イベントでは同社代表取締役 CEO 長谷川康一氏(写真上)による挨拶の後、複数の企業から担当者が登壇し、事例を紹介した。そのうちの1社がKDDI株式会社。登壇したのは同社執行役員 コーポレート統括本部 人事本部長の白岩徹氏である。講演後、白岩氏に人事本部内でのRPA活用についてお話を伺った。そのインタビューの模様を講演レポートと併せて紹介する。
講演レポート:KDDI HR×RPAへの挑戦
KDDI株式会社 執行役員 コーポレート統括本部 人事本部長 白岩徹氏
「保守的で、施策についても経営陣に言われるがまま、人事部としての意思がないように思えました」2013年、営業畑の白岩氏が人事部長へと抜擢された当時の人事部の姿をこのように振り返った。『守りの人事から攻めの人事』が白岩氏のポリシーだと言う。
「旧態依然の守りの人事から、アクティブな人事にしたいという強い思いがありました。単なる管理から信頼あるパートナーとしての人事へ、ルール作りではなく社員と一緒に新たなものに変革し浸透させる人事へ、そして失敗してもいいからチャレンジしイノベーションを起こすアグレッシブな人事を目指してきました」
このようにこれまでの人事部員の意識改革について熱弁をふるった。『守りの人事から攻めの人事』へと変わる際、人事業務における事務量の多さが課題の一つとなる。
「人事部門にとって、社員と対話する時間や人事施策を考える時間が極めて重要です。しかし人事部門は事務量が非常に多く、オペレーションに追われがち。『攻めの人事』と口で言っているだけでは変われません。本来の人事業務である対話や考える時間を確保するにはオペレーションを減らす必要がありました」
人事部門でのRPA導入の背景について、白岩氏はこう話した。実際、RPAで自動化したことによる工数削減のインパクトは大きかった。
「RPAは人事部門の働き方改革、効率化の中で極めて重要な手段になると考えています。来年度以降もRPAによる自動化をさらに加速させていきます」
そう白岩氏は力強く語った。そして、白岩氏は講演を次のように締めくくる。
「昨今、働き方改革や労働人口減少などにより、人事領域がかつてないほどにスポットライトを浴び経営の中枢に置かれています。旧来のオペレーション中心の業務から、本来人事部門がやるべきクリエイティブな業務へとシフトするチャンスです。このチャンスを活かし『攻めの人事』へと変わるためにRPAは欠かせません」
RPAを起爆剤とした『攻めの人事』への挑戦はまだまだ続くようだ。
白岩徹氏 特別インタビュー
『攻めの人事』への気概について熱く語っていただいた講演に引き続き、白岩氏に具体的なRPA推進方法や導入効果、今後の展望について詳しく語っていただいた。人事業務はデジタル技術による効率化の余地が大きい宝の山
──はじめに、どのようなプロジェクト体制・進め方でRPA推進を行っているのかお聞かせください。白岩氏 UiPath社からRPA化を加速するには組織・人・仕組みを作り、継続することが大切だとアドバイスを受けました。そこで、人事本部のシステム全般を担うHRシステムグループをRPA推進におけるCoE(Center of Excellence:横断組織)としています。HRシステムグループにはRPA推進責任者や専任のワークフロー開発者、UiPath社のテクニカルサポートといったメンバーがいます。また、人事本部は3部門に分かれているため各部門にアンバサダーという役割を置き、アンバサダーが自部門内で業務担当者にヒアリングし、RPA化に適した業務を顕在化しています。現在82の業務がリストアップされており、順に開発中です。RPAの導入目的が労働時間を減らすことでしたので、削減時間と開発工数を基準に優先順位をつけています。
──RPAを導入したことで、どのような効果が出ているのでしょうか。
白岩氏 大きな工数削減に繋がる業務の1つが証明書発行業務です。単に証明書発行といっても、複数のシステムを跨いで情報を取得し発行する必要がありますし、何より従業員数が多いため時間がかかります。年間6,000時間ほどかかっていたものがRPAにより約半分となり、3,000時間もの工数削減となる試算です。
他にも異動申請の進捗チェック業務があります。弊社では定期異動が年に2回あります。異動情報にミスがあってはなりませんし期限も決まっていますが、承認者は外出したり他の業務で多用だったりするので後回しになることもあります。そのため人事異動の際は日々進捗状況の確認を行っています。こちらの業務をRPAで自動化したところ、年間150時間ほどかかっていた業務工数を8割も削減できました。
また、組織の雰囲気も変わり、RPAが人事本部員の中に根付いたと感じます。以前も一部の人がRPAを使い業務を効率化していましたが、その効果は限定的でした。今は人事本部全体でより大きな効果を生む業務に対してRPAを使うようになり、全部員にとって業務効率化が身近なものとなりました。
我々は人を減らそうとRPAによる業務効率化を進めている訳ではありません。旧来の人事では、ミスなく確実に指示されたことをこなす必要がありました。これは正しく作りさえすれば人間よりもRPAの方が長けている業務です。RPAを活用することで、単調だが責任が重く地味な業務から解放され、よりクリエイティブな仕事に時間を割くことができます。ロボットに任せることは歓迎されることだ、RPAを上手く活用しよう、という大きな意識改革となりました。
──来年度以降もRPAによる自動化を加速させるとのことでしたが、今後のRPA活用の取り組み予定についてお聞かせください。
白岩氏 RPAで自動化できると洗い出した82業務のうち、自動化が済んでいるのは10業務ほどです。まだまだRPAを活用できる余地があり、全てを自動化すると人事業務は劇的に変わるでしょう。また、RPAとOCR、RPAとチャットボットというように、RPAと他ツールを組み合わせることでさらにRPAの活用範囲が広がると感じています。例えば社員からの問い合わせ対応では、決まった質問、頻繁にされる質問が多くあります。それらを人ではなくRPAとチャットボットを組み合わせて対応できるようになれば、問い合わせ対応の簡易化が可能です。
人事本部は事務作業が多く紙の文化もあり、業務効率化の余地が大きい宝の山です。デジタル技術を活用し、今後も変革に取り組んでいきたいと思います。
立ち上げをスムーズにするには専門家の力がやはり必要
──順調にRPA導入が進行中のようですが、RPAを推進する上でポイントとなったことがあればお聞かせください。白岩氏 RPAの専門家であるUiPath社およびUiPath導入パートナーのサポートは大きいですね。RPAツールを使えば誰もが自動化を行えると言われていますが、ツールを入れたら急に自動化ができるようになる訳ではありません。自分たちでRPAツールを使えるようになるには学習と経験が必要です。RPAを推進する際、RPAの効果を実感するシンボリックなロボットがないと全部員には響きません。しかしRPA初心者の我々だけで、いきなりシンボリックなロボットを作るというのは困難です。ロボット第1号を作るに当たり、UiPath社およびUiPath導入パートナーにはかなりのサポートをいただきました。餅は餅屋というように、専門家の力を上手く使うことはRPAの推進においても重要だと感じます。
RPA活用による業務効率化で真の働き方改革を実現させる
──最後に、会社全体のRPA推進に対し人事本部として取り組みたいことがあればお聞かせください。白岩氏 RPAを活用する上で人材が極めて重要になります。RPAを作るのも使うのもメンテナンスするのも人です。全社でRPAを推進していくために、人事本部として社員のITリテラシーを強くしていきたいですね。今後、デジタルレイバー(仮想知的労働者)が普及し、マネジメントスタイルも変わっていくでしょう。RPAのスキル・ITリテラシーというのは、これから会社の根幹を担うメンバーにとって必要不可欠になっていくと感じます。
また、人事本部でのRPA活用による業務効率化を社内のロールモデルとし、働き方改革の大きな柱としたいです。働き方改革は数年前から言われていますが、スタートはどの企業も長時間労働の是正だと思います。弊社でも20時には退勤という方針にしています。この取り組みは意識改革にはなりますが、それだけで生産性が上がるわけではありません。生産性を向上させるにはシステム化やRPAによる自動化、業務改革などが必要です。我々人事本部が労働時間を減らしつつ生産性を上げる成功モデルとなり、全社をあげたRPA活用による業務効率化、ひいては真の働き方改革の後押しをしたいと考えています。
【参考リンク】
●UiPath
●KDDI株式会社
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