講師
柳川 範之氏
東京大学大学院経済学研究科 教授
1993年東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。経済学博士(東京大学)。慶応義塾大学経済学部専任講師、東京大学大学院経済学研究科・経済学部助教授、同准教授を経て、2011年より現職。 内閣府経済財政諮問会議民間議員、経済産業省産業構造審議会「2050経済社会構造部会」部会長、NIRA総合研究開発機構理事等。 主な著作物:『人工知能は日本経済を復活させるか』(編著)大和書房、『ブロックチェーンの未来』(共編著)日本経済新聞出版社、『40歳からの会社に頼らない働き方』ちくま新書、『東大教授が教える独学勉強法』草思社等。
急速な技術革新と働き方改革の関連とは
いわゆる“働き方”に関して、いま3つの大きな構造変化が起こっています。まず「人口が減って高寿命化している」という点です。社会全体でも企業内でも、年齢分布は上が大きい逆ピラミッド型で、高度成長期のように裾野が広い構造とは大きく異なります。
さらに「グローバルなパワーバランスの変化」があります。米中の貿易摩擦やBRICs(ブラジル/ロシア/インド/中国)など、世界の貿易構造、国際政治的な意味での力関係が変化し、輸出産業だけでなくドメスティックな企業も影響を受けるようになっています。
そして「AIに代表される技術革新」です。
技術革新についてはポイントが2つあります。1つは「名前のない産業が現れる」という点です。これまでのカテゴリーに当てはまらない企業が“IT企業”としてポピュラーになったように、いままでとはまったく違うところにビジネスチャンスが発生し、まったく異なる産業間連携・企業間連携が生まれ、多様なM&Aも起きていきます。人事の観点では、異なる産業・企業との連携やM&Aが進んだ際、それぞれの人材をどうフェアに評価するかを考えていかなければなりません。
2つ目は技術革新が「急速」であるということ。スピードが緩やかなら、新しい技術に必要な新しい能力は、新しい世代が身につけてくれればいいのですが変化が急速だと、その波に直面する現役世代の能力開発をどうするのか、配置や会社組織をどうするのかを考える必要があります。
急速な変化に対して多くの人は不安になりますが、新しいチャンスが次から次に現れるとも言えます。変化が遅いと、一度負けると立ち上がるチャンス自体がなかなかきません。でも新しい技術が次から次へと出てきて変化が起きるスピードが速くなると、逆転のチャンスも生まれてきます。
ただ手をこまねいていてもチャンスは生かせません。技術変化に対応して人材を育てる、外部から採ってくる、さらには組織も変えていかなくてはいけません。組織の変革にどう人材を適合させていくか、変革を促す人材をどうやって社内で育て、配置していくかが大切になってきます。そこでは単純な人事異動ではなく、有意義な働き方の実現も大きなポイントになります。
人事の方々はここ数年、働き方改革への対応に追われ、それはこれからもしばらく続くでしょう。ただ現状は「上から降ってきた感」が強く、何のために、また誰のための働き方改革なのか、よく分かっていないのではないでしょうか。
なぜ必要かといえば、技術革新が起き、働き方を巡る環境も変化している中で、一人ひとりがどれだけ満足感の高い形で働けるようにするか、そういう仕組みを新しく作っていかなくてはならないからです。
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