厚生労働省より「令和3年度雇用環境・均等部(室)における法施行状況について」という統計が発表され、労働施策総合推進法(いわゆる「パワハラ防止法」)の法施行状況が明らかになりました。2022年4月より中小企業にもパワハラ防止法が適用となり、今後どのように対策を進めればよいのかと悩んでいる事業主の方も多いと思いのではないでしょうか? どのようなことが問題になっているのかを知ることで、リスクの回避にも役立ちます。そこで今回は、「よく見られる問題点とその対策」について詳しく解説します。
厚生労働省の統計から読み解く「パワハラ防止法対策」。最も多かった“是正指導”は何か?

最も多かった是正指導は、「◯◯の不備」

2020年に労働施策総合推進法が改正され、「パワハラ防止対策が規定されましたが、同法に関する相談件数は2020年度が約18,000件だったのに対し、2021年度は約23,000件と、約5,000件も増加しました。 2021年度のパワハラ防止対策は大企業のみの適用だったため、中小企業にも適用されることになった2022年度は、さらに相談が増加すると推定されます。この中から法違反が確認され、是正指導に至った件数は2021年度で589件でした。

その589件のうち、是正指導に至った項目で一番多かったのが「パワーハラスメント防止措置」に関するもので、全体の6割を超えていました。パワーハラスメント防止措置は、いわゆる「雇用管理措置義務」と呼ばれ、事業主が必ず実施しなければならないものです。具体的には10項目あり、その内容は、就業規則などで「パワハラをしてはならない」ことを明確化し、パワハラを行った人に対しては、規定に基づいて厳正に対処する旨を周知するというものです。

また、企業において「相談窓口」を設置し、従業員の方からの相談を受け付ける体制を整え、相談があったら迅速かつ正確に事実確認を行う必要があります。調査のうえ、もし「パワハラの事実がなかった」と企業が判断したとしても、再発防止策を講じなければなりません。

パワハラに関する相談はデリケートな問題であり、調査後も従業員の方がその職場で働くことを考えれば、プライバシーの保護も講じる必要があり、当人が安心して相談できる環境を整えなければいけません。そして当然のことながら、パワハラの相談をしたことで、企業が解雇など不利益な取り扱いを行わないことを規定し、周知することも義務となっています。

さて、ここで特筆するべきことがあります。是正指導の項目に「事業主の責務 自らの言動」があり、100件(全体の17%)計上されているのです。

この、「事業主の責務 自らの言動」というのは、「労働施策総合推進法」第30条の3第3項に定められている「事業主(その者が法人である場合にあっては、その役員)は、自らも、優越的言動問題に対する関心と理解を深め、労働者に対する言動に必要な注意を払うように努めなければならない。」のことを指しており、これに違反しているため是正指導となっています。

この規定は、努力義務であるにも関わらず是正指導に至っているということで、事業主の意識が問われていると言えるでしょう。パワハラに対する意識を高めるということは、単に法律を守るということだけでなく、金銭補償などのリスク回避にも関係してくるのです。

それはどういうことなのか、次でお話しましょう。

パワハラのない職場環境づくりはあらゆるリスク回避に繋がります!

この「労働施策総合推進法」は、単にパワハラ防止対策の違反を問うためだけにあるのではなく、従業員の方との紛争の解決を図る制度も規定されています。たとえば、従業員の方が、職場の上司からパワハラを受けたことで退職をせざるを得なくなった場合、企業に対して慰謝料を請求することがあります。これを企業側が拒否した場合、労働紛争が発生することとなります。

この労使の紛争を解決するために「紛争解決援助」の制度があり、労働局が中立の立場で問題解決策を提示するものとなっています。その中で、話し合いを促す助言をしたり、調停が行われたりします。労働局は、紛争解決援助の中では企業に対して強制力を持って指導をすることはありませんが、パワハラ防止策に不備があった場合、企業側に不利な環境で従業員の方と話し合いをすることになり、企業が金銭補償を行うケースが出てくるのです。

訴訟による司法判断となった場合、数百万円の慰謝料の支払いを命じられた判例もありますから、企業内のパワハラを放置することはリスクが高いと言えます。したがって、まずは事業主がパワハラに対する意識を高め、パワハラ防止策を確実に講じることで、従業員の方が安心して働ける環境を作ることが、あらゆるリスク回避につながるのです。

しかし、具体的にどのように進めていけば良いのか難しい取り組みですので、もし不安があるようでしたら、労務管理のプロであるお近くの社会保険労務士にご相談されてみてはいかがでしょうか。


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