自社DXに必要なデジタルタレントの類型化とプロファイリング
新型コロナウイルス感染症収束への道筋はまだ先が見通せない状況ですが、多くの企業ではリカバリーに向けた動きを活発化させています。とりわけ、デジタルトランスフォーメーション(DX)に今こそ本腰を入れるという企業が増えてきているようです。一方で、近頃、「DXを推進したいのだが、担当できる人材が社内にいない」、「社員にデジタルスキルを身につけさせたいが、何から始めたらよいのかわからない」といった声をよく聞きます。詳しく話を聞いてみると、「DXの推進には既存の人材とは異なるスキルセットを持つ人材が必要である」という認識は一致しているのですが、そもそもどのような人材が必要なのかを明確にできていないケースが大半です。
既存の人材とは異なるスキルセットを持つ人材、つまり「デジタルタレント」を社内で育成するにせよ、社外から獲得するにせよ、人材要件の設定がスタート地点になります。そして人材要件とは、「何をやるのか(目的)」に即して設定する必要があるでしょう。そのうえで、要員計画を作り、人材充足に向けて、具体的な打ち手を順次実行していくことになります(図表1)。
DXのバリューチェーンによる整理法
「収益化・トップラインの向上」を見据えたDXにせよ、「効率化・ボトムラインの確保」を狙うDXにせよ、成果創出に至るステップをバリューチェーンに分解することで、必要な人材像の類型化が容易になります。まず、前者(収益化・トップラインの向上)の例から見ていきます(図表2)。
続いて、後者(効率化・ボトムラインの確保)の例です(図表3)。
以上のように、下記の順に整理すると、人材の類型化、人材要件の定義が容易になります。
(1)DXで何を目指すのか
(2)そのために必要な取り組みは、どのようなステップに分解されるか
(3)そして、ステップごとにどのような人材が必要なのか
なお、本稿であげた人材類型はあくまでも一例のため、自社の状況に照らして整理を進めてみてください。
「デジタルタレント」の役割定義
では、「人材要件の定義」は、どのレベルまで行うのが良いでしょうか。EYでは、「Technology Career Framework」という枠組みがあり、デジタルをはじめとするテクノロジー領域における人材の役割を定義しています(図表4)。・求められる職務内容の詳細な記述
・果たすべき責任
・必要な教育や資格
・職務遂行に必要なスキルや知識、経験
これらは一般に「ジョブディスクリプション(JD、職務定義書)」といわれます。この運用を通じ、必要な人材の量と質を見極め、採用や育成を行うと同時に、適切にフィードバック・評価、処遇を行うことができるようになります。
「ジョブ型」の活用を通じた人材マネジメントのアップデート
「デジタルタレント」は、獲得・育成の難易度が高いことから、役割定義をしっかりと行うことが大切です。なお、こうした役割定義の重要性を鑑みても、デジタルタレントは、昨今注目を浴びている「ジョブ型人事制度」のトレンドとの親和性が非常に高いといえます。日本で伝統的に運用されてきた「メンバーシップ型人事制度」では、ポジション・役割が明確に定義されていなくても人材の採用や処遇をフレキシブルに行うことができました。しかしながら、デジタルタレントの充足には人材要件や役割定義が欠かせません。そのため、必然的にジョブ型人事制度への移行が選択肢となります。
ジョブ型への移行は、人材マネジメントのさまざまな領域に変化をもたらします。例えば、ポジションベースでの採用活動、役割に応じた目標設定とフィードバック、職務定義と連動した評価と報酬などがあげられます。デジタルタレントの社内での活用を見据えた場合、やはりこれらのテーマに直面します。「デジタルタレント充足に向けた取り組みが、人材マネジメントのアップデートを迫る」ともいえそうです。
DXが加速していく流れは当面続くことが見込まれます。そして、「デジタルタレントをいかに獲得・育成するか」が、その成否を分けることになります。「自社はDXによって何を目指すのか」、また、「その際にどのような人材が必要なのか」の明確な定義が「はじめの一歩」になります。さらに、その先に「ジョブ型への移行を軸とした人材マネジメント全体の変革」を見据えておくことが肝要であるといえるでしょう。
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