心理系資格の代表的なものとして、「公認心理士」、「臨床心理士」、「キャリアコンサルタント」、「産業カウンセラー」などがあります。心理に関して理解を深めたいと考えている方は多く、これらの資格以外にも、さまざまな資格や学習機会があります。今回は、会社として心理系資格者を活用するためのポイントを「3つの場面」に分けて解説します。
「心理系資格者」が企業で活躍する3つの場面とポイントを解説

【場面1】1人の従業員を支える時(メンタルヘルスケアなど)

1人の従業員のメンタルヘルスの不調などに対し、サポートを行う際のポイントは「心理系資格者が、チームの一員として相談者の話を聴くこと」と、「他のチームメンバーが、相談者が自らの力で歩むことができる環境をつくること」です。

悩みを抱えていても、「私生活のことは会社に相談できない」、「仕事を円滑に進める上で、自らの悩みを打ち明けるべきではない」などと考える人は少なくないでしょう。会社の中の誰かに個人的な相談をすることは、実際にハードルが高いことかもしれません。その結果、ストレスを一人で抱えこんでしまい、メンタルヘルスが悪化するケースがあります。

もし、心理系資格者が話を聴く相談窓口が会社にあれば、相談者はそれまで我慢してきた悩みを打ち明けることができ、共感してもらうことができます。心理系資格者が直接、問題を解決する場面は限られるかもしれませんが、心理系資格者に話を聴いてもらうことで、相談者がスッキリとした気持ちになり、新たな一歩を踏み出すことができるといえます。その大事な一歩を後押しするのが、心理系資格者の大きな役割です。

しかし、その大事な一歩の先にある職場環境が何も変わっていなければ、再び相談者のメンタルヘルスが悪化することになります。つまり、心理系資格者の他に“相談者が自らの力で歩むことができる環境をつくる役割”が必要になります。それは、上司・同僚・人事管理部門・外部専門家など、状況によって異なります。

心理系資格者は、従業員の相談内容に応じ、守秘義務を遵守することに留意しながら、会社の他のメンバーと一緒になって、相談者が自らの力で歩み続けることができるようサポートすることが大切です。

【場面2】職場で問題が生じた時(ハラスメントなど)

職場で問題が生じた時のサポートにおいては、まず「事実を把握」することが重要です。そのうえで、「心理系資格者が、相談者に『寄り添う』役割を担うことができるか」がポイントとなります。

心理系資格者が持つ大きな強みは、「相手の気持ちに寄り添う」という専門性を持っていることです。相談者は、寄り添ってもらうことで「安心感」を抱きます。この「安心感」が、ハラスメントなど職場で起きた問題を解決する上で重要な要素になっていきます。相談者である従業員(ハラスメントの被害にあった従業員など)が「安心感」を持つことができなければ、事実を話すことができないかもしれません。

それは例えば、相談者が「事実を話したら、不利な扱いを受けてしまうのではないか」と感じてしまう場合です。事実が分かれば会社として早期に解決できるようなことでも、問題が大きくなって初めてその事実が明るみに出るということが考えられます。また、会社として事実を把握することができなければ、問題を解決する糸口をつかむこともできません。

そして、相談を受ける心理系資格者が経営者に近い立場であったり、ハラスメントか否かを判断するような立場であったりすれば、相手の気持ちに寄り添うという専門性を発揮することが難しくなります。

つまり、心理系資格者が、「相談者との間に利害関係が生まれない立場」を確保することが大切になります。

【場面3】従業員のモチベーションをさらに高める時(キャリア形成など)

ここまではメンタルヘルス・ハラスメントなど「何か問題が起こった時」の対処のポイントを紹介しました。しかし「何か問題が起こった時」だけではなく、「何か問題が起こる前」にも心理系資格者が活躍する場面があります。その代表的なものが、キャリアコンサルティングなど、相談者が「キャリア形成」を考える場面です。心理系資格者が、相談を通じて従業員のモチベーションを高めることが、会社の生産性向上にもつながります。すると、ひいてはメンタルヘルス対策・ハラスメント防止にもつながっていくのです。この流れを意識するのがポイントです。

従業員が、心理系資格者の力を得て将来のキャリアを描くには、日々の忙しさから一歩離れ、心理系資格者との対話を通じ、自らが培ってきたキャリアを振り返ることが必要です。さらに、キャリア像を実現するための「自らの能力を高めていきたい」、「能力を高め、会社へ貢献していきたい」といった思いが従業員のモチベーションを高め、会社としても適材適所に人事を配置することで、生産性向上へとつながっていきます。

そして、心理系資格者の役割として必要なことは「従業員が描く自らのキャリア」と「会社がその従業員へ期待すること」をできる限り一致させることです。それが一致しなければ、従業員のモチベーションが上がらないだけでなく、ストレスを抱えることにもなり、メンタルヘルスの悪化やハラスメントの発生などの問題につながる可能性があります。さらには、従業員が会社に対して期待を抱くことができなければ、優秀な人材が流出することにもなりかねません。

心理系資格者がカウンセリングにより「従業員のキャリアを描く」役割を担った後に、管理者が改めて従業員へ面談を行うなど、会社の中で仕組みをつくることが大切になります。

心理系資格者が会社にいない場合は?

以上、3つの場面をご紹介しましたが、心理系資格を持っている従業員がいない会社も多いと思います。しかし、資格がなくても、従業員個人の特性として「話を聴くことが上手な人」や、「相手の気持ちに寄り添うことができる人」、「相手のモチベーションを高める言葉掛けができる人」などがいれば、ぜひそれぞれの場面に応じた役割を担ってもらいましょう。そして、その方たちが心理系資格を取得すれば、会社の中でより活躍の幅が広がることとなります。
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