※オンライン対話イベント「アルムナイと共に創る、いまと未来。『よく生きる』を体現するためのパートナーシップを語る」とは
登壇者4人の自己紹介
上田 浩太郎氏(ベネッセ現職、ベネッセホールディングス執行役員 海外事業開発本部 副本部長/ベネッセコーポレーション取締役・事業戦略本部長)みよし ようこ氏(ベネッセアルムナイ、(有)みよしようこ事務所代表)
後藤 照典氏(ベネッセアルムナイ、アイディール・リーダーズ COO)
大場 智代美氏(ベネッセアルムナイ、アルムナビ/(株)ハッカズーク)
モデレーター:佐藤 徳紀氏(ベネッセ現職、ベネッセコーポレーション ベネッセ教育総合研究所)
佐藤氏 本日は「アルムナイと共に創る、いまと未来」をテーマにして、登壇者と共に議論を深め、ベネッセの企業理念である「よく生きる」を体現するためのパートナーシップについて考察したいと思います。最初に皆さんの自己紹介をお願いします。
後藤氏 私は2006年にベネッセに入社しました。小論文講座やDMに関わる業務を手がけ、最終的に人財部で新卒採用を担当しました。その時に佐藤さんたちと一緒に「One Benesse」を立ち上げています。今はアイディール・リーダーズというコンサルティング会社で経営メンバーの一人として活動を広げています。具体的には、経営者向けのエグゼクティブコーチングや組織変革のコンサル。このほか、副業としてグロービスで講師をしています。
上田氏 マッキンゼーアンドカンパニーを経て2015年1月にベネッセホールディングスCSOとして入社しました。現在はベネッセコーポレーション取締役として、中長期戦略、データ活用で新たな価値の創出を目指すR&D/事業開発を行い、事業開発では発達障害者向けの事業プランを進めています。今年4月に新設された海外事業開発本部では、介護も含めたグループ全体における海外成長の加速に向けた活動を行っています。ちなみに、前職のマッキンゼーもアルムナイが活発で、今でも月に1か2回は誰かしらコンタクトがある状況です。
大場氏 1992年にベネッセがまだ福武書店という社名だった時に入社しました。11年勤務して、2003年に退社しました。その後はHR領域とベンチャー企業で活動し、2017年からフリーランスとして、コーポレートアルムナイの立ち上げから構築の支援を行う株式会社ハッカズークで働いています。
みよし氏 ベネッセではたくさんの経験をさせていただきましたが、印象深いのは雑誌「カルディエ」に関わったことです。事業としては大失敗しましたが、その後、出版を立て直そうと「たまごクラブ・ひよこクラブ、サンキュ!」の創刊プロデュースを担当しました。「たまひよ」では当時珍しかった、顧客視点に立った誌面作りを行い、良い経験ができたと感じています。現在は立ち上げた事務所で、「仲間を作る、世の中にまだないけどあったらいいものを形にする」をコンセプトに、人や出版、商品のプロデュースなどさまざまなプロジェクトを動かしています。
社員が理念に共感しているからこそ、強固なアルムナイが構築される
佐藤氏 本題に入る前に一つ話題提供をさせていただきます。今、国内でアルムナイ構築の動きが広まっており、2020年6月にパーソル総合研究所が「コーポレート・アルムナイ(企業同窓生)に関する定量調査(※)」をリリースしました。その調査によれば、アルムナイとの良好な関係構築により当該企業は大きく3つのメリットが生じるとのことです。1つめは「再入社、組織外の人脈、業務委託など外部パートナーという意味での“協働”」、2つめは「評判を拡散する“ブランディング”」、3つめは「BtoBのビジネス取引、商品・サービスの販売などの“顧客”」でした。この調査結果を見て、改めて企業とアルムナイのつながりは単一ではないということを確認しました。※株式会社パーソル総合研究所「コーポレート・アルムナイ(企業同窓生)に関する定量調査」
アルムナイは関わる方の立場だけではなく、その方の背景もふくめて多くの意味合いを持つものと思います。そこで予め、登壇者にテーマに関連する問いを投げかけています。本日は、その回答をいくつか紹介しながら、回答に至った思いや背景などを深掘りしていきます。
問いの1つめは、「アルムナイ(OBOG)はあなたにとってどんな存在?」です。この根本的とも言える問いに対して、上田さんは「安心感。共有できる」と答えています。この回答にはどういった意味が込められているでしょうか。
上田氏 どの人も同じ理念や価値観を共有している。アルムナイは、そうした安心感のあるコミュニティということです。通常、人に対しては、それなりのプロセスや経験を一緒にしないと踏み込めないところがあります。しかし、アルムナイの人たちとは初対面でも、共通言語を持っているため、すぐに踏み込んだ話ができます。こうした関係を構築できる人とは、会社を辞め社会に一人で出た時は、なかなか会うことができません。その意味で、すごく貴重な存在です。
みよし氏 私はベネッセ以外の会社に所属したこともなく、他の会社を詳しく知りません。客観的に評価して、特殊なところはあるのでしょうか。
上田氏 マッキンゼーを辞めてベネッセに入社する前に、海外の同僚にベネッセについて説明すると、「教育・生活・介護の分野で、理念経営を行いながら、ここまで大きくなった会社は珍しい。ユニークな存在だ」と言われました。実際、「よく生きる」の理念に共感し、社員一人ひとりに根付いているところは、ユニークと言って差し支えないでしょう。
佐藤氏 ベネッセが世界的に見ても国内のアルムナイから見てもユニークという点は、現職社員としては普段認識する機会は少ないため、興味深く、改めて見直したいことです。ここで次の質問である「アルムナイに関わってみた実際」につなげたいと思います。みよしさんは「根本的な資源は『人』であることの再確認」と答えていただきました。この回答は、みよしさんが現職の人を含め、さまざまな関わりを持つ中で紡ぎだされた言葉だと考えられます。その考えに至った背景やエピソードなどをご紹介いただければと思います。
みよし氏 ベネッセという会社は、人ありきの会社だと思います。だからこそ、事業の命綱は人と捉え、採用や育成に力を注いできました。会うとすごいなと思う人が多いですし、人こそがベネッセ最大の財産であるという思いを、アルムナイ活動を通じて共有できたらと考えています。
また、ベネッセアルムナイの特徴として、良いか悪いかは別ですが、お金儲けをしましょうという人はまずいません。世の中をこうしたい、お客様にこういう貢献をしたい、という思いをぶつける人たちばかりです。私がかつてお会いした人で、足を運んだ先でたまたま地震に遭って、ボランティアとしてそのままいつくという人がいました。その人は、その後災害の現場をいくつも経験して、今では被災地救済のコーディネーターとして活躍しています。普通ではなかなか考えられない生き方を貫き通している人が、ベネッセアルムナイにはいるのです。
佐藤氏 アルムナイには多様な人がいることを感じるエピソードですね。後藤さんには「永遠に仲間が増える」と回答いただきました。どのような意味が込められているのでしょうか。
後藤氏 ベネッセは辞めても辞めた感じがしません。辞めたから裏切り者などと言われることは一切なく、仕事などを通じ何らかの形でずっと関わり合いを持つことができます。すると、アルムナイのコミュニティがしっかりとすることで仲間が増え続けると捉えることができ、それは楽しみでしかなくなります。困ったことが起きたらアルムナイに行けばいい、解決を図れる人がいる、みたいな存在になれば、素敵ではないでしょうか。そうすることで社会に対する価値創出にもつながるはずです。
アルムナイは、自社の新たな価値の創出につながる
佐藤氏 ここまでのお話をお聞きして、理念の大切さと言いますか、共通の思いや哲学を持つことの大切さを再認識しています。そこで続けて「アルムナイと理念『よく生きる』とのつながり」の問いに移りたいと思います。大場さんは「コミュニティ=共感。他社と比較して、ベネッセは理念の柱がしっかりしていると感じる」とお答えいただいていますが、これはコーポレートアルムナイの構築に関わっているからこそ感じられることでしょうか。大場氏 はい。アルムナイが立ち上がるスピードは、理念が根付いているかどうかに関わるところが大きいと思います。理念が共有出来ておらず、共通言語や共通の思い・哲学がないと、どうしてもアルムナイとの関係も薄くなりがちです。
佐藤氏 なるほど。後藤さんは「理念があるからこそ、つながり続けられる。ベネッセアルムナイの可能性」と回答いただいていますが、理念と可能性を結びつけて考えた背景を教えてください。
後藤氏 冒頭のパーソル総合研究所の話でもありましたが、基本的には何らかのメリットがあるからつながる、というのが普通だと思います。一方、ベネッセアルムナイはそれ以上のもの、つまり損得勘定を超えたつながりが生まれるのではないかという期待があります。新しい価値の創出もあるのではないでしょうか。
佐藤氏 みよしさんも「損得の付き合いじゃない感じ。ただ、他社より儲け下手が多い気がするのは気のせいか(笑)」と回答いただいています。みよしさんは現在のベネッセアルムナイ発足前に、福武書店のOBOG会を運営していた経験もお持ちです。みよしさんから見た、アルムナイ、OBOGのつながりはどんなものでしょうか。
みよし氏 OBOG会は16年くらい続きました。その間に約150人にインタビューを行っています。感じたのは、派手さはないが「一隅を照らす」活動をしている人が多いということです。例えば、日本で初めてアトピーのお子さんを持つお母さんのネットワークを作ったり、フィリピンのミンダナオ島で親に捨てられた子どもたちの就学支援を行ったりしています。ビジネスとして大きな成功を収めたのではありませんが、一隅を照らす活動をしている人がいることを知ってほしいなと思いました。
また、今は社会課題の解決がこれまで以上に求められる時代になっています。もしかしたら一隅を照らす活動をしている人同士が、時にOBOGの枠を超えてつながったら、GAFAのような世界的企業にもタメを張れるのではないか。そんな夢を抱いていました。OBOG会は諸事情でなくなりましたが、今はアルムナイがあります。この時代だからこそまたチャレンジする価値があるとも思っています。
後藤氏 確かにGAFAのような世界的企業には売上や時価総額という物差しだとかなわないかもしれませんが、思いや理念実現度だと、匹敵するもの、勝るものがあります。アルムナイを通じて、自分たちだから届けられる価値を広めていくのはとても素晴らしいことです。
上田氏 個人で見たらいろいろなライフステージで、いろいろな生き方をできるようになるのが良いと考えます。一隅を照らすステージがあってもいいし、企業の持つ大きな資本を使って大きなことを行うステージがあってもいい。今後、企業活動はプロジェクト単位で行うことが増えると予想されます。企業内で副業・兼業が当たり前になって、一人で複数のプロジェクトを担当する。その中に、社会課題に向き合うプロジェクトがある、という関わり方もできるでしょう。
「紹介の文化の醸成」や「現職とアルムナイのハブをつくる」ことが、アルムナイを活性化させる
佐藤氏 キャリアや会社で働くことの意味が変わっている今、アルムナイを通じて、可能性を広げていくこともできるのではないかと思えてきました。以上を踏まえまして、4番目の問い「『よく生きる』ために、アルムナイと現職で共創するために何から始めたらよい?」を深掘りさせていただければと思います。みよしさんは「雑談から始めよう」とシンプルに答えていますが、雑談にどのような思いが込められているでしょうか。みよし氏 雑談でいろいろな話をしながら、その人を知っていきたいという思いがあります。何が得意、どういう肩書きがあるという話から入るのは、杓子定規過ぎるのではないかと思っています。
佐藤氏 後藤さんは「自分自身のテーマを持つこと。テーマがアンテナになって、つながる」と回答いただいていますが、どのような思いが込められていますか。
後藤氏 社会人になると、日々の多忙さにかまけて、ついつい自分が何をやりたいのか、どういったことに興味・関心があるのか、言ってみれば「マイテーマ」のようなものを忘れがちになります。しかし、マイテーマがないと雑談でも盛り上がらないでしょう。その意味で、テーマを持とうと答えました。
佐藤氏 示唆に富みます。上田さんは「こういう人いるかなぁ、と思ったら探せるようになるといい」と回答されていますが、実現に向けてどのようなことが必要でしょうか。前職のアルムナイの取り組みから考えられる具体的な施策をご教示ください。
上田氏 退職した人のうち希望者をメーリングリストに入れてはいかがでしょうか。あるいは現在、事務局で運用しているFacebookのコミュニティに招待するなど。事務局に誰かをアサインして常時、情報をアップデートするようにすれば、こういう人を探しているという要求に応えやすくなると思います。また、データベース化と共に重要なのが、紹介の文化を醸成することです。誰かを探すとなったら、人に尋ねるのが手っ取り早いでしょう。
大場氏 データベースは有用ですが、作っただけで終わる可能性もあります。ハブになり、人と人との懸け橋になるような人の存在は重要だと思います。そうした人が社内やアルムナイの中にいれば、人とのつながりが循環していくのではないでしょうか。
トークセッション中、繰り返し登壇者が語っていたベネッセの理念「よく生きる」。現職の社員、アルムナイに浸透しているからこそ、アルムナイの構築がスムーズに進み、今後の大きな発展の可能性を各登壇者が感じたのだろう。アルムナイの活動でポイントになるのは、イベント中にキーワードとして出た「共通言語や価値観の共有」だ。どの企業も事業の目的や目指す姿がある。それらが明文化されておらず、社員に十分に伝わっていないとしたら、まずは改めて自社の存在意義を周知することから始める。明文化出来ていても浸透していなければ、共通言語や価値観を従業員同士で話す場を設けてみる。多少時間はかかるかもしれないが、価値のあるアルムナイを構築していくうえで、重要なアクションではないだろうか。
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