人事や経理を「大事にする会社」と「大事にしない会社」の違いとは
業績が悪化した会社であれば、経費節減として、オフィスの移転候補先の選定や引越し作業、それに伴う役所関係への変更手続き、名刺も新しく変えなければいけません。さらには人件費の見直しの策定なども行わなければいけなかったことでしょう。これらはほんの一部ですが、たった1年でこれだけの新たなことを対応しなければいけませんでした。そしてこれらのほかに、勤怠管理や給与計算、採用活動などの日常的な業務も並行して行ってこられたはずです。
経営者の中には、「総務や経理などのバックヤードは最小限いればあとは機械でいい」とおっしゃった方もいたことでしょう。その方達は今頃、大変苦戦されているかもしれません。
管理部門のスタッフが充実している会社は、今挙げた作業は全て総務人事スタッフが行い、借り入れといった資金調達の申請手続きなどは全て経理スタッフがやってくれます。経営者はその間に、新規事業の発案や、既存の取引先へ再度営業を行うなど、売上や利益を挽回することだけに集中できます。
一方で総務人事や経理のスタッフが充実していない会社は、経営者が自ら税理士や社労士、銀行や役所に連絡をして、何をどうしたらいいかイチから聞き、自分で資料を作って時間をかけて申請されたはずです。そのため、しばらくは売上や利益に関する業務に手をつける余裕もなかったと思います。バックヤードが弱い会社というのは、有事で会社が傾き始めたときに、会社そのものを支えるスタッフがいないため、一気に危機に陥ります。有事になって初めて総務人事や経理がなぜ組織には必要なのかを理解される経営者の方もいらっしゃいます。
しかし、それでは遅いのです。バックヤードの人材は、いくら機械化された時代になっても、ある程度強いメンバーを常時揃えておかないといけません。ただ気をつけないといけないのは、総務人事メンバーのスキルレベルや人としての資質も、一定水準以上はないといけないということです。今回のコロナ禍はそれを問われた一年だったと思います。
今後は「経営」の視点がより求められる人事
そしてこれで終わりではなく、今後はさらに、「70歳就業法」、「週休3日制」、「SDGs」への取り組みなど、総務人事には怒涛の仕事が待ち構えています。これまでにないほど、総務人事部の力量が、直接的に会社経営の命運に関わる時代になっていくでしょう。コロナ禍前の数年間は、残業時間の削減などをはじめとした「働き方改革」の他に、「いかに社員が気持ちよく仕事をするか」、「社員の定着率やエンゲージメントを高めるか」が主なテーマだった会社も多かったと思います。しかしコロナ禍でそれが一変し、今後数年間は、求職者に対して「当社は経営的に大丈夫ですから安心して入社してください」と言える体制を作れるかが、良い人材を確保するための最優先課題となるでしょう。
そのためには、気分的な「大丈夫」ではなく、数字を根拠とした「大丈夫」を伝えなければ求職者は腑に落ちません。総務人事部であっても、会社の数字を最低限は知っておく必要があります。これまでは人事戦略だけに取り組んでいた総務人事社員の方もさらに一歩踏み込んで経営戦略についても理解を深めた上で自分の考えを経営者に進言できれば、評価もされ、会社もより良い体制が作れるでしょう。
総務人事という枠にとらわれず、「経営」という視点で、自分ができる仕事、考えられること、社内に共有、貢献できることは何か。そのような視座を持った総務人事社員のいる会社は、まずつぶれることはないでしょう。
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