■学生の心を掴むことができないプレゼンテーションとは?
採用広報が解禁されると採用担当者は、個別企業セミナーだけでなく、合同企業説明会や学内企業セミナーなどで学生と直接対面して、自社の企業概要や仕事内容について話す場が増えてきます。就職ナビだけでなく採用ホームページや入社案内など、自社の魅力を伝えるコミュニケーションツールは年々変化しているように見えます。しかし、採用担当者が自ら直接学生に自社や仕事について語る「プレゼンテーション」という手法は、すべての企業が必ず毎年行うことであり、志望企業を決める学生にとっても大きな影響力を持っているものなのです。年間何十回と学生の前で話す機会のある採用担当者という職種であっても、決して「話しのプロ」であるわけではありません。なかには総務や経理といった「プレゼンテーション」とは一見かけ離れた職務出身の方も多いでしょうし、今年から始めて採用担当になられた方はいきなり数十名の学生の前で、自社について話さなければならないというプレッシャーもあるでしょう。新卒採用活動をしている企業にとって、自社の「採用活動上のプレゼンテーション力」の向上は、採用力強化のために欠くべからざるものとなっています。
当たり前のことですが、企業の採用担当者としては、自社の会社説明会が終わった後には参加した学生が自社を志望している状態になっていてほしいと思うでしょう。自社の魅力を伝え、それを志望度の向上につなげていくために一生懸命「会社説明」をするのですから。しかし、残念ながら採用担当者が一生縣命「会社説明」をしたとしても、それが必ずしも学生の心を掴んでいるというわけではありません。就職活動をしている学生は何十名という採用担当者と会い、話を聞いているのです。聞き手である「学生の視点」を持って話してくれる採用担当者と、そうでない採用担当者を学生はすぐに見抜き、そこで得た印象はその企業に対する印象に結び付けてしまいがちです。
今回は、採用担当者がやってしまいがちな「よくある会社説明会」の例を取り上げ、その解決策として弊社が人事担当者向けスキルアップ講座・HRプロスクールの『採用プレゼン力養成講座』(講師:小寺良二氏)で伝えている「学生の心が掴めるプレゼンスキル」をいくつかご紹介いたします。
※小寺良二氏(キャリアファシリテーター)プロフィール
アメリカの大学にて教育学とパブリックスピーキングを学び、日本人留学生で唯一のA評価を得る。卒業後はアクセンチュア(株)を経て(株)リクルートで採用コンサルティングを経験し、2009年にキャリアファシリテーターとして独立。
現在は官公庁などの若年就労支援プロジェクトや、(株)リクルートがCSR活動として全国展開している若者就職応援プログラム「ホンキの就職」のプログラム開発兼ファシリテーターとして、全国各地でのキャリアセミナーの実施や、講師の育成に取り組んでいる。
参加者20名のセミナーから1200名の前での講演まで数多くのスピーチ経験があり、フジテレビや日本テレビなどのテレビ番組にも多数ゲスト出演。
■採用担当者がただ「一方的」に話すだけの会社説明会
採用担当者が会社説明会で最もやってしまいがちなことは、学生に対して「一方的」に話し続けることです。限られた時間の中で会社や仕事、福利厚生などたくさんの情報を伝えなければならないため仕方のないことのように思われますが、10分や20分ならともかく、30分~1時間以上も集中して人の話を聞き続けるのは簡単なことではありません。皆さんにも身に覚えがあることでしょう。じつは、長く話せば話すほど、学生に情報は伝わっていかないのが現実なのです。【プレゼンスキル(1)】双方型のコミュニケーションを生む『インタラクティブアクション』
上記課題をシンプルに解決できるのが「インタラクティブアクション」という手法です。ただ一方的に話すのではなく、学生と双方向にコミュニケーションを取り合いながら進めていくやり方です。以下、3つほどそのやり方を紹介いたします。
(a)クエスチョン・・・こちらが話す前に一度学生に質問を投げかける
例)担当者 「弊社の商品をお店で見たことがある人はいますか?」
(b)インタビュー・・・1人の学生に対していくつか質問を繰り返しながら会話をする
例)担当者 「ちなみに○○さんはどちらの店舗でそれを見つけましたか?」
学生 「新宿店に行った時に見つけました」
担当者 「ちなみにその時のお店の印象はどうでした?」
学生 「品物がたくさん置かれていて、とても賑やかな印象でした」
(c)ディスカッション・・・1つのテーマを与え、それについて学生同士で話してもらう
例)担当者 「ではお客様が商品を選ぶ時に何を気にするか、皆さんで話してみましょう」
一方的な説明の合い間などに、このようなインタリアクティブなコミュニケーションを入れて頂くことで、学生自身は自分の頭で考えながら話を聞くので、理解度が高まるのです。
■一般的な内容をただ話すだけの会社説明会
現在の就職活動には、就職ナビやパンフレットだけでなく、SNSや内定者交流会などさまざまな情報交換の場があるため、会社説明会で企業から学生に発信される情報も質を上げていく必要があります。もし就職ナビやパンフレットに載っている内容を、採用担当者がただ話しても、企業研究をしっかりとしている学生にとっては、新鮮さはあまり感じられません。それどころか、わざわざ参加しても新しい情報が得られないことに対するマイナスイメージの方が大きくなってしまいます。【プレゼンスキル(2)】メッセージをリアルに伝えるための『エピソードメイキング』
情報にリアリティを持たせるのに最も有効なのが「エピソード」を用いて魅力を伝える「エピソードメイキング」という手法です。会社説明や仕事説明にばかり気がとられてしまい、意外にも採用担当者は「自分の経験」を話さないことが多いようです。しかし学生は、実際の現場で働いている方からの「生の声」を最も求めているものなのです。以下に例を挙げてみますので、比較してみください。
「弊社は社員数30名という規模なので社内の風通しが良く、アットホームな社風が魅力です。社員同士だけでなく社長と社員の距離も近いので、なんでも気軽に話し合える関係性ができています。厳しい上下関係ではなく、フランクな風土で大変働き易い環境です。」
○エピソードを入れた会社説明
「私自身、今の会社で一番気に入っているのは、アットホームな社風です。入社して3年になりますが、週に一度は社長がランチに誘ってくれます。でも話すのは仕事の話よりも共通の趣味である釣りの話題が多いです。でもそんな社内のフランクな風土が気にいっています。」
現場社員に会社説明会に参加してもらうことで、学生に「生の声」を届けることは有効な手段ではありますが、採用担当者も1人の社員として自分の経験やエピソードを用いて学生にリアルな情報を届けることができるようになることが大切です。
■自社の魅力だけをひたすらアピールする会社説明会
会社説明会は自社の魅力を学生に伝え、志望度を高めることが第一の目的です。しかし、その意識が強すぎると「魅力だけをひたすらアピールする会社説明」になり、学生は逆に「本当に良いところだけなのだろうか」と疑問視するようになってしまうものです。学生は決して企業の良いところばかりを聞きたいわけではありません。【プレゼンスキル(3)】学生に安心感を与える『ポジティブ情報』と『ネガティブ情報』
学生に魅力を伝えるには、プラスの点ばかりを全面に押し出すだけではいけません。実は、学生にとって魅力に感じる「ポジティブ情報」と、逆に学生が我慢や理解が必要な「ネガティブ情報」をバランスよく伝えることで、より効果的に魅力を訴求することができるのです。以下に例を挙げてみますので、また比較してみください。
○ポジティブ情報のみが入っている会社説明
「弊社の営業は、他社よりも商品優位性が高いため、新人でも大手クライアントを担当し商談するチャンスがあります。目標達成した時にはインセンティブとしてボーナスも出るので大きな達成感があります。」
○ポジティブ情報とネガティブ情報のバランスが保たれた会社説明
「弊社の営業で最も大変なのは、大手クライアントを担当する機会が多いため新人でも高い売上目標を持ちプレッシャーが大きいことです。しかし、その分早くから責任ある仕事をすることができたり、達成時にはボーナスが出るというメリットもあります。」
以上のような採用担当者がやってしまいがちな「よくある会社説明会」の課題に着目し、ご紹介したプレゼンスキルを活用しながら「学生視点」に立った会社説明会でのコミュニケーションをとることで、自社の魅力を今まで以上に伝えることができるようになるはずです。就職ナビやパンフレットだけでなく、採用担当者の「プレゼンテーション力」を向上させていくことは、自社の採用力をアップさせる最も有効な方法の1つなのです。ぜひお試しください。
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