「MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)」の定義や経営理念との違いとは
「MVV」とは、ミッション(Mission)、ビジョン(Vision)、バリュー(Value)の略語を指す。日本語ではそれぞれ使命、理念、行動指針と訳される。まずミッションとは、その組織が存在する意義や目的を意味する。組織のメンバーがミッションを理解することで、各々がその実現に向けて自分は何を目標とすれば良いかを考えやすくなり、自分の仕事により専念できる。次に、ビジョンとは、目指す理想の姿を指す。使命を達成するためにはどういう組織の状態でなければいけないか、もしくは使命を実現した組織の将来像と言い換えても良い。最後に、バリューだが、これは組織の価値観や価値基準を表す。ミッションやビジョンを実現するためにも、社員はこうした行動をする必要があるという基軸が定められている。
この3つの関係性としては、バリューはビジョンの土台となり、またビジョンはミッションの土台となる。すなわち、ミッションの達成のために、ビジョンを実現する必要性があり、そのためにも、具体的な価値基準となるバリューが定められているのだ。
●企業理念や経営理念との違い
「MVV」に類する用語に、経営理念や企業理念・行動指針などがある。どう違うのかをここで説明したい。まず、経営理念とは、経営を進めるにあたり、どういった方針や手段を取るのかを明文化したものだ。そのため、時代背景や経営者の交代などによって、変わることもありえる。次に、企業理念とはその会社の存在意義を表したものだ。企業として社会にどのような価値を提供するのかを定めたものなので、変化することはほとんどない。
最後に行動指針だが、これは経営理念や企業理念を達成するための行動原則をまとめたものだ。具体的にどのように行動を取るのかが示されている。
●なぜ重要視されているのか
そもそも「MVV」は、今なぜ重要視されているのであろうか。その答えは、「MVV」が、全従業員にとって会社のあるべき未来を導く羅針盤、道標と位置づけられるからである。事業に勢いがあれば、方向性が揃っていなくても一定の成果は出るかもしれない。しかし、大きな壁に遭遇した時に、「MVV」がなければ企業は単なる烏合の衆に成り下がってしまう。さらに、企業として顧客や求職者などの第三者に自らの存在意義を理解してもらいやすくなるという狙いもある。「MVV」という概念を提唱した、「マネジメントの父」、「現代経営学の父」と称される、ピーター・ドラッカー氏は、著書『Managing in the Next Society』において、こう記している。
「これからの企業は、ミッション、ビジョン、バリューを定め、組織全体で明確な存在意義や価値観を共有できている状態が望ましい」
なかでも、ピーター・ドラッカー氏が強調しているのは、ミッションの位置付けだ。企業が自らの使命や理想を見失うことなく、変わりゆく社会環境に柔軟に適合していくには、会社の判断軸となるミッションが機能するかどうか。そこに掛かっていると考えているからである。
「MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)」にはどのようなメリットがあるのか
「MVV」を定めることで、どのようなメリットが享受できるのか。代表的な4つを取り上げてみたい。●従業員エンゲージメントの向上
新型コロナウイルスの感染拡大によりリモートワークの導入が一気に定着した。その一方では、会社への帰属意識が低下している課題も出てきており、従業員のエンゲージメントに関心が集まっている。こうしたなか、「MVV」は、個人の主体性に対して、良い影響を及ぼすとされている。独自のミッションがあれば、それに惹かれて応募する人材が増え、また従業員が「MVV」に納得することで、チームとしての一体感が醸成されやすくなる。結果として、業績の向上も見込まれると言って良い。●自社の価値観にマッチした採用の実現
会社の「MVV」が言語化されていると、社内共通の価値観が醸成されやすくなる。採用活動においても、応募者が自分たちの価値観と合うかどうかを、独自の判断でなく、共通した認識で確かめやすくなる。そのため、自社の価値観にマッチした人材を採用でき、入社後のギャップも防げる可能性も高い。●採用活動での魅力の発信
近年は、採用活動において働きやすさをアピールする企業が増えている。具体的には、「残業が少ない」、「休みがとりやすい」、「ワークライフバランスが整っている」などを打ち出している。条件が整っている企業であれば、その方向性も間違いではないが、どの企業にも当てはまるというものでもない。もし明確な「MVV」があるなら、むしろそちらを企業の魅力として伝えた方が良いだろう。企業として目指す方向性や価値観に学生や求職者が共感することで、仕事に対する意欲が高まり、前向きに取り組んでくれるからだ。●共通指針の形成
「MVV」は、社員が日々行うことになる意思決定を迅速かつ、的確にさせてくれる重要な判断軸、価値観として機能する。時代環境は、ますます混乱・混迷の度合いを強くしているだけに、どのような判断を下せば良いのか難しい面があるが、社内に「MVV」がしっかりと根付いていれば、皆が納得できる意思決定をどの社員もできるようになると言って良い。「MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)」の浸透に向けたポイントとは
想定しやすい課題としてあるのが、「MVVはあるけれど、社内になかなか浸透しない」というケース。ここでは、「MVV」浸透のためのポイントを挙げてみたい。●社内報の作成
社内報は、企業の情報共有や社員間コミュニケーションの促進などに役立つ。その中で、会社の「MVV」を随時取り上げ、社員への理解を促していきたい。●クレドカードの作成
クレドカードとは、企業の行動指針を印刷したカードを指す。従業員はそのカードを常に携帯し、必要に応じて再確認することで、「MVV」を踏まえた意思決定や行動が図れるようになるだろう。●1on1の実施
1on1の狙いの一つとしてあるのが、会社のミッションを上司から部下へ直接浸透させることである。時間はかかるものの、社員一人ひとりに確実に「MVV」を浸透させていく上では、有益な手段であると言える。●表彰の実施や評価制度の工夫
ミッションやバリュー(行動指針)に基づく行動をした社員を全社レベルで表彰・評価するのも効果的だ。定期的に表彰式を行うのも良いが、日常的に評価しあえる仕組みを導入できるとより良い。実施する上では、表彰・評価の基準をオープンにすることをぜひ心がけたい。基準が明確であれば社員は、行動に移しやすくなるからだ。●中長期目線での実施
どんな施策を選択したとしても、すぐに「MVV」が社内に浸透するということはない。確かな成果を導くには、どうしても時間がかかってしまう。それだけに、中長期の目線を持って継続的に施策の実施に取り組んでいく必要がある。●経営者からの発信
人事だけでなく、あらゆる機会を通じて、経営者が自ら「MVV」の重要性を説くことも意義深い。会社がそれだけ「MVV」を重視しているという強い姿勢が、社員に伝わるからだ。●従業員の腹落ち
社員が自社の「MVV」をどう理解しているのかを、確認する機会を設けてみるのも良いアイデアだ。受け取り方や解釈は、やはり社員によって少しずつ異なってきてしまう。それを共有化することで、「MVV」を自分事として捉えることができるようになる。「MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)」の企業事例
最後に、「MVV」の代表的な企業事例を紹介したい。●キリンホールディングス
“社会における永続的、長期的なキリンの存在意義” キリングループは、自然と人を見つめるものづくりで、「食と健康」の新たなよろこびを広げ、こころ豊かな社会の実現に貢献します”というのが同社のミッションだ。ビジョンには「食から医にわたる領域で価値を創造し、世界のCSV先進企業となる」とあるように、近年注目されるCSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)が盛り込まれている。未来を見据え時代をリードする企業でありたいとする同社の姿勢が伝わってくる。それらのミッション、ビジョンを実現する価値観となるバリューとしては、「熱意・誠意・多様性〈Passion. Integrity. Diversity.〉」を掲げている。●ソフトバンクグループ
ソフトバンクグループは、経営理念として「情報革命で人々を幸せに」を掲げている。人々の幸せに貢献した上で目指すべき将来的なビジョンとしては、「世界の人々から最も必要とされる企業グループ」とある。その実現には、チャレンジ精神が不可欠となってくるだけに、バリューは「努力って、楽しい。」としている。いずれも、シンプルな言葉で表現されているのが同社の特徴だ。社員に伝わりやすいだけでなく、記憶にも残りやすいので常に意識しながら行動していけるメリットがある。- 1