前回のコラムでは、健康経営が事業所に損失削減・生産性向上といった効果をもたらすということを数値で表しました。ただ、健康経営の効果がこのような数字で業績に反映されるまでには、ある程度の時間がかかるケースも少なくないかもしれません。今回は、それでも積極的に健康経営に〝投資〟していった中小事業所の具体例をご紹介します。

※本稿は、鈴木友紀夫『企業にはびこる名ばかり産業医』(幻冬舎)の一部を抜粋・再編集したものです。
第4回 中小企業こそ「健康経営」への積極“投資”を!
思い切って健康経営に力を入れたことで「従業員の心身の健康度が上がった」「人事労務などの負担がぐんとラクになった」「社内が明るくなって、活力が出てきた」といった〝変化〟を実感する企業は近年、明らかに増えています。それは大企業だけでなく、中小事業所でも同じです。

たとえば、社員が200人規模の広告会社の事例もそうです。

この会社は、社員の平均年齢が30代と比較的若い会社でしたが、広告業という職種の特性もあって非常にハードワークで、ストレスも高く、メンタル不調で休職する社員が毎年1~2名出ているという状況でした。当時も嘱託産業医はいましたが、高ストレス者面談などは行っておらず、社内的には「ストレスがかかる仕事だから、メンタル不調が出るのもやむを得ない」といったムードが蔓延していたようです。

しかし数年前、人事部長が代わった際に、メンタル疾患に詳しい産業医に契約を変更。新しい産業医の指示により、人事が社員の心身の状況についてこまめにヒアリングを行うようにし、心配な言動があればすぐに産業医につなぐ体制を作りました。

さらにコミュニケーションに困難があるような社員については、部下を置かずに本人のペースで仕事ができる職種にするなど、その人の強みを活かせる職種・配置を産業医が人事に提案するようにしました。そうした対策の結果、毎年出ていたメンタル休職者が、現在はゼロになったということです。

これは、嘱託産業医の月1回職場訪問の時間を活用して、人事が社員についての情報を提供し、産業医はそれを受けて医師の視点からアドバイスをするという、人事と産業医の効果的な連携が奏功した事例でしょう。

また上司と部下それぞれに対して、産業医が心身の健康維持に役立つ情報提供を行ったことで、メンタル不調が減ったケースもあります。

社員数は約100人、男女比では女性が多い化学薬品会社の例です。この会社も、やはりメンタル不調の社員が常時いる状態で、しかも休職が半年、1年と長引くケースが多くなっているのが課題でした。

実はうつ病などのメンタル不調のリスクは、男性よりも女性のほうが高い傾向にあります。また入社や配置転換などで環境の大きな変化があったときには、強いストレスがかかり、よりリスクが高まります。

そこで産業医は、新入社員と入社2年目の社員に対して全員面談を実施。一人ひとりの心身の状況を把握するとともに、ストレスを感じたときの対処法などを伝えました。また休職中の社員に対しても、ウオーキングで適度に体を動かし、体力をつけることや、ストレスへの対応力が高まる認知行動療法などを指導しました。

合わせて、昼休みなどの時間を使って、管理職を対象としたセミナーも開催しました。そこでは、うつ病などの精神疾患は20~30代で発症しやすいことや、「努力してもむくわれない」「成長の道筋が見えない」といった閉塞感(努力・報酬不均衡モデル)があると精神疾患のリスクが高まること、部下のメンタル不調に早く気づき、適切に対処する方法などについて啓発を行いました。
第4回 中小企業こそ「健康経営」への積極“投資”を!
嘱託産業医の月1回の職場訪問のなかで、こうした取り組みを地道に続けたところ、やはり数年のうちにはメンタル不調者が半減。また不調に早く気づいて早めに対応することで、万が一休職になった場合も、以前よりずっと早く復職できるようになったということです。

※ 健康経営®は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。
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