも老害にもなりうる人」と、「メンターにも老害にもならない人」ということです。
たとえばある会社のベテラン社員が、その人は何の実績もないのに「今どきの若手社員は…」と何かを言ったところで、若手社員から見ても「また何かあのおじさんがわけのわからないことを言っているね」で終わりです。老害にもなりえません。しかし実績のある上司が「今どきの若手社員は…」と言い出したら、話が変わってきます。若手社員の実績が出ていないと「君たちのやり方ではダメだ。もっと私のやり方のように…」と、「良かれと思って」のアドバイスが始まります。実績がある上司が言うアドバイスは無下にできないので、若手社員は「自分達のやりたいやり方があるのに…」と思いつつ、受け入れざるを得ない雰囲気にさせられていきます。
これがもし、若手社員の側から実績のある上司に「私達のやり方では実績が出ないので相談に乗って頂けませんか」と言われてアドバイスをするなら全く問題ありません。しかし若手社員から何もお願いされていないのに良かれと思って上司が一方的にアドバイスをしてしまうとその行為が「余計なお世話」として老害認定されてしまうことが出てくるのです。
「実績がある上司」は、一般的にはメンターとなりますが、実績があるがゆえに自分のやり方を押し付けたり、違うやり方で成果を上げた人を「そのやり方は良くない」と認めなかったりといった老害にも転じてしまうこともあるのです。
大企業にはメンターも老害もいるが、スタートアップ企業にはそれらが少ない物理的理由
また、メンターや老害というのは、スタートアップ企業にはほぼ存在しません。なぜかというと会社の歴史がないからです。「社歴〇年のベテラン社員」もいなければ「伝説の営業社員」といったOBも存在しません。だから「自分が自分のメンター」となって自己管理をし、自分を叱咤激励しなければいけないということです。それでは、大企業はどうでしょうか。大企業は歴史のある会社がほとんどですからまず実績のある前経営者の方達をはじめOBがたくさんおられます。そして組織の階層も多いですから、上司もたくさんいます。つまり大企業にはメンターも老害もたくさん存在する可能性が高いということです。
大企業とスタートアップ企業とを比較すると、もし多くのメンターが存在している大企業でしたら、現役社員は自分の上司やOBの方達に仕事の悩みや相談をたくさんできますので、スタートアップ企業の社員に比べて実績も出やすく、さまざまな知見も得られることでしょう。半面、もし老害ばかりがはびこっている大企業の組織でしたら、スタートアップ企業の社員に比べて、社内の慣習や周囲のさまざまな意見に翻弄され、自分が描いていた社会人生活ができずにストレスを募らせることでしょう。
総務人事担当者は大企業出身者がメンターとなるようサポートを
そのように考えると、大企業出身者が心機一転、スタートアップ企業に転職をしてきた場合、その人がメンター的存在になるのか、それとも老害的存在になってしまうのかはご本人にとっても、また、受け入れる会社側にとっても、大きな分かれ目になります。前述したようにスタートアップ企業は仕方なく各自が自分で自分のメンターとなっているわけですから、他社から新たなメンターが転職してきてくれたら大歓迎です。「前職の大企業ではこの規則はどのように策定していたのか教えていただけませんか?」など、頼られ、慕われてメンター的存在となりご活躍されることでしょう。
それに対して、老害的なふるまいを転職してきた人がしたらどうなるでしょうか。「なんだ、このスタートアップ企業は。規則も全然揃っていないじゃないか。仕方がない。この私が1から教えてあげよう」と頼まれてもいないのに「良かれと思って」口出しをして、口出しをした相手から「何なんですかあの人。実績があるのか知りませんがこちらから何も頼んでもいないのに『1から教えてあげよう』って偉そうですよね。老害じゃないですか」となってしまう危険性もあります。
総務人事担当者の方達は、大企業出身者の方達がスタートアップ企業にとっての「メンター的存在」となるように、既存社員との関係性の構築においてサポートをしていただくと良いと思います。
これからさらに求められるメンター的人材
政府(経済産業省)から2024年6月に発表されているスタートアップ支援の中にも、「メンターによる若手人材の発掘・育成」という項目が取り上げられています。一人ひとりが自分の得意な知見を活かして「誰もが誰かのメンターになる」ことを目指し、互いに励まし、支え合える職場環境作りを目指していきましょう。- 1