「企業理念」の意味、経営理念との違いとは?
「企業理念」とは、会社の根幹となる考え方・価値観を意味する。「なぜ、その企業が存在しているのか」、「何を目的として経営を行うのか」、「どこに向かって企業活動を行っているのか」など、企業としての使命や思想、存在意義、在り方、さらには社員の行動規範となる文言が明文化されている。社内に対しては意思決定の軸となるものであり、社外に対してはブランドイメージの醸成につながるものと言って良い。コーポレートアイデンティティ(CI)の観点から言うと、企業理念はマインドアイデンティティ(MI)と呼ばれ、CIの中核を担う非常に重要な存在である。●経営理念や社訓、社是との違い
「企業理念」と似た言葉に経営理念や社訓、社是などがある。それぞれが「企業理念」とどう違うのかを説明していこう。まずは、経営理念である。経営理念とは、経営を行う上での創業者や経営者が大切にしている想いや信念、価値観を明文化したものである。「経営を進める上で、どのような目標を定めているのか」、「その目標を実現するために、どんな手段を取るのか」などが宣言されている。そのため、経営者が交代することで経営理念は変化する可能性があり得る。一方、それを継承し会社として大切にしている価値観や存在意義、行動指針、意思決定の基準に反映させたものが「企業理念」である。「なぜ、存在しているのか」、「誰にどんな価値を提供していきたいのか」が宣言されている。経営者がたとえ変わったとしても基本的には変化せず、引き継がれていくところに特徴がある。いずれも企業にとっては、重要な理念ではあるものの、その意味合いが微妙に異なっている。
また、「企業理念」と社是・社訓も意味が異なる。社是とは、会社のあるべき姿であり、ミッションに近い意味を持つ。これに対して、社訓とは、社員が守るべき行動や大切にすべき精神と定義できる。スピリットに近いニュアンスになってくると言って良い。
●企業理念の目的
そもそも「企業理念」をなぜ策定する必要があるのか。その目的として三点挙げたい。・経営の軸
経営はいつも順調にいくとは限らない。トラブルや問題が何がしか起きるものである。また、時には経営判断に迷うこともあるだろう。そうした際に、重要な意思決定の基準となり得るのが「企業理念」だ。判断に迷うことがあったとしても、「企業理念」に即して議論をしていけば選択を誤ることはない。「企業理念」が明確であれば、進むべき方向性を間違えることもないし、スピーディーかつ的確な判断を下せるはずだ。
・社員の行動の明確化
「企業理念」とは、会社の行動規範や方向性を示したものだ。それが、社員に浸透していれば、統一した価値観のもと、一人ひとりが自律的に行動していける。自ずと組織力も高まってくるだろう。さらには、「企業理念」を実践する社員が増えれば、企業としてのビジョンも実現しやすくなる。
・外部への発信
「企業理念」には、社会に対して会社がどう貢献していくのかといった思いが込められている。それをさまざまな機会を通じて外部に伝えていくことで、社外の多くの人たちに知ってもらえるだけでなく、社員の意識が高まると共に使命を果たさなくてはという責任感も醸成される。
「企業理念」は社員や採用にどのような効果をもたらすのか
次に、「企業理念」がもたらす効果について触れていこう。三つの領域から説明したい。●企業
「企業理念」は社員にとって共通の方向性となる。目指すべきゴールが明確に示されていると、社員一人ひとりの仕事の進め方や組織のあり方が大きく変わってくる。行き先が分かっていれば、社員はそこにいち早く辿りつくために自分が何をすれば良いかと考えやすくなる。また、確実に近づくことができているかと振り返ることもできる。組織も柔軟に変化していけるようになるので、社会適合力や市場価値が向上し、持続的に成長・発展できる。英国の組織コンサルタントであるサイモン・シネックが提唱したゴールデンサークル理論によると、人に何らかの情報を伝達し行動を促したい時には、「Why⇒How⇒What」の順で説いていくことが重要であるという。この考えを企業に当てはめてみると、企業もまずは、「なぜ、それをしているのか」というWhyを最初に伝える必要性がある。まさに、それが「企業理念」であり、それが発信され広がっていくと、その企業やブランドの価値を一緒に育てていきたいというファン、パートナーが増えていく。
●社員
「企業理念」は、社員にとって行動規範となり得る。会社が何を目指しているのか、そのために自分はどんな行動をすべきなのかが明確になるからである。当然ながら、行動規範に則った振る舞いができていれば、社員は働くことへの誇りが持て、会社に対するエンゲージメントも高くなる。「この会社の一員である」という意識が醸成されることで、責任感が高まり、自律的に行動できるようになるだろう。●採用
「企業理念」は採用ブランディングにも活用できる。採用ブランディングとは、採用コンセプトの策定に始まり、それに基づいたツールの作成、インターン、説明会の企画・運営などに至る一連の採用コミュニケーション活動を意味する。この採用ブランディングにおいて最も重要になるのが、「企業理念」をベースに考えられた採用コンセプトだ。「自分たちの企業が何のために存在するのか」、「どんな価値を提供しようとしているのか」、「どんな未来を思い描いているのか」が、そこには落とし込まれている。それを求職者にアピールすることで、共感する人や価値観が近い人の心が動かされ、社員として集めやすくなる。自ずと採用に良い影響がもたらされるというわけだ。「企業理念」を浸透させる上でのポイント
「企業理念」は策定するだけで良いというわけではない。社員に浸透していかなければ、何の意味もない。では、どうすれば浸透できるのか。そのポイントを説明していきたい。●ストーリーを伝える
まずは、「企業理念」に関するストーリーを伝えることである。具体的には、企業が創業から今日までどんな歴史を歩んできたのか、「企業理念」がどのような背景のもとに生まれたのか、「企業理念」にどんな想いが込められているのかを、さまざまな機会を通じて社員に伝え、共感の輪を広げていく必要がある。●経営層や管理職が実践する
経営層や管理職の言動は、社員の模範・手本とならなければいけない。どんなに素晴らしい「企業理念」が掲げられていたとしても、上の立場の人々が「企業理念」に反するような行動をしていては、社員の意識は低下するばかりだ。経営層や管理職が、自ら率先して「企業理念」を実践していく気構えが求められる。●社員が「企業理念」について考える時間を増やす
せっかく「企業理念」があるのに、社員がその内容を知らなければ意味がない。そのためにも、社員が「企業理念」について考える時間や機会を増やす必要がある。例えば、「企業理念」がまとめられたパンフレットを全社員に配布する、「企業理念」を題材とした研修を行うなどが考えられる。社員にとって、「企業理念」がより身近に感じられる場を設けることが重要だ。●「企業理念」に沿った体制や制度を整備する
「企業理念」を浸透させるためには、「企業理念」に沿った体制や制度を整備する必要がある。具体的には、「企業理念」を積極的に実践している社員を表彰する、人事評価の項目に「企業理念」に則った行動をしているかを入れるなどが考えられる。そうした取り組みが進められることで、「企業理念」に共感できる社員が増えていくだろう。「企業理念」の事例を紹介
最後に、各社がどのような「企業理念」を掲げているのかを紹介しよう。●ローソン
ローソンでは、「企業理念」としてグループ理念やビジョン、ローソンWAYなどを定めている。・グループ理念
私達は”みんなと暮らすマチ”を幸せにします。
・ビジョン
目指すは、マチの“ほっと”ステーション。
・ローソンWAY
1.マチ一番の笑顔あふれるお店をつくろう。
2.アイデアを声に出して、行動しよう。
3.チャレンジを、楽しもう。
4.仲間を想い、ひとつになろう。
5.誠実でいよう。
●ファーストリテイリング
ユニクロを運営するファーストリテイリングでは、「企業理念」としてステートメントやグループのミッション、価値観(バリュー)、行動規範(プリンシパル)を定めている。ミッションはグループの理念、価値観はミッション達成のためのあらゆる活動における意思決定の基準、行動規範はグループの全社員が日々心がける行動の在り方を示している。・ステートメント
服を変え、常識を変え、世界を変えていく
・ファーストリテイリンググループのミッション
ファーストリテイリンググループは─
■本当に良い服、今までにない新しい価値を持つ服を創造し、世界中のあらゆる人々に、良い服を着る喜び、幸せ、満足を提供します
■独自の企業活動を通じて人々の暮らしの充実に貢献し、社会との調和ある発展を目指します
・私たちの価値観
■お客様の立場に立脚
■革新と挑戦
■個の尊重、会社と個人の成長
■正しさへのこだわり
・私の行動規範
■お客様のために、あらゆる活動を行います
■卓越性を追求し、最高水準を目指します
■多様性を活かし、チームワークによって高い成果を上げます
■何事もスピーディに実行します
■現場・現物・現実に基づき、リアルなビジネス活動を行います
■高い倫理観を持った地球市民として行動します
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