組織のリーダーが最も大切にしなくてはいけないのは、「部下との信頼関係が築けているかどうか」だと、筆者は思っている。普段から部下と良好な人間関係が築けていること。それが、「深い信頼関係」に繋がり、部下が「ハラスメントだ」と感じることもなくなる。では、こうした関係は、どのようにすれば築けるのだろうか。
組織のリーダーが「ノンバーバルコミュニケーション」の在り方を大切にするべき理由とは

「部下との深い信頼関係」を築くために重要な「ノンバーバルコミュニケーション」

部下との深い信頼関係を築くために必要なことは、「コミュニケーション」をおいて他にない。しかしながら、「コミュニケーション」と聞くと、「自分は口下手で、饒舌でもないしな」と、できない理由を考える人もいるだろう。しかし、そうしたことはあまり関係ない。例えば、「メモを取りながら部下の話を聴く」という行動。これが部下にどのようなメッセージを発しているか、考えたことはあるだろうか。「一生懸命に自分の意見を聴いてくれている。自分も組織の戦力なんだ」と感じ、部下にとっては嬉しいことなのである。こうした行動こそが、重視されるべきコミュニケーションである。

コミュニケーションには、「バーバル」と「ノンバーバル」の二種類がある。このうち、言葉によらない「ノンバーバルコミュニケーション」の方がより重要であることを、これまで筆者はあらゆる場面で述べてきた。上記の例のように、「リーダーの態度」そのものが、部下に大きなメッセージとして伝わることは多い。「リーダーがどんなときに喜ぶか」、「何に怒るか」、「落ち込んでいるときの風情」などといったことを、部下はしっかり見ているものである。つまり、リーダーの“日々の言動”、さらには“仕事ぶりそのもの”が「コミュニケーション」だと思わなければならない。上司と部下について、こんな言葉がある。

●部下は上司を三日で見極める
●上司が部下を見極めるには三年かかる


これらは、リーダー自身はあまり抱いていない感覚かもしれないが、しっかりと肝に銘じておくべき格言である。

リーダーには「大局観」と「人間力」が必要

リーダーには、「その場の状況を的確に判断する能力」のほかに、「組織にマイナスの効果が働かないような大局観」も不可欠ではないかと思う。例えば、政策決定をする会議が開かれたとしよう。出席者は、担当部長(政策決定責任者)、担当グループ長、担当者A、担当者B、担当者Cの5人だ。この会議で、「担当グループ長」と「担当者B」の意見が衝突し、客観的に見て「担当者B」の意見が明らかに正しかったとしよう。「担当部長(政策決定責任者)=リーダー」は、どう判断したら良いのだろうか。

年功序列意識が薄まりつつある昨今の組織社会では、「先輩、後輩など年齢には関係なく、正しい意見を採用・決定する」ことがリーダーの努めであり、「担当者Bの意見を採用するべきだ」となる可能性が高い。確かに、そのような判断が適切な場合もあるだろう。しかし、そうしない方が良い場合もあることを、リーダーは理解しておくべきである。

経営に対して大きな影響を及ぼさない案件の決定であれば、“組織のムーブメントの最適化”との比較において事を判断すべき場合もあり得るのである。つまり、“正しい意見”を述べた「担当者B」ではなく、“役職や年齢”を考慮して「担当グループ長」の意見を採用することもありなのだ。深く考えていないリーダーであれば、常に「担当者B」のような“正しい意見”を採り上げてしまうかもしれない。しかし、「担当グループ長」の顔を立てることも、組織運営上は重要なのである。考え過ぎだと思われるかもしれないが、仮に「担当者B」の意見を採用した場合、「担当グループ長」がやる気を失くすかもしれず、それによって、そのグループは組織として瓦解するかもしれない。リーダーは、こうした細やかな部分まで神経を研ぎ澄ますべきでなのある。「組織として正しいこと」の前に、「人間として正しいこと」をする、と言い換えてもよいかもしれない。

部下の心に長らく残るのは、上司の「度量」の大きさ

新卒で地方の役所に勤めた筆者は、最初に配属された部署の課長から、次のような指導を受けて育った。

●「お前が失敗しても大したことはないから思いっ切りやれ」
●「県民の皆様に説明できる仕事だったら何をやってもいい」
●「お前がやった仕事の責任は全部俺がとる」


当時22歳の若造にとって、これらの言葉が救いになり、その後の仕事人生の指針となった。その上司は口先だけでなく、必ず後から、陰に日向にフォローしてくれた。まさに“言行一致”のすばらしい上司であり、今でもリーダーの鑑だと思っている。この上司はその後、大きく出世をしたが、それはリーダーとしての人並み外れた「度量」が備わっていたためであろう。リーダーたる者、「部下の手柄は自分の手柄」、「部下の失敗は部下の責任」といった狭量からは決別して、“本物のリーダー”を目指していくべきだろう。
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