「ジョブコーチ」は、企業がサポートを必要とするときに外部から来てもらうことが一般的ですが、社内でジョブコーチ資格をもつ社員を育成し、活用することもできます。こうした「企業在籍型ジョブコーチ」は、企業内に在籍する社員でもあり、ジョブコーチでもあります。ここでは、ジョブコーチが社内にいることのメリットや、企業の中でどのように活用しているかできるのか、また企業内ジョブコーチの資格をとるために必要な要件について、見ていきます。

【注】本稿では、「ジョブコーチ」を「職場適応援助者」と表現していることがあります。独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構が実施する養成研修や助成金では、「職場適応援助者」が使われています。この中では、一般的な内容はわかりやすいのでジョブコーチと表現しますが、研修や助成金については正式名称の職場適応援助者と表記しています。
「企業内ジョブコーチ」によって支援を行なう方法と、そのメリット

企業内で「ジョブコーチ」はどのように活用されているのか

「ジョブコーチ」は、障がい者が職場に適応できるように、職場に出向いて本人を支援することや、職場の環境を整えることをサポートする役割を担っています。通常、この支援は、数ヵ月で終わるものです。

その理由は、ジョブコーチ支援とは、支援を継続するものではなく、だんだんと支援回数を減らしてフェードアウトしていき、最終的には、上司や同僚による職場内のナチュラルサポートを受けながら安定して働くことを目指すものだからです。

しかし、障がい者雇用が企業で進められる中で、外部のジョブコーチによる一時的な支援だけでなく、社員がジョブコーチとして在籍する場合も増えています。障がい者雇用をある程度の規模で行っている企業で導入されていることが多く(企業にもよりますが、数十人以上雇用していることが多い)、「特例子会社」や障がい者を多数雇用している企業では、複数人のジョブコーチがいることもあります。

企業内にジョブコーチがいることのメリットは、次のようなものがあげられます。

・期間に関係なく、サポートが必要な社員にすぐ支援をはじめられる
・ジョブコーチが社内の状況と社員の様子を把握してくれる
・ジョブコーチ助成金を受けられる(支援する期間を設定する必要あり)


また、実際に活用している企業からも、次のような声があがっています。

・「個々の障がい特性にあわせた声かけや指示出しができるので、障がい者本人もストレスを感じることなく仕事に集中でき、 結果として生産性が向上しました」

・「障がい者本人にだけではなく、周りの従業員にも接し方といった助言ができるため、 障がい者雇用に関するトラブルが起きてしまった際も、大きな問題となる前に速やかに対応できるようになりました」

ジョブコーチの位置付けは企業によってさまざまです。一緒に働く経験あるスタッフという位置づけの場合もありますし、マネジメントを担っているスタッフ、働く拠点が複数あるところでは会社全体の職場定着を担っている場合もあります。企業に合わせた形で、ジョブコーチを導入することは、企業内で障がい者雇用を進めやすくする方法のひとつになるかもしれません。

「ジョブコーチ」になる方法

それでは、実際に「ジョブコーチ」になるためにはどうしたらよいのでしょうか。

ジョブコーチには、障がい者と一緒に働いた経験が求められ、「企業在籍型ジョブコーチ研修」を受講する必要があります。また、研修受講に関しては下記のような要件があります。

・障がい者を雇用している企業に所属していること
・障がい者の雇用管理などに関する業務を担当していたり、担当する予定があったりすること
・企業内ジョブコーチの助成金の活用予定があること

「企業在籍型ジョブコーチ研修」と「助成金」

では、次に「企業在籍型ジョブコーチ研修」と「助成金」について見ていきます。

●企業在籍型ジョブコーチ研修

企業在籍型ジョブコーチになるためには、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構か、厚生労働大臣が指定する民間機関が実施する「企業在籍型ジョブコーチ養成研修」の受講を修了する必要があります。ここでは、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構が開催する「企業在籍型職場適応援助者養成研修」について説明します。

「企業在籍型職場適応援助者養成研修」は、「集合研修」と「実技研修」の2つのパートから構成されています。

・集合研修
全国から受講者が集まり、職業リハビリテーションの理論や職場適応援助者の役割についての講義、作業指導の演習などが行われます。職業リハビリテーションの理念、企業在籍型職場適応援助者の役割、障がい別の職業的課題と課題分析方法、作業指導などについて学びます。

・実技研修
それぞれの地域において、各地域障害者職業センターで行われる研修です。障がい者が雇用されている企業の見学や実習、ケーススタディなど、体験型で少人数の実習を中心としたカリキュラムで構成されています。

なお、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構の開催する養成研修は無料で受講できますが、厚生労働大臣が指定する民間機関が実施する研修では受講料がかかります。ただし、養成研修に関する受講料を企業がすべて負担し、養成研修の修了後6ヵ月以内に、初めての支援を実施した場合には、その受講料の1/2の金額が支給されます。

●企業在籍型ジョブコーチの「助成金」

企業在籍型ジョブコーチの助成金は、「障害者雇用安定助成金(障害者職場適応援助コース)」を申請することになります。受給資格認定申請には、事前に「企業在籍型職場適応援助者養成研修」を修了していることが必要になります。

この助成金は、対象の障がい者が職場に適応するための支援計画を立て、企業内のジョブコーチが、「地域障害者職業センター」によって必要だと認められた支援を行うときに受給することができます。

【助成金対象となる支援】
助成金対象となる支援は、次のようなことです。

・対象労働者および家族に対する支援
・事業所内の職場適応体制の確立に向けた調整
・関係機関との調整
・その他の支援(地域センターが特に必要と認めて支援計画に含めた支援)


【助成金の支給金額】
対象労働者1人あたりの月額に、支援計画(最大で6ヵ月以内)に基づく支援が実施された月数の額が支給されます。

・対象労働者が「短時間労働者以外の者」の場合(企業規模別)
中小企業:助成金は8万円
大企業:助成金は6万円

※雇用対象者が精神障がい者の場合
中小企業:助成金は12万円
大企業:助成金は9万円

・対象労働者が「短時間労働者」の場合(企業規模別)
中小企業:助成金は4万円
大企業:助成金は3万円

※雇用対象者が精神障がい者の場合
中小企業:助成金は4万円
大企業:助成金は5万円

【助成金申請までの流れ】
助成金申請までの流れは、次の5つの段階を進むことになっています。

(1)企業在籍型職場適応援助者養成研修が修了

(2) 地域障害者職業センターと事前に打ち合わせ
「支援予定の対象労働者などの状況」「支援計画の作成」「今後の連携」を中心に打ち合わせを行います。

(3)支援計画の作成・承認
以下の支援内容について検討し、支援計画書を作成します。

i)対象労働者・家族に対する支援
ii)事業所内の職場適応体制の確立に向けた調整
iii)関係機関との調整
iv)その他の支援


<注>
・1回の支援計画は最長6ヵ月となります。
・作成した支援計画書を地域障害者職業センターへ提出し、承認を受けます。

(4)ジョブコーチ支援の開始
1ヵ月あたり平均で5回以上、支援計画に基づいて支援を行います。

(5)受給資格認定申請、支給申請

●まとめ

企業内のジョブコーチの活用について見てきました。企業内のジョブコーチがいることのメリットは、まとめると下記のようなものになります。

・サポートが必要な社員にすぐジョブコーチの支援をはじめられること
・ジョブコーチが社内の状況と社員の様子を把握していること
・助成金の受給


企業で多数の障がい者雇用を行う場合には、企業内のジョブコーチの活用を検討することができるかもしれません。

【参考】
厚生労働省「障害者雇用安定助成金(障害者職場適応援助コース)」のご案内
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