社会やビジネスが変化するスピードは、ますます加速している。いかに対応していくかが、すべての企業の課題となっている。その道標となるフレームワークとして、近年注目されているのが「OODAループ」だ。ただ、言葉自体を聞いたことはあっても、「OODAループ」とはどのような考え方なのか、メリットは何なのか、「PDCAサイクル」とどこが違うのかをしっかりと理解している方は、まだまだ多くはないのではないだろうか。そこで本稿では、「OODAループ」にフォーカスし、その意味やメリットとデメリット、効果的な実践方法、具体例についてわかりやすく解説する。
「OODA(ウーダ)ループ」の意味やメリットとは? PDCAサイクルとの違いや手順を解説

「OODAループ」の意味とは?

「OODA」とは、米国空軍のジョン・ボイド大佐が提唱した意思決定のプロセスだ。根幹にあるのは、「素早く、何度でも動く」という考え方である。変化が速い環境・状況に適応しやすいのが特徴といえる。「OODA」とは、「Observe(観察)」、「Orient(方向づけ)」、「Decide(意思決定)」、「Act(行動)」という4つのプロセスの頭文字を指しており、ウーダと読む。「OODAループ」と呼ばれるように、Act(行動)を次のObserve(観察)につなげて繰り返し行ったり、必要に応じて前段階のプロセスに戻って再開したりと、変化に柔軟に対応していくことが可能なメソッドである。

「OODA」の4つのステップ

「OODAループ」は、それぞれのステップについて詳しく解説していこう。

(1)Observe(観察)

「OODAループ」ならではのポイントの一つは、この「Observe(観察)」というプロセスが入っていることだ。置かれている状況や周囲の環境を客観的に観察し、現状を正しく認識することが重要となる。具体的には、業界や市場、顧客、競合、新しい技術、社内環境などの状況や変化に着目していく。あくまでも、「生のデータ」を集めることが前提となる。

その際に、心がけたいのは状況をありのままに受け入れることだ。過去の経験をベースにするとどうしても常識に捉われてしまうからである。

(2)Orient(方向づけ)

次に、Observeで得られたさまざまな情報・生データをもとに今の状況がどうなっているか、何か変化がないか、新しい動きが起きていないかを見極める。また、どうしたら現状よりも良い結果を得られるか考え、そのために取るべき行動を方向づける。

(3)Decide(意思決定)

(1)のObserveで観察したことがなぜ起きているのか。その状況を判断した上で、今すぐにでも打てる具体的な方策や手段を設定し、いずれの行動を取るか意思決定を行う。この段階で、判断材料が足りないと気づいたら、Observeに戻って別な観点からループすることもできる。

(4)Act(行動)

決めたことを計画に沿って行動に移していく。さらに、行動した結果としてもたらされた変化を再び観察して、次の「OODAループ」につなげていくことでより大きな成果が得られる。その際には、再びObserveに戻ることもできるし、必要に応じて他の段階に戻り、ループを再開することも可能だ。
「OODA(ウーダ)ループ」の意味やメリットとは? PDCAサイクルとの違いや手順を解説

「OODAループ」と「PDCAサイクル」の違いとは?

「OODAループ」と「PDCAサイクル」は、いずれもマネジメントの手法であり、類似しているように見えるかもしれないが、実はプロセスも目的も異なる。どのような違いがあるのか理解しておきたい。

●「OODAループ」と「PDCAサイクル」の違い

「PDCAサイクル」とは、「Plan(計画)」、「Do(実行)」、「Check(評価)」、「Act(改善)」という一連のプロセスを繰り返しながら業務改善を図るフレームワークだ。この循環を繰り返すことでレベルがアップし、大きな成果につなげていくことができる。

留意しておきたいのは、「PDCAサイクル」の本質は改善に向けたトライアンドエラーの繰り返しであること。「試す」、「振り返る」、「再度試す」を続けることで初めて成長が得られる。言い換えれば、「PDCAサイクル」は後戻りするのが難しいということだ。また、結果やプロセスに比重が置かれているのも「PDCAサイクル」の特徴だ。そのため、状況や前提が変わらない中で中長期的な視点に立って最適解を見つけていくのに役立つ。

一方、「OODA」はループと呼ばれることもあって、必要に応じて任意の段階に戻ってループを再開できる。しかも、過去の経験やしがらみに問われることなく、あくまでも状況に応じた行動を取れるよう設計されている。この点は、大きな違いと言える。「市場動向が変わった」、「顧客のニーズに変化が見られる」などに対応するために、とにかく迅速に行動したいといったケースで効果を発揮しやすいと言える。

●速度や自由度の違い

Plan(計画)を起点に4つのプロセスを順番に回していく「PDCAサイクル」に比べ、「OODAループ」は自由度が高く、変化に対応しやすい。それだけにスピード感がある。この点も両者の大きな違いといえる。

ただし、自由度や柔軟性が高いだけに、「何に着眼して観察するか」、「集めたデータをいかに情報処理するか」といったスキルが求められることも認識しておきたい。

●「OODA」は「意思決定」、「PDCA」は「業務改善・効率化」に適したフレームワーク

「OODA」は「観察」から始まることもあって、変化が速い状況に対応しやすい。そのため、VUCAの時代に象徴されるような変化の多い状況において、スピーディな意思決定を行うのに適している。

これに対して、「PDCA」は「目標設定」から始まるため、目標がクリアになりブレのない取り組みができる。ただ、一旦目標を決めてしまうと修正がしにくいこともあって、変化があまりない環境での業務改善や業務効率化に向けた取り組みにより適しているといえる。

「OODAループ」が注目されている背景

「OODA」ループが注目されている背景には、以下のような環境変化がある。

●ビジネス環境の急速な変化

近年のビジネス環境は、技術革新やグローバル化の影響により、かつてないほど急速に変化している。そのため「PDCAサイクル」では、計画から実行までの時間が長く、環境の変化に追いつけないケースが増えている。その点、「OODAループ」は、状況を素早く観察し、即座に行動に移せるため、変化の激しい環境に適している。

●VUCAの時代への対応

現代はVUCAの時代と呼ばれ、先行きが不透明な状況が続いている。現代に求められる柔軟性と即応性があり、不確実性の高い環境下での意思決定に適している「OODAループ」が注目されている。

●AIとSNSの急速な発展

AIやSNSの発展により、情報の流通速度が飛躍的に向上したことにより、市場動向や顧客ニーズの変化がより早く、より頻繁に起こるようになった。「OODAループ」は、こうした急激に変わる情報環境下での意思決定に適しており、競合他社に先んじて行動を起こすことができる。

「OODAループ」のメリット

次に、「OODAループ」にはどのようなメリットがあるのかを考察したい。

●スピード感のある対応ができる

何をするにしてもスピード感が求められるVUCAの時代では、正しい判断を下しても、タイミングを逸してしまっては効力を発揮できない。それは、経営陣でも現場でも同様だ。「OODAループ」は計画から始まるのではなく、その場の状況を観察するところから始まるので、その分変化に速く気づき、迅速に適切な行動をとりやすい。この思考を活用すればより効果的な対応につなげられる。

●現状に沿った適切な行動がとりやすい

「OODAループ」は、シンプルに言えば「状況をふまえて、まずは有効だと思える手を打ってみよう」というフレームワークだ。「PDCA」のように経営層や上層部の計画立案、計画策定を待ってから行動するわけではないので、現場からすると目の前の状況に合わせて自分たちが適切だと思える行動が取りやすい。

●自律的に問題解決できる習慣が身につく

「OODAループ」では、状況に応じて素早く判断し行動を起こせる。そのため、「OODA」ループを繰り返していけば、自ずとさまざまな切り口を試行錯誤しながら、課題や問題に臨機応変に対応していくスキルや習慣を身に付けることができる。ひいては、問題を先延ばしすることなく、いち早く改善に取り組める組織作りにつながるだろう。

「OODAループ」のデメリット

「OODAループ」にはメリットだけでなくデメリットもある。以下の3点は理解しておきたい。

●場当たり的な施策を行ってしまいやすい

「PDCAサイクル」では、全員が同じ計画を共有してその達成・実現に向けて動いていく。それだけに、統制はしやすい傾向がある。だが、「OODAループ」の場合は、ビジョンやミッション、目的の共有が十分にできていなかったりすると、それぞれのメンバーが場当たり的な施策を行ってしまうことがあり得る。その場の思い付きや感情を優先して行動してしまうからだ。それを防ぐためにも、「OODAループ」の手順を適切に踏むとともに、「Orient」の段階で情報整理を誤らないことが肝要だ。

●中長期的な計画の策定には適していない

既に説明した通りだが、中長期的な計画を策定するなら、結果を確認しながらトライアンドエラーを重ねていく「PDCAサイクル」の方が向いている。あくまでも、「OODAループ」が役立つのは新規事業を立ち上げるであるとか、起業をするなど見通しが立ちにくい状況といえる。

●PDCAと比べて失敗のリスクが高い

「OODAループ」は迅速な意思決定と行動を重視するぶん、綿密な計画策定や評価のステップを設けないため失敗のリスクは「PDCAサイクル」と比較するとどうしても高くなる。特に、最初の観察や状況判断を誤ってしまうと、間違った結果に至る可能性が上がる。

「OODAループ」を効果的に回すポイント

次に、「OODAループ」を効果的に回していくためのポイントをあげていこう。

●ビジョンや目標を共有して方向性を合わせる

まずは、チーム全体でビジョンや目標を共有・理解した上で、どのような方向性に向かうかを落とし込むことである。何故なら、目標やビジョンが上手く設定できると、「OODAループ」もより円滑に機能するからだ。メンバーとしても、どうしたら描き出されたビジョンに近づけるかを積極的に考えることになり、その分施策もスピーディに進められる。

もう一つ、方向性を合せる理由としては、「OODAループ」に基づくと、メンバーそれぞれの裁量権が大きくなりやすいということだ。そのため、どうしてもチーム全体として同じ方向に向いている必要がある。目標を提示し共有を促すとともに、メンバー一人ひとりの責任をクリアにするのはリーダーの役割となってくる。

●「Observe」と「Orient」は複数の視点から、仮説を立てて行う

「OODAループ」を実行する際には、前述のとおり場当たり的にならない工夫が必要である。対策として、前もって仮説を立てるようにしたい。その仮説への反応を見ることで有益な「Observe」「Orient」を行うこともできる。さらに根拠を強めるため、いずれも複数の視点から、論理的に仮説を立てることが有効となる。

●チームで定期的に議論の場を設ける

「OODAループ」の計画を策定する時には、チーム内で議論の機会を積み重ねる必要がある。打ち出されたビジョンや目標についても、同僚同士だけでなく上司と部下の間でも議論することで、より狙いが洗練され、メンバー全体が方向性に納得感を持つことができる。その状態で「OODAループ」をスタートさせるのが理想となる。

「OODAループ」の具体例

「OODAループ」は様々なビジネスシーンで活用できる。以下で具体例を紹介しよう。

(1)採用活動

採用活動において「OODAループ」を活用することで、採用市場の変化に柔軟に対応し、優秀な人材の獲得を図っていける。

・Observe(観察): 労働市場の動向、競合他社の採用戦略、応募者の反応を注視する。
・Orient(状況判断): 自社の採用ニーズと市場状況を照らし合わせ、最適な採用戦略を検討する。
・Decide(意思決定): 新しい採用チャネルの開拓や、面接プロセスの改善など、具体的な施策を決定する。
・Act(行動): 決定した施策を迅速に実行に移す。例えば、オンライン面接の導入やSNSを活用した採用広報の強化など。

(2)従業員エンゲージメント向上施策

「OODAループ」を使って従業員のニーズに即した施策を実施することで、従業員のモチベーション向上にもつなげることができる。

・Observe:従業員満足度調査の結果、退職率、生産性指標などのデータを収集・分析する。
・Orient:収集したデータから、エンゲージメント低下の要因を特定し、改善の方向性を見出す。
・Decide:リモートワーク制度の拡充、キャリア開発プログラムの導入、オフィス環境の改善など、具体的な施策を決定する。
・Act:決定した施策を実行する。例えば、フレックスタイム制の導入や、定期的な1on1ミーティングの実施など。

(3)マーケティング

「OODAループ」をマーケティングにも活用することで、市場の変化に即座に対応し、効果的なマーケティング活動を進めていける。

・Observe:市場動向、競合他社の動き、顧客の反応をリアルタイムで観察する。
・Orient:収集した情報を分析し、自社製品やサービスの強みを活かせる戦略を検討する。
・Decide:ターゲット顧客層の絞り込み、メッセージの調整、使用するマーケティングチャネルの選定など、具体的な施策を決める。
・Act:決定した施策を実行する。例えば、SNS広告の出稿、インフルエンサーマーケティングの実施、期間限定キャンペーンの展開など。

まとめ

長らくスタンダードとされてきた「PDCAサイクル」だが、近年は「時代に沿わなくなってきた」という指摘を良く耳にする。「OODAループ」が注目されているのも「PDCAサイクル」に変わりゆくフレームワークとなると捉えられているからではないだろうか。

しかし、そもそもこの両者はコンセプトもプロセスも違う。「どちらが良い」、「こちらは使えない」などと一刀両断するのは疑問を感じざるを得ない。むしろ、両者の特性を認識した上で使い分けをすべきではないだろうか。

例えば、変化があまりない市場で自社の既存商品・サービスのシェアをいかに高めるかであれば、「PDCAサイクル」を選択する。一方、新規商品・サービスを市場に投入していくケースであれば「OODAループ」を選択するのが賢明であろう。このように、ケースバイケースで対応を講じたい。

よくある質問

●「OODAループ」のメリットは?

変化に速く気づき、迅速に適切な行動をとりやすい「OODA」ループには「スピード感のある対応ができる」、「現状に沿った適切な行動がとりやすい」、「自律的に問題解決できる習慣が身につく」などのメリットがある。

●「OODAループ」のデメリットは?

「OODAループ」は速度を重視するため、「統制が取りづらい」、「場当たり的な施策を行ってしまいやすい、「中長期的な計画の策定には適していない」、「PDCAと比べて失敗のリスクが高い」などのデメリットがある。
  • 1

この記事にリアクションをお願いします!