また、美濃部氏はセミナーの主旨について「コロナ禍によって、世の中が本質的なものを重視する傾向になってきています。それに伴い、働き方や企業のあり方も変わろうとしています。そこで、ビジネスにおいて本質を日々追求している山口さんや原野さんをお呼びし、働き方や採用について示唆をいただきたいと思い、今回、開催しました」と紹介した。
スイッチ一つで別の職場に行ける時代、企業は兼業・副業の働き方を認めざるをえなくなる
トークセッションでは、独立研究家であり、ベストセラー『ニュータイプの時代』の著者山口 周氏、GODIVAの「日本は、義理チョコをやめよう」やPOLAの「この国は、女性にとって発展途上国だ」など社会と未来を鋭く見つめるキャッチコピーを創り出しているクリエイティブディレクター 原野 守弘氏、ミッションを重視した新卒採用活動で成功実績を持つソウルドアウト代表取締役会長CGO荻原 猛の三名が壇上に揃う。まず、人々の価値観と働き方が急激に変化している今、仕事の選び方はどう変化し、企業には何が求められるのか、登壇者三名がそれぞれ見解を述べた。
山口氏は今後の働き方について、「企業は兼業・副業の働き方を認めざるをえなくなる」と言及。「新型コロナの感染拡大前は、オフィスに居るという物理的な障壁によって、兼業・副業ができない従業員も多かったのではないか」と持論を展開した。
さらに、リモートワークが進んだことで、「スイッチ一つで別の職場に行ける時代に変わり、働き方が変わる大きな転換点にいる」と続けた。パラダイムシフトが起こる今、企業が“自分の会社でしか仕事をしてはいけない”、“毎日オフィスで仕事をしなさい”と従業員の働き方を縛ろうとすると、「従業員の離職は加速していく」と氏は警鐘を鳴らした。
続けて、リモートワークにおける働き方のポイントを挙げ、2017年に発表した米ギャラップ社の調査データを山口氏は紹介した。オフィスに毎日出社する場合と、1週間のうち3~4日の在宅勤務をする場合と比較した際、生産性が上がったのは後者という調査結果が示された。
仕事のパフォーマンスを向上させるうえで、「週1~2日は出社し、週3~4日は自宅で働く。リモートワークが主体となっていく社会を見据えた際に、このスタイルを取ることが企業にとっても従業員にとっても適している」と提言した。
萩原氏は意味が重視される時代における採用のあり方に触れ、「ソウルドアウトの採用は、スキルをそこまで重視していません」と自社に置き換えながら見解を述べた。意味を重視する働き手が増えていることを受け、「当社の理念やミッションに共感したうえで、何を成し遂げたいのか。志望動機でそこを一番見ています」と選考のポイントを示唆した。
採用ブランディングで大事なのは、メッセージと社内の実態が一致しているかどうか
原野氏はクリエイティブディレクターの視点から、企業に求められる採用ブランディングについて言及。「企業は事業内容だけでなく、価値観や姿勢を発信する必要がある」と話した。事業内容だけでは、「働く意味を学生や求職者が見出せない」という。自ら手がけたユニリーバ・ジャパンの広告を例に挙げ、「メッセージと社内の実態を一致させることが重要だ」と原野氏は話す。広告で“採用の履歴書から顔写真をなくします”という顔や性別で判断しないというメッセージを掲げながら、社内でパワハラやセクハラが横行していれば、「入社した学生のエンゲージメントに関わる」と指摘した。
また、働く意味が重視されることで、「今後の仕事の価値観はさらに変化する」と原野氏は語る。「自分の人生のなかで、この仕事でいいのか、この会社でいいのか、人生と会社・仕事を紐づけて、就職や転職をする方が増えるのではないか」と予測した。
企業文化に会社の規模は問われない
セミナーの中盤では、モデレーターの美濃部氏が、意味の時代における働き方・採用のポイントについて、登壇者の三名にアドバイスを求めた。山口氏は「今後、従業員の生産性は二極化する」と考察。自分が夢中になる仕事、意味を見出して自分が夢中になる仕事をしていると、意味を見出せず上司の目だけを気にしながら惰性で仕事をする人材とでは、「モチベーションやパフォーマンスが大きく異なっていく」という。意味を見出せる人材を確保するためにも、「企業側は自社のミッションや価値観を発信することが重要」と山口氏は話す。そのうえで、「採用ブランディングは、自社のポジションを明確にすることが大事です。そうすることで、自社の伝えたい価値観がクリアになります。ポジションを曖昧にして、誰からも好かれようとするメッセージでは、結果的に誰からも好かれない」と採用のポイントを述べた。
荻野氏は、人材確保に悩む特にベンチャー企業や中小企業に対して、「ミッションや企業理念で個性をどれだけ打ち出せるかが大切になってくる」と見解を語った。山口氏同様、「求職者全員から好かれようとせず、採用情報を発信することが大事だ」と話す。
採用に苦戦している企業ほど、全員から好かれようとするミッションや経営理念を掲げる経営者が多いことを萩野氏は指摘。経営資源では大企業に負けても、企業文化は企業規模に左右されないため、メッセージ次第では採用市場において優位に立てる企業も出てくるという。
続けて、原野氏は意味の時代における採用のポイントとして、「ブランディングというのは、ちょっといい未来を見せることだと思っています。それは企業ブランディングでも採用ブランディングでも一緒。そのうえで、企業の身の丈に合ったメッセージを届けることが重要です」と述べた。また、「誇張はすぐ見抜かれ、デジタルネイティブ世代の学生や求職者には響かない」と警鐘を鳴らした。
グーグルのように本気でミッションや経営理念を掲げられるか
最後に、モデレーターの美濃部氏は登壇者の三名に、「会社が良い人材を採用するうえで、一番大事にすべきことはなんでしょうか」と採用のポイントを尋ねた。山口氏は「嘘がないこと」とシンプルに答えた。SNSが発達している時代をふまえ、「企業のミッションや理念と職場の実態が違えば、すぐ世間に伝わる」と話す。SNSによって、学生や求職者に矛盾がすぐ伝わり、選考辞退や内定辞退などが起こり、企業は大きなダメージを被ることになる。
山口氏はここで、ミッションと職場の実態が見事に一致している米グーグル社の事例を紹介した。「グーグルは、インターンで働く大学生に検索エンジンのソースコードを公開している」という。「日本のIT企業では、ありえないこと」とこの取り組みが、いかに異例であるかを強調。
グーグルのミッションは、“世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにすること”だ。職場内の従業員とインターシップの大学生の間に情報の格差が生じてしまえば、ミッションに対して嘘をつくことになる。職場内で矛盾が生じていれば、壮大なミッションなど実現するはずがない。そのような理由から、グーグルはインターンで受け入れた大学生に自社のソースコードといった情報を公開している。自社のミッションや理念を本気で実現したい人材を集めていくには、「グーグルのように本気でミッションや経営理念を掲げる必要がある」と山口氏は示唆した。
続いて、原野氏は、採用に関するメッセージを企業が発信するうえで、「学生や求職者を尊重することが大事である」と話した。採用ターゲットを一人の人間として扱わず、下に見ていれば、「文章の表現や言葉遣いに表れる」という。採用ブランディングを手がけるうえでの注意を促した。
萩野氏は、「企業は、掲げたミッションに共感できる人材を採用することが重要になってきます」と話す。そうすることで、「入社後のエンゲージメントにつながる」という。ソウルドアウトでは、直近3年で約70名の新卒社員が入社したが、退職したのはたった3名。ミッションを重視した採用で、同社は高い定着率を実現している。
「ミッションに共感した人材が社内に集まれば、情報共有のスピードも格段に上がります。変化の激しい時代において、組織における情報共有の速さは競争優位にもなります」とミッションを重視した採用の価値を語り、イベントを締めくくった。
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