「不適切」をテーマにした、昭和と令和(2024年)のギャップを描いたドラマが話題を集めました。パワハラや働き方改革などの人事の課題が取り上げられ、組織における多様性やコンプライアンスのギャップを問うような場面も多く見られました。
これに類するようなギャップは、大企業とスタートアップ間にもあるのはないでしょうか。

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【10】「昭和と令和」のように「大企業とスタートアップ」にもギャップはあるか?

令和の時代にも昭和仕込みの“不適切な行為”が現存する?

スタートアップ企業にはさまざまなバックボーンの人達が集まってきますから、社員同士のコミュニケーションギャップやトラブルが発生します。私が見て来た経験上、「威嚇」や「威圧」のようなトラブルは大企業出身者の人が優位な立場を利用して、行われることが多いように感じます。

知人のコンサルタントから聞いた案件でも、大企業からスタートアップ企業に転職してきた人が、怒り出すと机を「バンバン!」と叩く癖があり、それが怒りの度合が高くなると社内中に響き渡るほどの大音量で叩くのだそうです。相対している人だけでなく、周囲にいる人も「あの人がまた机をバンバンするのかと想像しただけで、胸がキュッとします」と話していたそうなのです。以前に大ヒットした銀行を舞台としたドラマでも全く同じシーンを見かけたことがあります。事実は小説よりも奇なりで、令和の時代でもまだそういうことがあるのだと驚きました。

知人は、「それなら三三七拍子のように、こちらも『バンバンバン!』と叩き返せばいいんですよ。そういう人は本来、気が弱い性格かもしれませんよ」とアドバイスしたそうです。すると、社員の皆さんがドッと笑い、それでひとまず場が和んだということもあったそうです。おそらく、前職でも日常的にそのような行為があったのかもしれませんし、自身がそうされていたのかもしれません。いずれにせよ「場合や状況によっては、やっても良いこと」という誤った認識でいるということでしょう。

大企業とスタートアップでは「生き残り」の主語が異なる

「組織の中で自分が生き残る」ということを考えた場合、大企業であれば「100人の同期の中からどうやって最終的に自分が一人だけ生き残れるか」「優秀な先輩を飛び越して生き残れるか」はきれいごとではない現実だと思います。そういった競争が苦手な人は、大企業では生き残ることが大変なのではないかと思います。
一方で、スタートアップ企業なら社長も含め全従業員が10人だとしたら、「10人全員」が生き残ることかがまず重要です。そして。そこから30人、50人、100人、1,000人と規模を増やすことが会社組織として「生き残る」ということになります。つまり、大企業の「生き残り」は個人のことを指し、スタートアップ企業の「生き残り」は会社そのものを指します。まず、その違いを認識しておく必要があります。

大企業では、階層が上がるにつれて、全員が役職者になれるわけではありませんから、おのずと「自分がどう生き残るか」という発想になりやすいものです。大企業と違い、スタートアップ企業は最低限の人数でまわしている会社が多いので、そのような威嚇や威圧によって社員が一人でも辞めてしまうと会社全体に影響が及び、経営への懸念も出てきます。スタートアップ企業は、一人の社員の入社や離職が、会社そのものの浮き沈みに大きな影響を及ぼします。「全員でいかに生き残り続けるか」というマインドセットでなければいけません。大企業とスタートアップ企業との大きな考え方の違いがここにあります。

スタートアップ企業の場合は「全員で生き残って成功しよう」ということが当面の目標です。そのように考えると、個人のとるべき行動が大企業とは根本から違うということがおわかりになることでしょう。大企業に居た時はライバルを威嚇して、自分だけが生き残ってきた人がスタートアップ企業でも同じことをやったらどうでしょうか? 一人減り、二人減り、結果として自分一人が生き残ったとしても、会社そのものが潰れることにつながり、最終的に倒産して自分も失職することになります。

組織のカルチャーを醸成する「人事評価」のポイントも異なる

スタートアップ企業では、評価制度が整っていないというところも多いことでしょう。ある程度規模が大きくなってから本格的に始めるのが一般的かもしれません。
しかし、組織づくりの観点からいうと評価項目や基準は早いうちに整備するのが良いでしょう。バリュー(行動指針)を明文化し、入社時やオンボーディング面談で人事から中途入社の方へ伝えるようにするのがベストです。

スタートアップ企業は、周囲を競争で蹴落として生き残っていくという発想ではなく、周囲を励まし、支え、全員で生き残るために尽力してくれる人が会社からも評価されるということを人事担当者の皆様はしっかりお伝えいただきたいと思います。
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