中途採用者の「即戦力採用」によって起こり得る採用ミスマッチ
他社で就業経験を持つ者を中途採用する場合、どのような点を選考ポイントとするだろうか。もちろん採用時の着眼点はさまざまだが、一般的には前職での業務経験を採否決定の大きな要素とするだろう。例えば営業職の欠員を補充するのであれば、前職での営業経験を持つ者を採用することが多いものだ。前職までの経験を活かしてもらうことで、「即戦力として活躍してほしい」と考えるためである。しかしながら、即戦力と思って採用した人材が、仕事の進め方において既存社員と折り合わず、職場で思わぬトラブル因子になることがある。例えば、中途で採用した営業人材が、「職場では自分の成績を上げるために最善を尽くすことが重要である」という仕事観・職場観を持っていたとする。これに対し、既存の営業社員が「職場では皆で協力をして仕事を進めることが重要である」という仕事観・職場観を持っていたらどうだろう。
恐らく、採用された中途採用者は、自身の価値観に基づき「いかにして自分の営業成績を上げるか」に腐心するだろう。しかし、そのような仕事の進め方は既存社員に必ずしも受け入れられず、職場内での対立・不和の原因になってしまう可能性がある。その結果、就業環境が悪化し、既存社員の退職さえ起こりかねないものである。
「会社として譲れない価値観」は中途採用者に採用段階で明示を
中途採用にあたり、候補者の前職までの職務経験を考慮することはもちろん必要だ。しかしながら、それ以上に留意をしたいのが、採用者が「仕事や職場に対してどのような価値観を持っているか」である。職務経験は採用後に補えるが、仕事や職場に対する価値観は採用後に変えることが困難なためだ。従って、中途採用において価値観のミスマッチに起因するトラブルを回避するには、採用手続きの段階で「社員に求める仕事観・職場観」を明確に提示することが必要となる。自社が保有する“どうしても譲れない価値観”を明確にし、応募者に「どのような働きぶりをする人材を求めているのか」を具体的に提示するのである。
例えば、面接の段階で「当社は『職場では皆で協力をして仕事を進めることが重要である』との考えを強く持っており、全社員にそのような働き方を徹底してもらいます。あなたも当社に入社したら、この考え方に従って勤務できますか?」といった質問をしてみよう。異なる仕事観・職場観を持つ人材が採用面接でこのような質問を明確に受けた場合には、「この会社は自分には合わない」などと判断し、応募を撤回するケースもあるかもしれない。
中途採用者が発する「求める価値観」と異なる言動を黙認しない
もちろん、面接で「社員に求める仕事観・職場観」を明示しても、異なる価値観を持つ人材が応募を撤回せず、採用に至ることも少なくないだろう。その結果、中途採用者が面接で受けた説明を忘れ、企業側が求める価値観とは異なる言動を職場でとるかもしれない。そのような場合には決して黙認をせず、自社の価値観に沿った業務遂行に徹するよう明確に指導することが重要になる。そのような指導に対し、中途採用者が異議を唱えることは簡単ではない。採用段階で「企業側の価値観に沿った勤務姿勢が求められる」との説明を明確に受けており、その上で雇用契約書にサインをしているためである。
従って、「企業側が求める価値観」と異なる言動に対しては、妥協をせずに根気よく指導を続けることが重要と言える。その結果、中途採用者本人が仕事観・職場観の異なる企業で勤務する困難性を認識した場合には、自ら職場を去ることもあるだろう。あるいは、本人が「どうしてもこの職場に残りたい」と考えれば、自身の仕事観・職場観の修正を試みるかもしれない。いずれにしても、価値観の相違に起因する就業環境の悪化については、これによって削減が期待できることになる。
中途採用者に求めたい「文化的適性」
一般的に仕事や職場に対する価値観は、初めて社会に出た際に所属した職場環境に依存する傾向が強い。最初に勤めた企業や指導を受けた上司・先輩の価値観が、社会人になりたての若年社員に多大な影響を及ぼすのである。そのため、一定の職歴を持つ中途採用者の仕事観・職場観は固定化しており、変えるのが困難であることが多い。このような事情から、得てして中途採用者の保有する価値観は問題になりがちである。
価値観に基づく勤務適性のことを「文化的適性」などという。企業側と仕事観・職場観が乖離した中途採用者は、当該企業に対する文化的適性が低いため、職場トラブルの原因となることが少なくない。好ましい職場環境を維持するためには、文化的適性に優れた人材を雇用することも重要と言えよう。
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