新年度がスタートして2ヵ月が過ぎ、新卒・中途採用の従業員を新たに迎えた企業では、「思っていた業務や待遇と違う」、「雰囲気に馴染めない」、「急な体調不良」などの理由で、新しい従業員が無断欠勤に至り、連絡が取れないままの状態が継続する事例が増える時期でもあります。無断欠勤に関する対応は難しく、苦慮することも少なくありません。今回、「何度連絡しても返答がない」という状態で長引く無断欠勤への対処方法と、円満な“自然退職”について、社会保険労務士の視点も踏まえて解説します。
「無断欠勤継続中の従業員と連絡が取れない……」、そのとき企業側はどのように対応するべき?

従業員が無断欠勤を継続している場合、企業側の初期対応はどうするのがベスト?

無断欠勤の対応は企業にとって悩ましい課題です。欠勤中の従業員の業務を周囲がサポートするほかに、組織全体のモチベーションが低下する等、職場環境にも影響を与えます。あらかじめ就業規則や労働条件通知書に、無断欠勤や自然退職(後述)についての規定や取り決めを記載し、企業と従業員の双方で、入社の際に充分な確認を行い、認識を共有しておく等、企業側の事前対策はとても重要です。

しかし、規定や取決めがいくら万全であっても、様々な要因から「無断欠勤継続」という状況は生じてしまう場合があります。無断欠勤が発生した初期の段階で、企業側は「定期的に欠勤中の従業員に数回の連絡を入れる」という事実確認のほかに、「安否確認のために自宅を訪問する」等の対応を必ず行いましょう。

たとえ、無断欠勤している従業員の最近の勤務態度に何かしらの心当たりがあったとしても、「突発的な交通事故や、何らかのトラブルで負傷した」、あるいは「急病で重体となり、入院を余儀なくされているため連絡が取れない」、「急病のため自宅で倒れている」等の突発的な要因・状況も考えられます。「新型コロナウィルスに感染し、自宅療養中に容態が急変」といった可能性なども視野に入れて、感染状況の把握や安否確認を行うなど、企業側の対応が必要です。

従業員の病気や怪我、自然災害などの非常時に備えて、本人以外家族などとも連絡が取れるように、企業は「緊急連絡先」を把握しておきましょう。無断欠勤があった際には、緊急連絡先にも必ず問い合わせることをおすすめします。

ここで、企業側として気を付けたい注意事項を挙げておきます。無断欠勤中の従業員への緊急連絡に対しては、冷静な対応が必要です。

●感情的にならない。𠮟責しない
●欠勤理由を過度に詮索しない
●退職、解雇をほのめかす


上記3点には、充分配慮しなければなりません。感情的になって、無断欠勤した従業員を強い口調で責める等の対応をすると、混乱や新たなトラブル発生の原因に繋がり、解決が難しくなってしまいます。従業員の状況確認のため、「出社可能な日時」、「従業員の今後の勤務に対する意思確認」に徹しましょう。

無断欠勤の理由は、「仕事が嫌」、「対人関係の悩み」など職場環境に起因するものもあれば、それ以外の従業員側の怪我や病気、メンタル疾患などのほか、「プライベートで重大な問題を抱えており、会社には言い辛い悩みがある」という背景もあり得るでしょう。過度な詮索や干渉はハラスメントに繋がってしまう可能性があるため、質問内容や対処方法には慎重さが求められます。

「無断欠勤中の従業員が返信も応答もない」場合の“自然退職”についての対応

無断欠勤中の従業員に正当な理由が存在しないまま、音信不通の日数が継続され、就業規則にその旨を定めた日数を満了した場合には、企業側がその従業員に関する「自然退職」の手続きを行うことが可能となります。

「自然退職」とは、労働者・企業側の意思には関係なく、ある期間が満了した時や要件を満たした場合に、自動的に労働契約が終了となる退職のことです。就業規則、労働条件通知書や雇用契約書に定められている事由を満たした場合に、労働者・企業側に特段の意思表示がなくても、その労働契約が終了する退職を指します。

自然退職として取扱う際、企業側は次の要件が必要です。

●就業規則に内容が規定されていること
●10人以上の企業では、就業規則の届け出がなされていること
●従業員に対して、就業規則の内容が周知されていること
(労働基準法 第89条、第90条)

従業員数が10人未満の企業であれば、就業規則の届け出の義務はありません。しかし、無断欠勤の結果、「自然退職」と企業が判断し退職の手続きを取る場合には、10人未満の企業であっても、自然退職について就業規則に規定されており、かつ、それが労働者に周知されている必要があります。

また、就業規則のほかに、「労働条件通知書」や「雇用契約書」などにも無断欠勤と自然退職についての内容を記載し、入社手続きの際に口頭でも説明を行って、双方の理解と認識を共有しておくことも重要です。私の経験では、自然退職とみなす日数の考え方について、無断欠勤の継続日数期間は「14日間」、「21日間」、「1ヵ月」が多い印象です。

この場合の退職理由は「自己都合退職と同様とする」等も就業規則に規定して労働基準監督署に届け出た上で、企業内で周知されていれば、自己都合退職として取扱うことが可能です。

しかし、企業側の不十分な対応や、双方の認識に不一致があると、無断欠勤した従業員側から「解雇された」、「退職勧奨された」と主張される可能性があります。実務面での取り扱いは判断が難しい場合もあり、状況に応じて退職事由が「会社都合退職」、「解雇」となる場合もありますので、個別の対応に不安がある際は、専門家へのご相談をお勧めします。

無断欠勤の日数を何日間とするのか、また、自然退職としないで雇用を継続してみるのか等の例外規定の取り扱いについては、その時の状況も踏まえて慎重に判断しましょう。無断欠勤が繰り返される場合もありますので、そのようなケースも想定した取り決めをしておけば、いざという時の対応に慌てる事なく備えることができるでしょう。

最後に、自然退職とみなす際の、退職手続き面での注意点を挙げておきます。企業が交付している従業員の社員証や名札などについて、音信不通により回収不能の際は、

・自然退職に伴い失効とする規定
・健康保険証の返還方法
・社会保険・雇用保険の資格喪失届に関する規定

などの他、従業員の私物についての返還規定も取り決めておきましょう。

無断欠勤継続による自然退職は、定めた期間が到来することをもって退職とみなしますので、退職届は不要です。ただし、客観的な事実関係や日付について正確な労務管理を行うためにも、書面やメールなど文章による通知の方法で、自然退職とする旨を従業員に知らせることをお勧めします。

無断欠勤を前提として取り決める自然退職の対応は、事実関係の確認や付随する手続きなど、企業側の負担は大きくなります。しかし、組織の活性化や職場環境の改善、他の従業員のモチベーション維持、労働生産性の向上等の観点から、トラブルを早期に解決する方法の一つと考えて準備しておくとよいかもしれません。


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