「評価制度」とは、従業員の能力や企業への貢献度などについて評価を実施する人事制度の一つを指す。評価制度は処遇を決めるだけでなく、企業の業績や従業員のモチベーションに直結する重要な制度と言える。企業によっては、評価制度の適切な運用が喫緊の課題になっている。本記事では「評価制度」について深掘り、目的やメリット、企業事例などを紹介する。
等級や役職、給与と連動する「評価制度」
「評価制度」とは、従業員の能力や企業への貢献度などについて評価を実施する人事制度の一つを指す。多くの企業では、この評価制度は等級制度や報酬制度と連動している。等級制度とは、企業内で等級を定め、等級ごとに必要な役割を提示する制度を指す。等級ごとの業績やスキル、役割といった指標から、等級が決まる。また、報酬制度は等級をもとに、従業員の給与や賞与などを決定する制度を意味する。
評価制度と等級制度、報酬制度の連動とは、つまり、能力や業績で高評価を受けた際に、従業員の等級や役職、給与などが上がることになる。評価の期間というのは、企業によって様々。基本的には、四半期や半年、一年といった一定の期間ごとに評価を行っている。
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導入の目的は「処遇」や「配置」、「育成」にあり
そもそも「評価制度」を導入する目的は何だろうか。大きく分けて「処遇」、「配置」、「育成」、「業績」の4つがある。(1)処遇
導入することによって、従業員の能力や業績に合った処遇を決めることができる。年功序列ではなく、従業員の実力を重視する企業では、客観的な指標を基にした評価が求められるため欠かせない制度と言える。
(2)配置
評価制度によって、従業員の能力を見極めることができる。上司の主観では、部下の能力を適切に判断しているとは言い難い。客観的な評価を実施することによって、各従業員の序列がわかり、適した人材配置が可能となる。
(3)育成
評価制度を導入することで、従業員にとって適切なポストや報酬を提供できる。従業員の承認要求が満たされることで、仕事に対するモチベーションが向上する。業務への原動力が高まることで自主性が生まれ、視座も高くなり、成長機会が自ずと増えていく。また、等級をもとに評価のフィードバックをする際、会社から期待されている行動や次の課題を従業員は理解することができる。次の等級で求められる業績やスキルを手にし、課題を乗り越えられた際には、本人に成長実感が得られるだろう。
(4)業績
経営理念や経営方針に沿った評価制度を導入することで、企業の方向性が明確になり、各従業員がバラバラにならず同じ目的意識を持って業務に取り組めることができる。評価制度は、企業の業績向上にもつなげられる。
評価時の納得感を生む「目標管理(MBO)」や「コンピテンシー評価」、「360度評価」
評価制度の種類は大きく分けて「目標管理(MBO)」、「コンピテンシー評価」、「360度評価」がある。(1)目標管理(MBO)
目標設定を実施し、その達成度によって評価する方法の目標管理。この方法は、ピーター・ドラッカーが提唱している。目標設定をすることで、従業員それぞれが決めた目標に向かって業務に取り組んでいく。その結果、企業全体の目標達成につなげることができる。また、期間や取り組む内容など目標を具体的にすることで、評価がしやすく評価者と被評価者双方に納得感も生まれる。
(2)コンピテンシー評価
コンピテンシー(業務の遂行能力)が高い従業員に共通する行動特性を参考に評価の項目を設定し、評価していく手法を指す。パフォーマンスの高い従業員のスキルや知識、能力などの行動特性を分析し、評価するうえでの基準を明確にできるため、評価のブレが発生しない。また、優秀な従業員の行動特性を周囲の従業員も身に付けることで、組織の底上げにつなげることができる。また、行動特性とパフォーマンスが結びつていることを示すことで、評価時の納得感が生まれるメリットもある。
(3)360度評価
上司のみの評価だけでなく、先輩や後輩といった複数名の同僚も評価する手法だ。上司だけでは判断できない部分を補完し、評価の公平性や妥当性、信頼性が担保できる。また、複数名から評価されることで、被評価者の納得感も高くなる。
メリットは「今後の人材開発」や「モチベーションの向上」
「評価制度」を導入するメリットは大きく分けて3つあるので紹介したい。(1)今後の人材開発につながる
従業員それぞれの現時点のスキルや能力を把握することができ、各自の足りないスキルや能力、課題を明らかにできる。何が課題になっているのか、不足している知識は何か抽出することで、研修プログラムを策定できたり、スキル向上の施策を考えたりでき、自社の人材開発につなげることができる。
(2)企業と従業員の信頼関係の構築
評価の基準や昇給・昇進の目安を具体的にすることで、従業員は自分が会社からどのような役割を求められているのかをしっかり把握することができる。また、評価者から納得感のあるフィードバックをもらうことで、自分をきちんと見てくれているという安心感が被評価者に生まれる。自社への帰属意識にもつながり、企業と従業員との間で信頼関係を構築できる。
(3)モチベーションと生産性の向上
成果を出せば正当に給与や待遇に反映されるため、従業員のモチベーションを維持できる。また、仕事に対するやる気が高い状態では、業務の改善が生まれやすく、生産性の向上につなげられる。
「曖昧な基準」や「不適切な評価」には要注意
一方で、評価制度にはデメリットも発生する。大きく分けて3つここでは紹介する。(1)モチベーション低下
評価の基準、評価者からのフィードバックが不明確な際、従業員は目標だけでなく企業に対して不信感を持ってしまう。評価に対する納得感がなければ被評価者のモチベーションは低下し、最悪の場合、退職につながるリスクがある。
(2)訴訟の恐れ
給与や役職といった処遇が絡むため、不適切な評価になっていないか気をつけたい。処遇に納得がいかない従業員は、最悪の場合、企業を訴訟する恐れが出てくる。
サイボウズやソフトバンクなど各企業の運用事例
では実際に各企業では、具体的にどのような評価制度の運用が行われているのだろうか。いくつか事例を紹介する。●サイボウズ
サイボウズでは、「100人いたら100通りの働き方」があってよいと考え、メンバーそれぞれが望む働き方を実現できるようにしている。その考えのもと、同社は、「個人の幸福度」と「チームの生産性」のバランスが取れていることを、給与評価の理想としている。社員は、「給与」や「業務内容」、「福利厚生」、「オフィス環境」、「働く場所や時間」、「経験機会」といった自分が希望する条件とその優先順を会社に伝える。会社は、社員の「転職した場合の給与」と「各社の需給」といった社外的価値と、「チームへの講演度」と「社内需給」といった社内的価値を加味し給与を決定している。
●ソフトバンク
ソフトバンクでは、「ミッショングレード制」や「役職バトンタッチ制」、「フリーエージェント制」、「ジョブポスティング制」などを導入している。
「ミッショングレード制」とは、従業員のミッションに職務の範囲やグレードが紐づく制度を指す。ミッションの完遂に向けた能力、必要となる行動などが評価の項目になっている。「役職バトンタッチ制度」は、一定の年齢にある従業員が、役職を後輩に譲る制度だ。若手が挑戦しやすい環境が社内で整備されていると言っていい。
「フリーエージェント制度」は、従業員の希望によって部門、グループ間を異動できる制度を指す。また、「ジョブポスティング制度」は、社内で新規事業や新会社が立ち上がった際に、メンバーを公募する制度だ。新たなキャリアやミッションを掴むことができ、モチベーションの向上に寄与している。
●面白法人カヤック
面白法人カヤックでは、社員が毎月サイコロを振って給与を決める「サイコロ給」を導入している。給料の全額というわけではなく、毎月「月給×(サイコロ出目)%」がプラスアルファとして支給される。人間が人間を評価するところに、いい加減さがあると捉え、上司の感情ひとつで評価は変わってしまうことがあると同社は指摘。そこで、給料の仕組みに少し遊びがあってもいいと判断し、評価で暗い気持ちになるのはもったいないを合言葉に同制度を導入している。「サイコロ給」の導入は、社風をつくる意味もある。カヤックの社員には面白く働いてほしいため、人の評価を気にするなというメッセージが込められている。
評価制度の種類は単一ではなく、「目標管理」や「コンピテンシー評価」、「360度評価」などいくつかある。どの種類にも共通するメリットは、被評価者の納得感だ。目標の基準が不明確だったり、評価者のフィードバックが曖昧だったりすれば、企業と従業員の間にある信頼関係は簡単に崩れていく。ただ、適切な運用ができれば、人材開発の活用や生産性の向上など、企業の業績につながる好影響をもたらす。まずは納得感を生み出せているかをチェックしたうえで、自社に合った評価制度を導入してみてはいかがだろうか。
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