コンピテンシー面接のポイントがまんが形式でスラスラ頭に入る
まんがのストーリーは、生命保険会社の女性社員・加藤ちはるが営業部から人事部に異動配属されるところから始まる。人事部では、同社の採用面接を変えるというミッションを受けて他社から引き抜かれた夏城雅史が、新しい人事課長に就任。夏城は、従来型の採用面接とは異なる「コンピテンシー面接」を導入することを宣言し、その目的、面接手法、評価方法をちはるら部員に紹介しながら、コンピテンシー面接を実践していく。本書はまんがパートと解説パートが交互に構成されている。まんがパートのエピソードでコンピテンシー面接の特徴や流れをテンポよく把握しながら、解説パートで詳しく理解していくことができる。
なぜ今、コンピテンシー面接なのか?
本書の冒頭では、なぜ今コンピテンシー面接に注目するのか、2つの理由が挙げられている。一つは、コンピテンシー面接がAI時代にフィットした面接手法であるということだ。AI採用を始めるには、応募者に関する正確なデータを大量に集めることが大前提となるが、科学的手法のコンピテンシー面接はデータ収集に適しているという。理由の二つ目は、「働くこと」の意味が軽くなりつつあることへの危機感だ。転職を繰り返し、働いて成長する嬉しさを感じづらくなっていく世の中の傾向に歯止めをかけ、幸せに働く人を増やす方法のひとつがコンピテンシー面接だと述べている。本書は従来型の採用面接の問題点として、圧迫面接が根強く行われていることや、目立ちやすい特徴に惑わされ他の項目の評価が歪むハロー効果で短絡的な評価が行われていることを指摘。さらに、従来型の採用面接は、応募者の体験の確認あるいは志望動機の確認のいずれかのパターンであるが、応募者の上手な切り返しによって「優秀な人材だ」と評価を誤るケースが多いことも課題に挙げる。
では、本書が新たな面接手法として注目するコンピテンシー面接とはどのようなものか。「コンピテンシー(competency)」を日本語に置き換えると「能力」となる。従来型の採用面接でみられてきた能力(≒ability、学習で獲得した知識・スキル・学力)と異なるのは、能力を「成果につながるか」という観点から捉えている点だ。つまり、学習で獲得した知識・スキル・学力を成果につなげられる人材かどうかを見極めるのがコンピテンシー面接だという。
コンピテンシー面接の目的は行動事実の確認
人事課長の夏城は、コンピテンシー面接の具体例を示すために、ちはるを応募者に見立てた模擬面接を行う。夏城が「学生時代に一番頑張ったこと」「自分自身で考えて成果を挙げたこと」を尋ねると、ちはるは居酒屋のアルバイトで客からのクレームを減らすためにメニューの表記を改めたことなどを思い出しながら回答した。応募者に考えや意見を問う従来型の面接に対し、コンピテンシー面接は「工夫しながら能力を発揮して、成果につなげた行動事例」の確認を明確な目標とする。面接者が抱いた印象ではなく、応募者の行動事実で判断していくのだ。成果の大小よりも、成果につながる過程の確認を重視する。応募者が話す成果が運や偶然で生み出されたものではないかという点も確認し、成果の再現性という観点から応募者の将来性をはかっていくこともできるという。
コンピテンシー面接の成否をわけるのは、具体的な場面の絞り込み
まんがでは、ちはるが実際の採用活動でコンピテンシー面接を実践する様子が描かれる。面接に訪れた応募者の学生は、テニス部の主将として後輩の指導育成に取り組み、関東ベスト4を達成したエピソードを話す。コンピテンシー面接の鉄則は「行動事実のデータをできるだけ多く集める」「判断は後回しにする」の2点だという。本書では、面接のフローがステップ1〜4に分けて紹介されており、各ステップの目的や具体的な質問例が記載されている。コンピテンシー面接を取り入れたい企業はこれをたたき台にして面接スクリプトを作成していくことができるだろう。
特に重要なのは、応募者に「困難な状況を克服する過程で、最も解決につながったと思う効果的な場面」を具体的に尋ねるステップ3だ。抽象的な行動データでは面接後にコンピテンシーのレベルを判断できない。応募者自身も慣れていないコンピテンシー面接では、面接者側の引き出し方が重要になる。本書では、ステップ3で応募者から具体的なエピソードを引き出すためのコツも紹介されている。
採用したいのはコンピテンシー・レベル4以上の人材
コンピテンシー面接を終えたちはるたちは、応募者から集めた行動事実の評価にとりかかる。本書にはコンピテンシーのレベルの5段階と、それぞれに対応する行動事実が提示されており、実際の採用業務でも本書を参考にしながら応募者を各レベルに振り分けていくことができるだろう。中でも注目すべきはレベル3とレベル4の違いである。「自分が置かれた状況を変化させるかどうか」という大きな差があり、レベル4以上の応募者こそ特に採用すべき人材だという。このほかに、本書ではコンピテンシー面接でよくある失敗や、コンピテンシーの高い人材の行動に学ぶマネジメント・サイクルにも着目し、コンピテンシー開発の可能性にも言及している。
著者は、これまでコンピテンシーの考え方を取り入れた人事コンサルを手がける中で、副産物としてクライアント自身のコンピテンシー・レベルが高まった点にも注目している。コンピテンシーの考え方を社内に導入しようと学ぶことで、「最適な方法を常に自ら工夫して実践することが、成果への近道になる」ということに気づくのだという。
科学的な面接手法であるコンピテンシー面接は、今後AI採用を検討している企業は必ずおさえておかなくてはならないだろう。AIは正しいデータを適切な量で集めてインプットすることではじめて有効に活用できるツールだからだ。会社に成長をもたらす人材を獲得するために、コンピテンシー面接の入門編として基本から実践までを網羅した本書は非常に有益な一冊となるだろう。
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