HRCS(※)では、人事コンピテンシーを1987年以来5年おきに調査しているが、その内容は大きく変化している。この内容を紐解くと、かつての人事は定型的なプロセスを遂行することが中心であったが、時代を追うごとに変革者としての役割が求められ、更には経営のパートナーになることが求められるようになってきたことが分かる。
それでは、経営のパートナーの役割として、具体的にどのようなものが求められるのだろうか。
人材の観点から社会情勢をみると、企業は社内の人材を育てるだけでなく、必要な人材を適宜外部調達する傾向が強くなってきている。転職市場をみても、これまでは35歳が壁であると言われていたが、それが崩れてミドルの転職も増えてきている。企業を渡り歩くプロ経営者の去就も最近多く耳にする。また、M&Aも増えてきている。このように人材の流動化が加速しているのである。
このような中、人事には、多様な人材が成果を上げやすい組織作りに取り組むことが求められている。要は、多様性と流動性が増した組織をより強固なものに整え、会社の目標を達成するための組織基盤を構築することで、経営のパートナーとして貢献することが求められているのである。具体的な役割は次の3つである。
(1)多様な人材がスピーディーに信頼関係を築ける環境を整えること
(2)知見を蓄積して共有すること
(3)様々なキャリアパス、働く環境を用意し、多様な人材が能力を発揮し、活躍できる機会を最大化すること
(1)は様々な人がチームに入ったり、次々に立ち上がるプロジェクトにアサインする機会が増えたりしている中、重要な要素である。(2)は属人化を防ぎ、常に組織として知見を溜めることで、人材が流動する中でも組織知を高め、質の高い仕事をするために重要である。(3)は魅力的な人材を常に集め、企業にとどめておくために重要である。
しかしながら多くの企業において、うまくいっていないケースが多い。特に(1)において問題を抱えているケースをよく目にする。多くの場合、成果(売上、利益)に結びつけるために、「行動」をどう変えるかということに目が向きがちで、それを支える「職場の関係性」になかなか改善の光が当たらないことが原因としてある。この状況に気付いた経営層は、職場のコミュニケーションの改善に向けた活動を取り組み始めている。たとえば「定期的なコミュニケーションの場を設ける」「仕事だけでなく、人生や価値観などのプライベートの側面も語り合う」などの動きもみられる。
今までの慣習やしがらみがあり、(1)~(3)をすぐに実現をすることは難しい。しかし、多様な人材がいる組織において、揺るがない企業体質を作るためには、人事が組織の「大黒柱」として、組織の中心になって様々な取り組みを仕掛けることが求められる。この役割を果たすことが、今後の組織の成長、更には日本の成長を支えていくことにつながるのである。
(※) Human Resource Competency Studyの略称。米国ミシガン大学ウルリッチ教授らが、グローバルベースで実施している調査
中田 奈津子
- 1