日本と海外における人事の考え方の違い
ある日、彼女は上司の日本人駐在員に呼ばれて、次のようなネガティブな指導(注意)を受けたそうです。「一日中、君のデスクに話しかけに行く人がいるが、君が仕事に集中できるように、そういうことはやめるよう言ってくれないか」
あ然とした彼女は、こう返しました。
「でも、社員と話をするのは私の仕事です。私は人事部長です。従業員の質問に答えたり、職場での悩みを解決したりしなければなりません。また、何か問題が発生していないかどうかを確認し、問題の芽を摘み取ることも必要です。そのためには、社員と話をする必要があります。従業員が私のところによく相談に来てくれるのは、私への信頼の現れだと自負しています」
この出来事は、日本人と外国人の間によく見られる、「人事管理機能」に対する考え方の大きな違いを示しています。日本では伝統的に、人事は、規則を作ってそれを実行したり、政府から要求されるデータの報告を行ったりなど、管理的な機能が中心です。
一方、日本以外の国では、人間関係に関する課題が人事の中心になっています。例えば、従業員と経営陣との間の問題や紛争を防止・解決したり、従業員に割り当てられた仕事が従業員の能力や関心に合っているかどうかを確認したりすることなどです。海外では、社員が自分の仕事や環境に満足し、仕事への意欲やエネルギーを持ち、退職せずに組織に留まることが人事機能の最終目標であるという考え方を持っています。
これは、日本企業における人事管理とは対照的です。日本は伝統的に、学校を卒業したらすぐに会社に入り、定年まで同じ会社で働くというスタイルでした。企業が新卒以外の人材を採用しないため、外部の労働市場が発達しておらず、転職の機会が少なかったのです。そのため、従業員は安心して働ける反面、会社に不満があってもそれを解消する手段がないという状況に置かれていました。その結果、企業側は「社員が幸せかどうかはあまり気にしなくてもよい」、「幸せであろうとなかろうと会社に残ってくれるだろう」と考えてきました。つまり、離職率は問題の予兆として利用されることはなかったのです。従業員からの不満もあまり気にしなくてもいい状態でした。
ただ、最近の日本では、中途採用を行う企業が増えてきており、従業員が転職することへの抵抗感も薄れつつあります。労働市場の流動性が高まるにつれ、ジョブ型人事への動きが活発化し、モチベーションやリテンションについて考えざるを得なくなったと実感している会社が増えています。
日本の人事に足りないスキルとは
では、従業員の満足度、やる気、定着率を最大化するためにはどうすればよいか。それは、人事担当者が従業員と多く関わり、従業員が適切なポジションにいるか、仕事に満足しているか、不満の原因(潜在的なもの、すでに顕在化しているもの)に対処しているかを確認することが重要です。そのためには、高度な対人スキルが必要です。残念ながら、多くの日本企業では、人事担当者の中にそのようなスキルは育っていません。経理や他の部門から突然、人事部門に異動させられ、「人事の仕事はOJTですぐにできるようになる」と思い込んでいる、そんな日本企業にこれまでたくさん出会ってきました。
人事の仕事は専門職であり、能力育成のためのトレーニングが必要であることを認識しなければなりません。日本では、人材育成のためのプロフェッショナル・スキル・トレーニングを増やそうという取り組みがいくつかあるようです。 最近知ったのは、「産業カウンセラー(※)」という資格です。関連する研修プログラムでは、人材担当者が持つべき重要な能力である「すべての人の支援に必須である“傾聴力”の習得」、「実用性の高い“心理学・メンタルヘルスの専門知識“”の習得」、と「人間関係・職場環境改善に活かせる“ファシリテーション力”の習得」を育成するとしています。人事管理の新たなニーズに応えるために、まさに人事担当者が持つべきスキルだと言えます。
※参考:一般社団法人 日本産業カウンセラー協会
また、最近は人事の方が、国家資格の「キャリアコンサルタント」を取得するケースも多いと聞きます。こうしたスキルは、社員と仕事のマッチングや社員自身のキャリア形成に責任を持ってもらうことに役立つので、良いことだと思います。
さらに、人事資格認定機構(※1)は最近、米国の最大人事組織SHRMの「Essentials of Human Resource Management(※2)」認定コースを日本で日本語で提供しています。これは、日本人がグローバルスタンダードの人事知識を習得するのに便利な方法です(私はバイリンガル・バージョンを教えています)。
※1 参考:人事資格認定機構
※2 参考:SHRMとは
他にも優れた教育プログラムがあるはずだと思います。重要なのは、日本企業が人事管理の方法を変えること。そして、人事部門に期待される目標が進化するにつれ、日本の人事担当者の専門的な能力開発もそれに追随する必要があるということです。
- 1