いま、企業の人材の能力を“資本”と捉え、いかに調達・配置・活用していくかといった「人的資本経営」が注目を浴びている。それとともに、従来の属人的で閉じられた人事管理の方法から、全社的に人材データを収集・共有・活用し、最適化を図る「科学的人事戦略」へのシフトが始まっている。

そこで今回は、「人的資本経営」の実現に向け、企業が取り組むべき人材データ活用のポイントについて、人材マネジメントや組織開発研究の第一人者である学習院大学 経済学部の守島基博教授と、科学的人事を実現するタレントマネジメントシステム「タレントパレット」の事業責任者で、株式会社プラスアルファ・コンサルティング 取締役副社長の鈴村賢治氏が語り合った。

プロフィール


  • 守島 基博 氏

    学習院大学 経済学部
    守島 基博 教授

    1980年慶應義塾大学 文学部 社会学専攻卒業。1986年米国イリノイ大学 産業労使関係研究所 博士課程修了。人的資源管理論でPh.D.を取得。カナダ国サイモン・フレーザー大学 経営学部 助教授。1990年慶應義塾大学 総合政策学部 助教授、1998年同大大学院 経営管理研究科 助教授・教授。2001年一橋大学大学院 商学研究科 教授を経て、2017年より現職。2020年より一橋大学 名誉教授。

  • 鈴村賢治 氏

    株式会社プラスアルファ・コンサルティング 取締役副社長
    鈴村 賢治 氏

    中央大学 理工学部卒業後、株式会社野村総合研究所に入社。システムエンジニアとしてCRMシステムや
    情報システムの開発経験などを経て、テキストマイニング事業に営業・マーケティング責任者として参画。2007年、プラスアルファ・コンサルティングに入社、取締役副社長に就任。国内・海外でのテキストマイニング活用、データマイニングを活用したCRM/マーケティングオートメーション事業の推進、社員のパフォーマンスを最大化するためのタレントマネジメントの普及活動など、“見える化”を基軸とした新しいビジネスの創造に向け、日々全国・世界を駆け巡っている。

守島教授・鈴村様

「人的資本経営」の背景と経緯

守島教授
鈴村 賢治 氏(以下 鈴村) まず、本日のテーマである「人的資本経営」について、その意味や着目されている背景について解説していただけますか。

守島 基博 教授(以下 守島) 人的資本経営が着目され始めた経緯としては、世界的には2018年に人的資本に関する情報開示ガイドラインの「ISO 30414」が開示され、2020年にSEC(米国証取引委員会)が上場企業に対して人的資本に関する情報開示を義務化したことが大きな契機になったと思います。日本においては、2020年9月に経済産業省がいわゆる「人材版伊藤レポート」を発表したことが直接的な契機となりました。

それとともに、関心を集めている背景には、大きく3つのことが挙げられると思います。
1つめは、企業が戦略目標を達成していく上で、人材が占める要素がかつてないほど大きくなっていることです。以前は「カネ」が重要な要素でしたが、現在は事業資金が潤沢に回っている。反面、DX人材など価値を発揮できる人材を確保することはますます困難な情勢にあります。経営における人材の重要性がより強まっているわけです。

2つめは、働く人の変化。かつては大卒のホワイトカラーをマネジメントする仕組みがあれば良かったものが、今日では女性やシニア、外国人と多様化しています。そういった属性の多様化のみならず、考え方や価値観といった“深層的多様性”も広がっている。こうした人たちをどう戦力化するか、従来のマネジメントでは難しくなっていることが挙げられます。

3つめは、株主や投資家が投資先企業の人材を重要視し始めていることです。人材がいなければ事業をうまく回していくことができず、投資が無駄になってしまうからです。
昔から「企業は人なり」と言われており、人材の重要性は認識されていたわけですが、そのレベル感が大きく変わっているということです。

「人的資本経営」の根幹にあるもの

鈴村様
鈴村 同感です。当社はタレントマネジメントシステムの「タレントパレット」を提供していますが、日々企業の方と会う中で、ある経営者から「“ヒト・モノ・カネ”が、今では“ヒト・ヒト・ヒト”になっている」と聞きました。このように、人材の重要性が際立ってきていますね。世の中の変化に対応して会社も変わろうとする時、社員の能力をシフトチェンジしないとスピードが出せず勝ち抜けなくなるからです。

また、個人の立場としても「人生100年時代」になり、それぞれのキャリアを自分で考えなければならなくなっています。企業を見る際には、自分のスキルが伸ばせるか、リスキリング(ビジネスモデルの変化に合わせ、社員のスキルについて再開発や再教育を行うこと)の仕組みは整っているかといった点が重視され始めていると思います。




この後、下記のトピックが続きます。
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●人的資本経営が関心を集める3大背景
●人的資本経営の根幹と結びつく、科学的人事戦略とタレントマネジメント
●混同されがちな「人事DX」と「タレントマネジメント」をどう整理するか
●科学的人事戦略に必要な3つのパラメータとは?
●「属人的」「情報のクローズ」、科学的人事とタレントマネジメントを阻害する要因と解決策

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