いまや“タレマネ”は必須といえるほどになった
HR分野における喫緊の最重要テーマとなっている「働き方改革の実現」をはじめ、「少子高齢化への対応」、「イノベーションの創出」、「次世代リーダーの育成」など、企業が直面している経営上の課題は多い。これらを解決するために、組織体制や人事制度の再編・改正というスケールの大きな策を打ち出すところも増えている。電気自動車・燃料電池自動車の開発部門を拡充するトヨタ、複数の事業部を統合したパナソニック、報酬を職務や役割に応じて決める「ジョブ型雇用」の導入を決めた富士通などだ。これら組織体制や人事制度の見直しに利用するツールのひとつとして、白羽の矢が立っているのがタレントマネジメントシステムなのだ。HR総研のアンケート『人事系システムに関する調査』(※1、2016年5月実施)の結果によると、タレントマネジメントシステムを「導入済み」「検討中」とした企業の合計は、従業員1,001名以上の規模に限れば、2016年の時点で既に40%を突破。301~1,000名規模の企業でも21%が「導入済み」としていた。
また、株式会社マイナビが実施した『タレントマネジメントシステムへの意識』調査(※2、2018年8月実施)でも、従業員1,001名以上の企業の3分の2となる66%が「導入が必要」と回答。いまや“タレマネ”ことタレントマネジメントシステムは、中規模以上の企業では“必須”となりつつある状況だ。
簡単に言えばタレントマネジメントシステムとは「従業員の能力・才能(タレント)やスキルなど人材情報を可視化することで、効果的かつ戦略的な配置・育成・採用を実行し、人材資源を経営戦略に活かす人事マネジメント手法」ということになる。
タレントマネジメントこそ本来あるべき人事システム!?
タレントマネジメントシステムの目的や意義、メリットとしては、主に以下の4点があげられるだろう。●適材適所の配置/人材資源の有効活用
個々の能力やスキルに応じて最適な部署に配置し、ポテンシャルを最大限に発揮してもらうことで、組織としての生産性を上げる。採用難が叫ばれる現代においては、人材資源の有効活用によって人手不足をカバーしなければならない。
●戦略的な人材育成/次世代リーダーの早期育成
可視化された人材情報と、企業の経営戦略とを照らし合わせることで「今後必要となるが不足している人材」や「能力が高く次世代のリーダーになることを期待できる人材」が明らかとなる。不足人材や次世代リーダー候補を育てる中長期的育成プランを早期から実施することが可能だ。
●ターゲットを絞った戦略的な採用
「不足している人材で、かつ社内での育成が困難なタイプ」や「能力の高い社員と同様の特徴を持つ学生」など、ターゲットを絞った採用計画を立てられる。
●人材の離職防止
能力を発揮できる部署・職務、成長を実感できる育成・能力開発、納得度の高いキャリアプランなどを通じて、従業員のモチベーションとエンゲージメントは高まり、定着率が上がる。求職者に対する訴求率のアップも期待できる。
テクノロジーの急速な進化や経済環境の変化に対応するためには、迅速な適材適所、戦略的な育成と採用が不可欠。また考えてみれば「従業員に能力を余さず発揮してもらう」ことは、企業経営において当然のスタンスだ。日本ではまだ“新しい手法”として捉えられているタレントマネジメントシステムだが、実は、本来あるべき人材管理の姿とも言えるだろう。
タレントマネジメントシステム 導入と運用の難しさとは
タレントマネジメントシステムは、クラウド、オンプレミス(自社運用)、SaaS(Software as a Service)、パッケージソフトなど、多様な形の製品やサービスが、コンサルタント企業やソフトウェア企業からリリースされている。それぞれ独自性を持ち、得意とする業種や従業員規模は異なるが、いずれにせよ肝心なのは「導入を決めただけでは何も解決しない」ということだ。たとえばベースとなる人材データとしては、給与計算・勤怠管理・人事考課などに用いていた従来型の情報だけでは不足。個々の経歴と詳細な評価、スキル、人柄や性格、目標とキャリアビジョン、自己評価など、可視化すべきデータは多岐に渡る。だからといって何でも収集すればいいというものではなく、まずは企業としての経営戦略・人事戦略があり、その実現のために必要な人材情報をあらためて整理・収集しなければならない。
人事戦略に基づいた研修やキャリアパスのアレンジも重要となるし、適材適所が本当に機能しているのか、育成プランは有効だったか、モチベーションやエンゲージメントに変化はないか……などもチェックすべき項目だ。公正な評価手法も不可欠。さらに、各データをリアルタイムに入力・蓄積し、必要なデータを必要な時に取り出せるようにしておかなければ意味がない。
タレントマネジメントシステムに対する価値観を全社的に統一・浸透させたうえで計画的に運用することが求められ、非常に手間とコストと精神力を要する取り組みといえるだろう。
そのようなためか、前述の『タレントマネジメントシステムへの意識』調査では、導入する際の障壁として「費用」をあげた企業が48%、「工数がかかる」とした企業が32%にのぼる(複数回答)。技術の進展と競争の激化によって導入コストも手間も大幅に削減されたタレントマネジメントシステムだが、運用にかかる人的・組織的なコスト、予測される作業量、人事システム刷新にともなうさまざまな負担に、いまだ躊躇する企業も多いようだ。
また導入の障壁として37%もの企業が「組織体質」をあげている点にも注意したい。終身雇用制、年功序列、“この道一筋”を美徳とする風土など、従来の人事制度に対する執着やノスタルジーが、タレントマネジメントシステムの導入を阻むケースもあるのだろう。経営層、各部門の長、人事、従業員、そのすべてがタレントマネジメントシステムの目的と意味合いを理解し、従来型の人事制度から脱却する覚悟を強く持って運用していくことが、この手法を成功へと導くためには何よりも重要なのかも知れない。
【出典・参考リンク】
※1:人事系システムに関する調査(HR総研)
※2:「タレントマネジメントシステムへの意識」に関するアンケート調査結果報告(株式会社マイナビ 教育研修事業部)
HR Trend Lab土屋氏のコメント
タレントマネジメントシステムの導入が進んでいる背景には、経営環境の変化もさることながらHRテクノロジーの劇的な進化が挙げられます。テクノロジーと言っても大袈裟なものではなく、“クラウドによる低価格化”と“AIによる簡素化”の2つです。これまでは導入に数千万~数億円かかるうえ、運用に多くの人手が必要だったため、活用が進むのは大企業中心でした。それが、この2つのテクノロジーにより劇的に改善され、中小企業も含めた多くの企業で導入することが可能になりました。
我々マイナビも2019年1月にタレントマネジメントシステム「クレクタ(crexta)」を発表しました。タレントマネジメントを日本に根付かせ、すべてのビジネスパーソンが働きやすい世の中をつくるために貢献してまいります。ぜひ、ご注目ください。
◆「クレクタ(crexta)」タレントマネジメントシステム | 組織に新しい価値を、社員に豊かな経験を
株式会社マイナビ 教育研修事業部 開発部 部長/HR Trend Lab所長
国内大手コンサルタント会社で人材開発・組織開発の企画営業を担当し、大手企業を中心に研修やアセスメントセンターなどを多数導入した後、株式会社マイナビ入社。研修サービスの開発、「マイナビ公開研修シリーズ」の運営などに従事し、2014年にリリースした「新入社員研修ムビケーション」は日本HRチャレンジ大賞を受賞した。現在は教育研修事業部 開発部部長。またHR Trend Lab所長および日本人材マネジメント協会の執行役員、日本エンゲージメント協会の副代表理事も務める。
HR Trend Lab【マイナビ研修サービス】
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