「フリーランス新法」の概要とは
まず、「フリーランス新法」により保護の対象とされるのは、「従業員のいない事業者」です。個人事業主だけでなく、従業員を雇用していない法人の代表者も含みます(以下、フリーランス)。一方、「フリーランス新法」により様々な対応を義務付けられるのは、「従業員を使用する事業者」です。このように、「フリーランス新法」では、従業員の有無がポイントになりますが、短期間・短時間等、一時的に労働者を雇用しているだけの場合は「従業員がいない事業者」とみなします。そのため、フリーランスが、同じくフリーランスへ業務委託する場合は、原則この法律の対象にはなりませんし、従業員のいる事業者同士で業務委託契約をする場合も、同じく対象になりません。
ただし、フリーランス新法の適用を受けない取引でも、「下請法」等、他の法律の適用を受けることとなります。
今回、この法律で定められたのは、「取引の適正化」と「就業環境の整備」です。具体的には、下記の内容が義務付けられました。
1)取引の適正化
●書面等での条件明示業務委託をする場合には、「納品物の内容」、「報酬の額」、「支払期日等の事項」を書面等により明示しなければいけません。書面でなくとも、メールやWebページ、電子ファイルの送付で問題ありませんが、フリーランスがファイル等へ書面を出力できる方法が求められます。(なお、書面等での条件明示のみ、フリーランス同士の取引でも義務化されています。)
●納品物受領日から60日以内の報酬支払
報酬の支払期日が明確に定められました。委託した業務の納品を受けた日から60日以内で支払日を設定し、支払うことが求められます。
●禁止事項の定め
業務委託に際し、下記の禁止事項が明確に定められました。(1)~(5)は禁止事項、(6)(7)はこれによりフリーランスの利益を不当に害してはならない事項、として定められています。
(2)フリーランスの責めに帰すべき事由なく報酬を減額すること
(3)フリーランスの責めに帰すべき事由なく返品を行うこと
(4)通常相場に比べ著しく低い報酬の額を不当に定めること
(5)正当な理由なく自己の指定する物の購入・役務の利用を強制すること
(6)自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること
(7)フリーランスの責めに帰すべき事由なく内容を変更させ、又はやり直させること
2)就業環境の整備
●フリーランスが育児介護等と両立しながら業務を行えるよう、申出に応じて必要な配慮をしなければならない
●フリーランスに対するハラスメントの相談窓口設置等の体制整備の措置を講じなければならない
●継続的業務委託を中途解約する場合には、原則解約日の30日前に予告しなければならない
なお、これらの違反行為に対しては、公正取引委員会等による、助言、指導、報告徴収・立入検査、勧告、公表、命令が行われることがある上、命令違反や検査拒否等に対しては、50万円以下の罰金が科せられることも定められています。
施行に伴い企業が対応すべきこと
フリーランスへ業務委託する場合、各企業は先述の措置を講じなければなりません。この法律は、公布から1年6ヵ月以内に施行されることになっています。施行日間近で慌てないよう、早めに準備しておきましょう。●契約書などの雛形、社内手順を確認する
書面等で条件明示が義務付けられた内容が現在の契約書に記載されているか確認し、不足があれば追加しましょう。現在契約書等を交わしていない場合、明示用の雛形を新しく作成しておくことを推奨します。また、現在の報酬支払期日が納品日から60日以内になっているかも確認し、対応できていない場合には改善策を講じましょう。●禁止事項が行われていないかチェックする
法律にて禁止された事項が行われていないかも確認が必要です。こういった禁止事項は現場で行われていることも珍しくありませんので、現場レベルの従業員へも周知します。研修等を定期的に行うことも有効です。●ハラスメント相談体制を整備する
現在、全事業場にて労働者向けのハラスメントの相談窓口設置が義務化されています。その窓口をフリーランスも使えるようにする等でも問題ありません。取引条件を書面で明示する際に相談窓口の情報も記載しておく等、確実に周知できるような対応を検討しましょう。副業・兼業の広がりに伴い、フリーランスは今後も増えていくことが想定されます。近年では、フリーランスを労働者と同じように働かせたことによるトラブルも散見され、「労働者でないなら、保護は不要」という考え方だと大きなリスクを抱えます。とはいえ、優秀なフリーランスと取引をすることは企業にとってメリットにもなります。自社の取引状況を再確認していただければ幸いです。
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