中小企業にも適用される“割増賃金率の引き上げ”
労働基準法では、休憩時間を除いて「1日につき8時間、もしくは1週間につき40時間を超えて労働させてはならない」と規定しています。規定された時間を超えて従業員を働かせる場合は、労使で36協定を結び、時間外労働の上限時間を設定したうえで、「通常の賃金の25%以上の割増賃金」を支払うことが定められています。そのため、割増賃金には“会社側に対するペナルティ”の意味合いがあるのです。また「日本人は働き過ぎ」と言われており、総労働時間の短縮を促すために、月60時間を超える時間外労働については、割増賃金率が50%以上に引き上げられる事になりましたが、中小企業についてはその適用が猶予されていました。しかしながら、その猶予が2023年4月に撤廃され、中小企業にも適用される事になったのです。
なお、現在、建設業や運送業、また医業に従事する医師などについては、36協定における時間外労働の限度時間が猶予されており、年720時間以上の時間外労働を設定することが可能です。しかし2023年4月以降は、割増賃金率については50%以上支払う義務が発生するため、コスト削減の観点では残業時間を減らす工夫は避けて通れないでしょう。
では、どのように残業代のコストをコントロールすればよいのでしょうか。
“有給の代替休暇”を付与することで残業代の支払額を抑制
月60時間以上の残業時間については、労使協定を結ぶことで、割増賃金の支払いを有給の代替休暇に替えることができます。労使協定では、取得する代替休暇の時間数を算出するために、
を規定します。
「換算率」とは、「代替休暇を取らなかった場合に支払う割増賃金率(50%以上)」から、「代替休暇を取った場合に支払う割増賃金率(25%以上)」を差し引いた数字になります。たとえば、「代替休暇を取らなかった場合に支払う割増賃金率」を50%、「代替休暇を取った場合に支払う割増賃金率」を30%と設定しましょう。ある月の時間外労働の時間が80時間だった場合、代替休暇の時間数は、(80-60)×(1.5-1.3)=「4時間」となりますので、「4時間分の代替休暇」が発生する事になります。
ただし、代替休暇の単位については、「1日」、「半日」、「1日または半日」のいずれかで運用することとなっています。また、「半日」の考え方については、1日の所定労働時間の半分(所定労働時間が8時間であれば4時間)としてもよいですが、「午前休」や「午後休」などを半日としても大丈夫です。いずれにせよ、半日の定義についても労使協定で明確にしておくようにしましょう。
代替休暇の時間が半日以下の場合、年次有給休暇との併用も可能
もし、代替休暇の時間が「1時間」や「2時間」といった中途半端な数字になった場合は、労使協定で他の有給休暇と合わせて利用できるよう定めることもできます。たとえば、「『代替休暇』と『時間単位の年次有給休暇』を合体させて半日の休暇にする」といった運用も可能ということになります。では、“代替休暇を与えることができる期間”は、いつまでに設定すればいいのでしょうか。1ヵ月に60時間以上の時間外労働時間が発生している場合には、従業員に休息を取ってリフレッシュしてもらうことが大切ですので、「残業時間が60時間を超えた月の月末から2ヵ月以内」に与えるよう定めましょう。
ただ、仕事量が多い従業員の場合、自主的に代替休暇の取得を申し出ることが難しいケースもありますので、会社側が業務量を調整することも大切です。もし、期間内に代替休暇が取得されなかった場合は、割増賃金として支払う義務が生じ、コストの削減につながらないため、代替休暇の取得を会社側が積極的にリードした方がよいでしょう。ちなみに、代替休暇の取得期間を2ヵ月に設定した場合、1ヵ月目の代替休暇と2ヵ月目の代替休暇を合わせて取得してもらうことも可能です。
また、さらに加えて気をつけなければならないのは、「代替休暇を取得するかどうか」は従業員が決めることになっているため、会社側から強制することはできないということです。言い換えると、残業代のコストを削減するには、「従業員にとって代替休暇が取りやすい環境を、いかに会社側が整備できるか」にかかっていると言えます。
いかがだったでしょうか。労務管理を適正に行わなければ、残業代のコストが増大しかねません。残業時間を減らすには、生産性を上げて業務量をコントロールすることが大切になってきますが、なかなか自社だけで実行することは難しい場合もあるでしょう。そのような際には、「業務改善助成金」などの活用を検討するという手もあります。少しでも興味を持った場合は、お近くの社会保険労務士にご相談されることをお勧めします。
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