効率化は、取引先や顧客が不利益を被らないかという検証とワンセットで
今のコロナ禍の状況であれば、経営側としては少しでも無駄のない、効率的なマネジメントをしなければいけません。なるべく同じ時間にたくさんの人が同時に食事をしてくれたほうがいいいですし、融通が利くサービスは減らしたほうがコストもかからないので、そのような経営方針や指導も間違いではないでしょう。ただし、サービスを受けるほうの考えはまた別というのが難しいところです。たとえば接客に関していえば、「スマートな接客なほうが好き」という人もいれば、「給仕の人と雑談などができる緩い感じのほうが好き」、という人もいます。パンフレットやネットの口コミで事前にそこまでわかれば好きなサービスのほうを顧客は選べばいいのですが、やはり行ってみて初めてわかることもあります。
生産性向上や業務効率化を語るとき、あるいは実行する時に、よく「自社の都合だけ」、「自分個人の都合だけ」を考えている場合があります。その効率化などによって、取引先や顧客が不利益を被り、「以前のほうが良かった」、「損をした気分になった」などと感じてしまうリスクはないか、という検証をワンセットにして行わなければいけないと私は思います。そうしないと、生産性向上や業務効率化をしたばかりに、逆に顧客が離れていく。つまりコストは減ったけれど、「売上はもっと減った」、ということになりかねないからです。
生産性向上や業務効率化にむけて、「手をつけていいもの」と「手をつけてはいけないもの」に分ける
以前から感じていることですが、仕事では「生産性向上や業務効率化」を信条としている人達が、一転プライベートでは非生産的、非効率的な個別のおもてなしや特別待遇に喜んでお金を出している人達も現実にいるわけです。それは究極の矛盾でありつつも、それが人間や社会のリアルな構造でもあります。不確実性の時代と言いますが、人間ほど不確実なものなどないのではないでしょうか。人間が存在している限り「常に」、不確実性の時代であると考えて判断、行動したほうが良いのではないかと思います。生産性向上や業務効率化が「世の中全員」に利益をもたらすのかといったら、そうではないと私は思います。ただし、「会社をつぶさない」という点だけにフォーカスをすれば、それは会社が必ず通らなければならない道です。
生産性向上や業務効率化を実行するには、手あたり次第やるのではなく、「手をつけていいもの」と「手をつけてはいけないもの」に分類します。具体的には、次の二つの基準をもとに進めると良いと思います。
(1)生産性向上や業務効率化をしても、顧客満足度が下がらないか
社内で挙がった効率化の案が、取引先や顧客など「外部」にも影響が及ぶ場合、それによって顧客満足度が下がらないかを議論します。しかし今のコロナ禍の場合、顧客満足度が下がるとわかっていても、効率化しなければいけないこともあると思います。その場合は、その影響度が、限定的(期間、一部の顧客層)なものに留まるのか、それ以上になるリスクがあるかどうかなどの基準も交えて議論をすると良いと思います。(2)生産性向上や業務効率化をして、従業員の負荷が逆に増えないか
生産性向上や業務効率化は、本来、社員が「仕事がしやすくなる」はずなのですが、そうではなく、単純に「3人でやっていたものを2人でやる」、「3時間で10組対応していたものを、2時間で10組対応する」というような形の「効率化」は、慣れるまでの一定期間は確実に社員一人ひとりの負荷が増えます。冒頭の話に出た知人も、2件目の旅館は、若い社員の人達が、決められた時間内に仕事をこなさないといけないという必死さが伝わってきて、「いい旅館ですね」という雑談すらも仕事の邪魔になるかもと思って躊躇してしまい、接客をしてくれている人達とコミュニケーションがあまりとれず残念だったそうです。従業員が身を削られるような効率化は、瞬間的には効果があっても、間接的な悪影響が徐々に出てきて顧客満足度の低下、つまり売上の低下につながるリスクがあります。そのため、効率化をどうしてもしなければいけない場合は、移行期、慣れるまでの一定期間はマネジメントする側は注意深く現場を観察して業務のフォローをする必要があるでしょう。
コスト削減のためには生産性向上や業務効率化は重要なポイントですが、反面「非生産的、非効率的」なものが、むしろ売上を生む、ということもあります。経営者や総務人事担当者の方達は、生産性向上や業務効率化の取り組みを実施する前に、それらを行うことにより顧客満足度の低下、つまり「売上が下がらないか」、という検証を、実際に顧客や取引先と接している現場担当者の方達と「揉む」作業を必ず行ってみてはいかがでしょうか。
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