健康管理を目的とした労働時間の上限規制と管理へ
「働き方改革関連法」以前は、管理監督者やみなし労働時間制(裁量労働制等)の従業員については、厚生労働省の「労働時間管理に関するガイドライン(※1)」の対象とはされていませんでした。これらの従業員は、法定時間外労働における割増賃金の支払い対象外(※2)となるため、管理監督者らの労働時間管理については把握していなかった企業もあるかもしれません。しかし現在は、新労働安全衛生法において高度プロフェッショナル制度適用者以外の労働時間管理は会社の義務となっています(※3)。日本では過去に、いわゆる「名ばかり管理職問題(割増賃金未払い問題)」や、長時間労働による過労死などが発生しており、健康管理の観点で、時間管理の対象範囲を管理職(管理監督者)やみなし労働時間制の従業員に広げる動きは自然な流れにみえます。日本では厳しくなる傾向のある労働時間法令ですが、海外はどうでしょうか。下図は、欧米主要国の労働時間制度と平均年間総実労働時間推移をまとめたものです。
図(上下):欧米主要国の労働時間制度
なお、米国については時間外労働時間上限や罰則の定めはなく、総実労働時間は日本と比較して4~5%程度高い状況で推移しています。米国では「ホワイトカラーエグゼンプション」という、日本でいう高度プロフェッショナル制度が昔から存在します。労働市場が発達していてジョブベースで自分にあった労働環境や職務を選択しやすい、雇用主と従業員の間で労働条件を詳細に規定した雇用契約を締結し徹底しているなど、長時間労働につながりにくい仕組みが社会として成り立っているといえるかもしれません。
以上の通り、日本の総実労働時間は減少傾向にありますが、これは1990年後半ころからパートタイム労働者が増加したことが大きな要因のひとつです。長時間労働に関していえば、全産業に占める週間就業時間が60時間以上(単純計算で、月の時間外労働時間が80時間近くとなる可能性がある)の雇用者の割合は、2019年の平均で6.5%(378万人)。10年前の9.5%(510万人)と比較して低下傾向にはあるものの、依然として高い水準です(※4)。
時間外労働時間が月45時間を超えると、脳や心臓疾患の発症と業務の関連が徐々に強くなるといわれており、80時間を超えた場合は関連が強いと評価されます(※5)。よって、単に労働時間の累積結果を月末に確認するだけでは不十分であり、法の趣旨にのっとって日々の適切な勤務時間管理が必要になります。
※1:厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」
なお、本ガイドラインにおいても「適用されない労働者についても、健康確保を図る必要があることから、使用者において適正な労働時間管理を行う責務があること」とされている
※2:深夜業務は、管理監督者やみなし労働時間制であっても割増賃金の対象となる
※3:「労働安全衛生法」第66条の8の3、および、2018年2月28日基発1228第16号
※4:「総務省統計局2019年労働力調査」より。なお、労働政策研究・研修機構の「データブック国際労働比較2019」によると、週労働時間が49時間超過就業者の割合は、日本、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランスで、それぞれ19%、19.2%、12.5%、8.1%、10.1%
※5:厚生労働省「過労死等防止啓発パンフレット」
デジタルツールを活用した労働時間管理
日本における労働時間法制の流れを確認し、社内の労務管理に関する知識と重要性を理解した後は、勤務時間管理ツールを整備し労務管理を推進します。労働時間管理で重要なツールは4つに分類できますが、勘所としては、いわゆる法定帳簿としての「出勤簿」ではなく、「勤務実績と予定を把握し、従業員(部下)と働き方について話し合うためのツール」と位置付けることが多様な働き方時代のポイントとなります。
図:勤務時間管理ツール分類
「健康管理」の観点としては、長時間労働の兆候や深夜勤務の有無、休憩時間の未取得といった情報を日次で確認できることはもちろん、上司と部下にリスク状況をメールで送信する(モニタリングツールのURLをプッシュ送信し、ツールの視聴率を上げ、次の気づきにつなげる)といった機能も効果的です。
また、「見やすさ」の観点では、BIツールといったシステムを活用し、勤務情報をデジタルダッシュボード形式で「何に注意すべきか」をわかりやすく表示したいところです。現在はさまざまなクラウド型BIツールがあり、自社の規模や特徴に合わせた製品の選定が可能です。
総実労働時間の削減は、業務効率化とセット
現在の日本全体における「総実労働時間(長時間労働)の削減」という流れは、多様な働き方の実現と並行して今後も継続するでしょう。その場合は、企業が総実労働時間削減に向けて所定労働時間や所定外労働時間の低減施策を打ち出すことが考えられますが、あわせて「労働生産性向上施策」も必要となるはずです。過去30年で、すでに所定労働時間(日数)は減少傾向にありますので、これ以上の労働時間削減には業務の見直しが不可避であり、業務プロセスのデジタライゼーションが望まれます。ワークフローシステムを活用して業務プロセスの見直しや無駄な工程の削減は進めつつ、どうしても残る定型作業については、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)といったテクノロジーを活用して作業スピードを高めることは有効な対策となります。こうした点についての詳細は、また別の機会でお伝えできればと思います。
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