外国人労働者の受け入れ拡大、海外現地法人における外国籍社長の増加、女性活躍推進法の施行……など、日本の経済界ではいま、グローバル化への対応とダイバーシティ経営の推進が大きな課題となっている。こうした時代において、次世代の経営リーダーに必要な資質を磨くためには、“外との交わり”が求められているのではないだろうか。
次世代リーダーをどう育てるべきか? ビジネスのダイバーシティ時代に必要な資質を磨くためにすべきこと

次世代リーダーの育成が企業の最重要課題

人材領域における優秀かつ先進的な取組みを表彰する「日本HRチャレンジ大賞」(後援:厚生労働省、HR総研など)。その第7回(2018年)で奨励賞を受賞したのが一般社団法人ALIVEだ。対象となった取り組みは異業種混合型のリーダーシップ開発プロジェクト『ALIVE』(アライブ)。複数の企業から次世代のリーダーたちが集まって混成チームを結成、さまざまな社会的問題を解決すべく力を合わせる、というユニークなプログラムである。大手企業を中心に参加者が絶えないという。

経済産業省が2018年3月に発表した『企業価値向上に向けた経営リーダー人材の戦略的育成についてのガイドライン』でも、次世代リーダー育成の重要性が謳われている。そこでは「経営リーダー人材の量と質をいかに高められるかは、企業の持続的成長に決定的な影響を与え、競争力を継続的に向上させられるかどうかの鍵となる」と説かれている。

いま日本の経済界では、企業規模や業種を問わず、この“次世代リーダーの発掘・育成”こそが、喫緊かつ切実な問題として捉えられているのである。

次世代リーダーに必要なのは多様性の尊重と変化への柔軟性

では“次世代リーダー”が持つべき意識とは何か。文字通りの「リーダーシップ」も挙げられるはずだし、イノベーションへとつながる「創造性」も重要となるだろう。この点で興味深いのは、一般社団法人日本能率協会が現役の取締役・執行役員を対象に実施した『経営者に求められる資質と行動に関するアンケート(2015年~2016年)』の結果だ。

『経営者に求められる意識と行動』としては、「経営理念やビジョンを自分の言葉で発信している」(68.5%)、「部下がチャレンジできる環境を創っている」(44.3%)、「確固たる強い信念を持つ」(43.0%)と、誰しもが納得できるものが上位にランク入りしたのだが、第4位は「多様性を尊重し自分と異なる意見も聴き入れる」(37.0%)となった。また[経営者に求められる資質]としては「本質を見抜く力」(19.9%)、「過去からの脱却」(18.6%)、「イノベーションの気概」(17.8%)というトップ3に近い票を「変化への柔軟性」(14.8%)が集めた。

多様性の尊重と変化への柔軟性。これらが重要視される背景にあるのは、産業構造のグローバル化と、職場におけるダイバーシティの推進だ。

経済産業省のホームページで“グローバル人材”の項を見ると「近年、我が国企業のアジア等を中心とした海外への事業展開の加速に伴い、グローバル人材の育成・確保の重要性が高まっています」との文言が並ぶ。また日本経済団体連合会(経団連)が実施した『グローバル人材の育成・活用に向けて求められる取り組みに関するアンケート』(2014年~2015年)では、グローバル事業で活躍する人材に求められる素質、知識・能力として「海外との社会・文化、価値観の差に興味・関心を持ち柔軟に対応する姿勢」が前回(2011年)の第3位から第1位へとジャンプアップを果たしている。

さらに経済産業省では「多様な属性の違いを活かし、個々の人材の能力を最大限引き出すことにより、付加価値を生み出し続ける企業を目指して、全社的かつ継続的に進めていく経営上の取組み」を[ダイバーシティ2.0]と位置づけ、「ダイバーシティの取組みを全社的・継続的に進めるために、推進体制を構築し、経営トップが実行に責任を持つ」などといった『ダイバーシティ2.0行動ガイドライン』を策定している。

グローバル化とダイバーシティが叫ばれる今、経営トップには、多様性を尊重し、環境の変化や文化・価値観の違いを柔軟に受け入れる姿勢が求められる、というわけである。

こうした流れを受けて、パナソニックは「社外留職(他社で一定期間働く)」や「社内複業(部門をまたいで働く)」を制度化、新生銀行やソフトバンク、コニカミノルタなどは「副業」を解禁。本業・本職とは異なる環境下で社員に経験を積ませ、多様な価値観と柔軟性を持つ次世代のリーダーとして育ってもらうための仕組みを取り入れる企業が増えているのだ。

次世代リーダーは外へ飛び出せ!

次世代リーダーをどう育てるべきか? ビジネスのダイバーシティ時代に必要な資質を磨くためにすべきこと
冒頭で紹介した『ALIVE』に話を戻す。このプロジェクトへの参加企業は、サントリー、日本郵便、JR東日本、JAL、KDDI、グリコ、ブリジストンなど、のべ50社以上。各企業で“次世代リーダー”になることを期待される人たち(30~35歳が中心)が集結し、「補助犬の同伴拒否ゼロを実現するには」、「山形県飯豊町・中津川の地域活性化のために実施できる具体策は何か」といった実際に起こっている問題の解決に取り組むのだ。

一般に、異業種交流会のメリットとしては「他の業界・業種の実情を知ることができる」、「新たな人脈を作れる」といった点が挙げられるが、『ALIVE』はやや雰囲気を異にする。異業種混合チームとして、実在する社会的課題の解決を目指して活動する中では、当然、他の業界・企業の社員が持つ多様な価値観と向き合い、議論し、意見を取りまとめていく必要がある。

そもそも一般社団法人ALIVEも、また自社の社員を『ALIVE』へ送り出す企業も「グローバル化時代に対応し、組織に変革をもたらすためには、単一の企業文化の中で経験を積むのには限界がある。異業種の人に交じって視野を広げることが必要だ」との思いから、この取り組みを推し進め、参加している。『ALIVE』の日本HRチャレンジ大賞奨励賞受賞も、「多様性マネジメント力の強化に寄与する」ことが評価理由のひとつだ。

先述の経済産業省『企業価値向上に向けた経営リーダー人材の戦略的育成についてのガイドライン』では、次のように述べられている。

「ビジネスが多極化する中では、社内で共通の経験を培ってきた人材のみで構成される画一化された組織の競争力が相対的になくなってくる。特に経営リーダー人材のマネジメント能力という観点では、平等主義的な日本企業では、40才前後から管理職となりマネジメント経験を積み始める一方で、欧米の一部では、20才代、30才代の早い段階から実務を通じてマネジメント経験を積んでおり、同じ年齢で比較した際に培われる経験に大きな差が生まれている」

『ALIVE』はまさに、組織の画一化を払拭し、欧米企業と日本企業の次世代リーダーたちの間にある経験の差を埋めるための取り組みといえるだろう。多様性を尊重し、変化への柔軟性も持つ“次世代の経営リーダー”を育成するためには、候補者を異文化の中へ放り込んで他流試合に挑んでもらう、『ALIVE』のような施策が必要なのかも知れない。

HR Trend Lab所長・土屋 裕介 氏のコメント

日本における「次世代リーダー育成の重要性」はリーマンショック以降、頻繁に語られるようになったと感じています(※1)。経済の停滞や産業構造の激変・ワーカーの価値観の変化などが重なり、多くの企業で『現状を見極める目を持ち、局面を打開していけるリーダー』が求められています。しかし、注意しなければならないのは短期的に優秀なリーダーを育成するのは難しいという事です。欧米では従来からサクセッションプランが行われてきました。例えば米GE社では、サクセッションプランによって、世界最高の経営者と言われたジャックウェルチCEOに代わりジェフリー・イメルト氏がCEOに就任し、国内外から多くの評価を得ています。サクセッションプランを成功させるためには、候補者選定~育成プラン実行までを計画的に実施して初めて効果が出るとされています。この記事で紹介されているように、日本にも様々なリーダー育成メソッドが登場しています。似たような事例では、経産省の職員がメルカリに「経営現場研修」という形で派遣された例もあります(※2)。このように企業が経営戦略に合わせ、計画的にリーダーを育成していくことができれば、日本中に優秀なリーダーが数多く育つ日も近いでしょう。

【参考】
※1:2018年度のGDP成長率ランキングでは191か国中166位とG8の中で最下位
※2:【寄稿】経済産業省職員がメルカリ・メルペイへの派遣で学んだこと
次世代リーダーをどう育てるべきか? ビジネスのダイバーシティ時代に必要な資質を磨くためにすべきこと
土屋 裕介 氏
株式会社マイナビ 教育研修事業部 開発部 部長/HR Trend Lab所長

国内大手コンサルタント会社で人材開発・組織開発の企画営業を担当し、大手企業を中心に研修やアセスメントセンターなどを多数導入した後、株式会社マイナビ入社。研修サービスの開発、「マイナビ公開研修シリーズ」の運営などに従事し、2014年にリリースした「新入社員研修ムビケーション」は日本HRチャレンジ大賞を受賞した。現在は教育研修事業部 開発部部長。またHR Trend Lab所長および日本人材マネジメント協会の執行役員、日本エンゲージメント協会の副代表理事も務める。

HR Trend Lab【マイナビ研修サービス】
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