「雇用契約書」と「労働条件通知書」の違いを3つのポイントで解説
「雇用契約書」と「労働条件通知書」を定義すると次のとおりである。労働者と雇用主との間の労働契約の内容を明らかにするための双務契約書
●労働条件通知書
雇用契約を締結する際に、雇用主側から労働者側に通知する義務のある事項が記載されている書面
では、両者の違いはどこにあるのだろうか。
1)法律上の義務があるかどうか
「雇用契約書」には法律上の作成義務がない。「民法」上の契約の種類には「要式契約」と「不要式契約」があり、例えば「保証契約」では、「民法」第446条第2項の規定により、書面でしなければ効力を生じないとされている。本題の雇用契約は「不要式契約」とされており、口頭であっても有効に成立する。ただし、民法の特別法である「労働契約法」において、「労働契約の内容について、できる限り書面によって確認するものとする」と定められてはいる。一方、「労働条件通知書」は「労働基準法」第15条第1項及び同法施行規則第5条第4項の規定により、雇用主側に作成義務及び労働者への書面交付等の義務がある。これは、「労働法」の基調ともなっている「労働者保護」の一環であると捉えればよい。
2)記載事項が法定されているかどうか
「雇用契約書」には記載事項が決められていない。一方「労働条件通知書」には、後述のとおり「労働基準法」及び同法施行規則によって、記載すべき事項が厳格に定められている。3)雇用主側・労働者側双方の署名捺印又は記名捺印が必要かどうか
「雇用契約書」は契約であるから、当事者双方が署名捺印又は記名捺印して締結する。一方、「労働条件通知書」は、雇用主側が作成して労働者へ交付するものであり、労働者側が署名捺印又は記名捺印することはない。両者には以上のような相違点があるが、実務上は「雇用契約書 兼 労働条件通知書」として、雇用契約書に“労働条件通知書に記載が義務づけられている事項”を包含させた内容で締結すべきだろう。そうすれば、雇用契約書を締結及び労働条件通知書を交付したのと同じ効果が得られることになる。
「雇用契約書 兼 労働条件通知書」に記載すべき事項
「雇用契約書 兼 労働条件通知書」を作成する場合、労働条件通知書に記載が求められている事項すべてを、雇用契約書にも記載しなければならない。具体的には次のとおりである。●労働契約の期間
●有期の雇用契約で契約を更新する場合があるときはその基準
●就業の場所
●従事する業務の内容
●始業時刻・終業時刻
●所定労働時間を超える労働の有無
●休憩時間
●休日
●休暇
●交替制勤務をさせる場合は交替期日あるいは交替順序等に関する事項
●賃金の決定・計算方法
●賃金の支払方法
●賃金の締切り・支払の時期
●退職に関する事項 (解雇の事由を含む)
なお、雇用する労働者がパートタイマーまたは契約社員等である場合は、上記の14項目に加えて、以下の4項目についても明示・記載することが必須となっているので失念しないようにしたい。
●昇給の有無
●賞与支給の有無
●短時間・有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する事項に係る相談窓口
次に、該当する制度や定めがある場合は必ず記載しなければならないのが「相対的明示記載事項」である。
●昇給に関する事項 ※定めの有無にかかわらず明示が必要
●退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
●臨時に支払われる賃金(退職手当を除く)、賞与
●1ヵ月を超える期間の出勤成績によって支給される精勤手当
●1ヵ月を超える一定期間の継続勤務に対して支給される勤続手当
●1ヵ月を超える期間にわたる事由によって算定される奨励加給又は能率手当
●最低賃金額に関する事項
●労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項
●安全及び衛生に関する事項
●職業訓練に関する事項
●災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
●表彰及び制裁に関する事項
●休職に関する事項
書類作成時に注意すべき4つのポイント
以下、注意すべきポイントを簡単にまとめておこう。1)記載が必要な項目の漏れがないようにする
2)従事する業務の内容を職務記述書程度に詳細に記載する
3)転勤や人事異動、職種変更の有無を明確に記載する
4)試用期間の内容について、就業規則との整合性や期間の妥当性に留意して記載する
「雇用契約書」を締結すると、雇用主側も労働者側も契約内容に拘束されることになる。ただし、強行法規たる「労働基準法」に違反している場合(「労働基準法」第13条)や就業規則に定める労働条件を下回る内容は無効となることを十分に理解しておこう。
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