「ビジネスマナー」とは、ビジネスシーンで仕事を上手に進めるための礼儀作法のことを指す。具体的には、ビジネス上での身だしなみや電話対応時のマナー、言葉遣いなどが挙げられる。現在オンライン上でのやり取りも多くなり、直接取引先と会う機会も減ってはいるが、自社の信用力やブランド価値を上げるためにも身に着けておくことが必要である。本稿では「ビジネスマナー」の重要性や基本的な種類、人事がビジネスマナー研修を行ううえで押さえておきたいポイントや検定情報など幅広く解説する。
「ビジネスマナー」の基本と種類とは? メール・電話対応などの一覧から検定情報や研修実施のポイントを解説

「ビジネスマナー」とは

「ビジネスマナー」とは、仕事を行う際に必要な配慮や礼儀作法を指す。ビジネス外でも「マナー」という言葉はよく聞くが、通常のマナーがその場で行うべきとされる行儀や作法のことを指すのに対し、ビジネスマナーは仕事を円滑に進めるために必要なものとされている。

ビジネスマナーと言われるのの例を挙げると、「身だしなみ」、「言葉遣い」、「名刺の交換」、「文書の書き方」、「電話対応」、「接客応対」、「職場での気配り」、「オンライン上のマナー」などがある。

「ビジネスマナー」が必要な理由

ビジネスマナーが必要な理由は以下のとおりである。

●円滑なコミュニケーションのため

ビジネスで出会うのは同世代や同じような考えを持っている人ばかりではない。さまざまな人々と出会うことになる。その中で上手にコミュニケーションを取るためには、身だしなみや言葉遣いがその場に合ったものでないとならない。

●信頼関係の構築のため

取引先と仕事をする際は、実務ができることはもちろんではあるが、周囲への気配りや電話対応、接客応対についてもチェックされている。これらがきちんとできていると、「信用できる担当者」、「この会社は安心して取引ができる」と評価され、信頼関係の構築が期待できる。

●取引先の満足のため

良い商品・サービスを提供することで取引先を満足させることはできるが、それに加えて感じの良い対応をするとさらに満足してもらうことができるはずだ。「同じような商品を購入するならば、感じの良い人から買いたい」と考える企業や顧客は多いだろう。

「ビジネスマナー」のメリット

ビジネスマナーを身に付けていると、どのようなメリットがあるのかを紹介する。

●好印象を持たれ、業績に寄与することができる

多くの企業や顧客は、取引先企業の商品やサービスがどのようなものかを確認するのと同時に、その企業の振る舞いについてもチェックしているだろう。電話対応や接客態度などのビジネスマナーが良いと、担当者だけでなく企業全体についても好印象を持たれ、結果として業績の向上につなげることもできるはずだ。

●自社のブランド力の向上

「従業員の身だしなみが整っている」、「電話対応や接客応対が素晴らしい」という点は企業の評価にもつながる。商品力はもちろんだが、働く人たちがビジネスの場にふさわしいマナーを身に着けていることも、企業のブランド力アップに貢献することになる。

「ビジネスマナー」5原則

「ビジネスマナー」において「表情」、「挨拶」、「身だしなみ」、「言葉遣い」、「態度」は5原則と呼ばれている。それぞれを詳しく説明しよう。

●表情

表情は相手に与える印象を大きく左右する重要な要素と言える。笑顔を心がけ、相手に好印象を与えることが大切だ。ただし、作り笑いは逆効果となるため、目元まで意識した自然な笑顔を意識したい。また、真剣に話を聞く時は、うなずきや相槌を入れながら、相手の目を見て話を聞くことを意識したい。

●挨拶

挨拶は人間関係の基本ともいえる。特にビジネスの場では、挨拶の言葉を述べた後に頭を下げることがマナーとされている。シーンに応じて頭の下げ方にも違いがあるため押さえておきたい。

・会釈:軽く腰を折り、足から1.5m程度先に視線を落とす。社内で人とすれ違う時などの挨拶に使う。
・敬礼:足を止めて、自分の足先から身長と同じくらい先に視線を送る。取引先・顧客へ挨拶をする時に使う。
・最敬礼:腰を45度に折り、自分の足元を見る。謝罪の時の挨拶に使う。

●身だしなみ

身だしなみは取引先や顧客に一番にチェックされやすい部分でもある。身だしなみが整っていると、好印象を与えることはもちろんだが、誠実さや信頼性のアピールもできる。おしゃれを気にすることよりも、「働きやすい格好か?」、「清潔感はあるか?」を心がけるように指導することが重要である。

●言葉遣い

周囲との良好なコミュニケーションのためには、正しい言葉遣いも重要となる。ビジネス上では親しい間柄であっても、改まった言葉を使うように指導を行う必要がある。例を挙げると以下のような言葉だ。

・今日→本日
・今度→このたび
・さっき→さきほど
・あとで→のちほど
・もうすぐ→間もなく

また、正しい敬語を使うことも重要だ。場面に応じて「尊敬語」、「謙譲語」、「丁寧語」を使い分けることも求められる。言葉遣いについては、実際のビジネスシーンを想定した研修などを行うとよいだろう。

●態度

ビジネスの場では、常に礼儀正しく、誠実な態度で接することが求められる。相手の話に真摯に耳を傾け、適切な距離感を保ちながら、相手を尊重する姿勢を示すことが大切だ。また、時間を厳守し、約束事は必ず守るなど、信頼される社会人としての基本的な態度を身につける必要がある。

その他の基本的な「ビジネスマナー」の種類一覧

次に基本的な「ビジネスマナー」の種類を見ていこう。

●名刺交換

ビジネス上で名刺交換は必須といえる。いつでもスムーズに名刺が出せるように準備しておくことが必要だ。また、複数人数を相手に名刺交換することも想定した指導も行っておくと万全である。

●電話対応

顔が見えない応対になるため、特に気を遣わなければならない点といえる。電話に出るまでの時間、声のトーンや話すスピード、正しい話し方をしているかについての指導が必要だ。ただ、元気な話し方がいいのか、落ち着いた話し方がいいのか、といった声のトーンについては各企業によって異なるため、研修を行う前に企業内で意見を統一させておくことが重要である。

●席順

ビジネスではどの席に誰を通すのか、自分の立場ならばどこに座ればいいのかについても把握しておく必要がある。会議室、応接室、会食の席、クルマ、飛行機など、各場面を想定した指導が有効だ。

●メール

用件を丁寧に伝えることはもちろんのこと、簡潔で分かりやすいか、誤字・脱字がないか、についても配慮する必要がある。また、読みやすく改行しているかもチェックしておきたい。

●ビジネス文書

簡潔で分かりやすい文書になっているかが重要である。社内で決まった書式やフォーマット等がある場合は、そちらを使うことを周知徹底させておく必要があるだろう。

●来客対応

来客の対応で企業の印象が決まってしまうため、一人ひとりが会社の代表として対応していることを認識してもらわねばならない。きちんとした挨拶を心がけるよう指導することが重要だ。また、応接室等に案内する場合は、どこに座ってもらうかといった席次についても把握しておく必要がある。

●報連相

「報告・連絡・相談」は社内のコミュニケーションで必須となる。特に良くない報告はすぐに行うことの重要性は指導しておきたい部分だ。また、困ったことがあったら速やかに相談できるような環境づくりも重要といえる。


●クレーム対応

クレーム対応は、ビジネスにおいて避けては通れない重要なマナーだ。まず相手の話を最後まで傾聴し、心情を理解した上で誠意を持って謝罪したうえで、事実確認を行い、問題の解決策や代替案を提示するのが基本の対応となる。重要なのは、極力迅速な対応をし、責任のたらい回しを避けること、そして終始敬語を使用することだ。クレームは企業の成長機会と捉え、寄せられた情報は組織全体で共有し、サービス改善に活かすことが望ましい。

●オンラインマナー

感染症拡大防止の観点から、テレワークで業務を行うケースや取引先に赴かずにオンライン上で商談を進めるケースが増えている。そのため、オンライン上のマナーを押さえておく必要性が高まってきている。例えば、「オンライン会議ではカメラをオンにする」、「服装には気をつける」、「照明が暗すぎないようにする」、「目線に注意する」など、具体的な例を挙げての指導が効果的である。

「ビジネスマナー」に重要なコミュニケーションスキル

信頼関係を築き、円滑に業務を進めるためには正しいコミュニケーションスキルが不可欠だ。「ビジネスマナー」において重要な7つのコミュニケーションスキルを解説していこう。

●批判をしない

相手の意見や行動への批判は、職場の雰囲気を悪化させる原因となる。代わりに、建設的な提案や改善点を具体的に示すことを心がけたい。相手の立場に立って考え、なぜそのような行動をとったのかを理解する姿勢が大切だ。

●敬語を正しく使う

敬語は相手への敬意を表現するために正しく活用したい。尊敬語、謙譲語、丁寧語を場面に応じて適切に使い分けることで、信頼関係を構築しやすくなる。上司や取引先との会話ではとりわけ重要となる。

●適切な距離感を保つ

親しくなりすぎず、かといって冷たい印象も与えない、程よい距離感を保つこともマナーにつながる。オンライン上でのコミュニケーションでも、言葉遣いや反応を意識して適切な距離感を保ちたい。

●敬意を払う

相手の時間や立場を尊重し、誠実な態度で接することが基本だ。約束の時間を厳守するのはもちろん、相手の意見に真摯に耳を傾けることなど、日々の小さな行動の積み重ねが、相手への敬意となって表れる。

●表現を和らげる

直接的な表現は時に相手を不快にさせたり傷つけたりする可能性がある。「~させていただく」、「恐れ入りますが」などのクッションとなるような言葉をうまく使用し、柔らかな印象を与える表現を心がけると良い。

●話を遮らずに聞く

相手の話を途中で遮らずに最後まで傾聴し、受け入れることは、話を聞く側の基本的なマナーだ。また、適切なタイミングで相槌やうなずきなどのリアクションを取りながら、相手の意見を十分に理解している姿勢を見せることで、信頼関係が深まる。

●簡潔明瞭に話す

要点を絞り、論理的に情報を伝えることも重要だ。結論から先に述べ、その後に理由や詳細を説明する構成を意識すると良い。また、専門用語や難しい表現は避け、誰にでも分かりやすい言葉を選ぶことも大切だ。

「ビジネスマナー研修」実施のポイント

次に、「ビジネスマナー」の研修を行う際に押さえておきたいポイントについて紹介する。

●目的の明確化

従業員にビジネスマナー研修が必要な理由を理解してもらうことが重要だ。理由を理解しているかどうかで、研修を受ける姿勢が大きく変わってくる。研修を行う理由が分かっていないと、「集中できない」、「内容が理解できない」といった弊害が生じる恐れもある。研修スタートの前に「仕事をするにあたり、なぜビジネスマナーが必要なのか?」を従業員に考えてもらう時間を設けることが必要だ。

●実際の仕事を想定する

どのような場面でビジネスマナーが必要なのかを想定した研修を行うことが重要である。「電話応対時に」、「接客時に」、「会議の時に」など、具体例を挙げて研修をすることで、従業員の学ぶ意欲を高めることが期待できる。

また、業務の経験がない新入社員の場合、具体例を挙げるだけではイメージがつかみにくいかもしれない。その場合は、業務を実際に見せる、先輩社員から仕事の話をしてもらうといった研修を交えることも効果的だ。

●お互いフィードバックさせる

ビジネスマナーを学んだら、ロールプレイングを行うことも重要だ。ロールプレイングを行うことで、学んだことを身に着けることが期待できる。ロールプレイングを行う際は、従業員役、取引先の役以外にもオブザーバー役を設定するようにしたい。オブザーバー役にはロールプレイングを見た後に気づいたことをフィードバックしてもらおう。オブザーバー役を入れ替わりながら行うことで、良い点・悪い点を真剣にチェックすることができ、ビジネスマナーについての理解を深めることができる。

●階層別にテーマを分ける

職位や経験に応じた内容を設定することを推奨したい。新入社員には基本的なビジネスマナーや電話対応、中堅社員にはリーダーシップやプレゼンテーションスキル、管理職には部下育成や危機管理など、各階層に必要なスキルを重点的に習得してもらうことができる。

●実践的なプログラムを取り入れる

座学だけでなく、グループワークなどで実践的なプログラムを取り入れることで、参加者の理解を深められる。その際、実際の業務で起こりうる場面を想定することで、実務で応用しやすくなる。

●オンライン研修では何に気をつけるべきか

オンライン研修には「どこからでも受講ができる」、「コストがかからない」というメリットがあるが、「受講者のやる気を維持するのが難しい」、「ロールプレイングなどの実習ができない」というデメリットもある。デメリットを解消するためには、飽きさせないような仕組みづくりや、オンライン研修後にフォローアップ研修を実施することが効果的だ。

「ビジネスマナー検定」を紹介

「ビジネスマナー」の知識を測るための検定も存在する。代表的な3つの検定を紹介しよう。

●ビジネス実務マナー検定

ビジネス実務マナー検定は、公益財団法人実務技能検定協会が実施する検定で、ビジネスパーソンとしての判断・行動が適切にできるかどうか、人間関係やマナー、話し方を理解しているかなどの「ビジネス社会の基本ルール(=職場常識)を身に付けているかどうか」を判定するものだ。

出題領域は、必要とされる資質、企業実務、対人関係、電話実務、技能の5つ。試験は1級から3級まであり、1級のみ二次試験として面接が設けられている。

●ビジネスマナー検定試験

ビジネスマナー検定試験は、一般社団法人全国検定教育振興会が主催する検定。一般社会において人間関係を良好に保ち、仕事を円滑に進めるために必要な、社会人としての態度・技能・知識を審査する。

試験の階級は準1級と準2級があり、「態度分野」、「技能分野」、「知識分野」の3つの分野で審査する(準2級は知識分野無し)。

●オンラインビジネスマナー検定

オンラインビジネスマナー検定は、一般社団法人日本オンライン資格推進機構が認定する検定で、オンライン上での営業・商談・会議におけるマナーに特化したもの。オンラインツールの活用が増えた現代のビジネスシーンに対応した内容となっている。

「ビジネスマナー」に関する書籍を紹介

最後に、「ビジネスマナー」を体系的に学べる実践的な3冊を紹介したい。

●「ビジネスマナー」基本の基本

「ビジネスマナー」基本の基本(PHP文庫)は、身だしなみ、挨拶、敬語、電話応対、他社訪問、ビジネス文書など、社会人にとって必須のマナーをやさしく解説した内容となっている。『心をつかむ接客マナー』という本を再編集したもので、接客マナーや顧客の心を掴むための基礎がイラストとともに簡潔に書かれている。

●改定新版 入社1年目ビジネスマナーの教科書

発行部数12万部を突破し、ベストセラーとなった『入社1年目ビジネスマナーの教科書』の改訂版。新入社員からベテランまで役職や職種を問わず、社会人として必要なビジネスマナーのすべてを図解で紹介した一冊で、「テレワークのマナー」など、昨今のビジネスシーンに即した内容となっている。

●新版 電話応対&敬語・話し方のビジネスマナー

ロングセラーの『電話応対&敬語・話し方のビジネスマナー』の新版。電話応対と敬語・話し方について、オールカラーのイラストとマンガで分かりやすく解説されており、特に女性向けの内容となっている。チャットアプリの使い方など、時代に合わせた新マナーも掲載されている。

まとめ

「ビジネスマナー」は、仕事を円滑に進める上で非常に重要なものである。社内や取引先とのコミュニケーションのためにはもちろんだが、信用力のアップ、そして自社のブランド力の向上のためにも従業員に身に着けてもらうことが必要だ。ビジネスマナーには、「挨拶」や「言葉遣い」、「身だしなみ」、「電話対応」などがあるが、まずは、身に着ける目的を明確にすることが重要だといえる。また、ビジネスマナー研修を行う際は机上で学ぶだけでなく、ロールプレイングなどの実地研修を交えることも有効だ。ロールプレイングを行う際は、従業員役、取引先役だけでなく、フィードバックをするオブザーバー役を設けるようにしたい。互いに改善点を指摘することで足りない点に気づくという効果が期待できる。

よくある質問

●「ビジネスマナー」の基本5原則は?

「ビジネスマナー」の基本5原則は、「表情」、「挨拶」、「身だしなみ」、「言葉遣い」、「態度」と呼ばれている。表情は明るく、挨拶は元気よく、身だしなみは清潔感を保ち、言葉遣いは丁寧に、態度は誠実に心がけることが重要だ。

●「ビジネスマナー」の代表例は?

代表的なビジネスマナーとしては、「身だしなみ」、「言葉遣い」、「名刺の交換」、「文書の書き方」、「電話対応」、「接客応対」、「職場での気配り」、「オンライン上のマナー」などがある。

●「ビジネスマナー」で一番大切なことは何?

「ビジネスマナー」で一番大切なことは、相手への思いやりと敬意である。「ビジネスマナー」の本質は、他者への配慮や思いやりの気持ちを行動で表すことにあるからだ。単なるルールや形式的な礼儀作法ではなく、相手を尊重する気持ちを根本に持った行動が、仕事を円滑に進めるために重要である。
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