前回の記事では、なぜ「健康経営」が必要なのか、日本が抱える課題を踏まえながら見ていきました。それでは、「健康経営」に力を注ぐ企業では、具体的にどのような取り組みが行われているのでしょうか。日本経済団体連合会が大手企業60社余りの「『健康経営』への取り組み状況」をまとめた資料(2015年調査)がありますので、少し紹介してみます。

※本稿は、鈴木友紀夫『企業にはびこる名ばかり産業医』(幻冬舎)の一部を抜粋・再編集したものです。
第2回 大手企業から学ぶ「健康経営」の成功法則
健康経営銘柄として認定・表彰もされている花王では、同社の産業保健の重点課題ポイントを以下のように記述しています。

「花王では『ヘルスリテラシーの高い社員を増やす』ことを目標に、健康づくりの見える化を進め、経営トップ、産業保健スタッフ、職場のマネージャーが協働してPDCAサイクルで本人の健康度を上げていく『健康経営』に取り組んでいる。社員の年齢構成は、男女ともに高齢化傾向にあり、壮年期の肥満対策が課題である。また医療費においては、生活習慣病がボリュームゾーンであり、従来に増して生活習慣病対策が課題となっている」

そして健康経営の実施内容として、日々の生活習慣を記録する健康増進プログラムの活用、健康づくりの成果をポイント化する「健康マイレージ」の導入、ウオーキングチャレンジや内臓脂肪測定会の実施、本社食堂での健康的な食事の提供といった取り組みを行い、その効果を次のように挙げています(2009年度と2014年度の比較)。

•メタボリックシンドローム該当者・予備群が2.9%減
•特定保健指導の対象者率が8.5%減少
•喫煙率が7.2%減少
•健康マイレージ加入率が20.0%増加

企業全体としての積極的な取り組みが、従業員の健康度アップという成果につながっている印象です。

また通信大手のKDDIでは、「健康不調で働けない人をなくす」ことを最終目的に掲げ、長時間労働の削減とメンタルヘルス休業者数の削減を重点課題として健康経営に取り組んでいます。

特にメンタルヘルス対策としては、産業医による講演、管理職向けメンタルヘルス研修の実施、Eラーニング(セルフケア、ラインケア、ハラスメント防止)の実施、個別社員との同行受診による主治医との連携、といった取り組みにより、「Eラーニングやセミナー、上司を巻き込んでの職場環境調整等により、2014年度のメンタル不調による新規休職者が前年比25%減となった」という手応えを得ています。

この他全国に事業所をもつイオンでは、健康経営の一つとして健診データの活用などにも取り組んでいます。

産業医が定期健康診断結果を総括し、安全衛生委員会において結果を共用するほか、健康保険組合の協力で事業所別レセプト分析データ「健康状況マップ」を作成。事業所ごとに医療費、疾病傾向、生活習慣の課題について情報提供し、各事業所の健康増進の取り組みに活用しているということです。

その結果、「2009年から実施している『健康チャレンジキャンペーン』について、過去4年連続で参加した従業員2,905名の中で、BMI値(肥満度)が改善された方が54%に達した。また、当社健保データでBMI標準値の従業員の年間医療費は、肥満従業員より約2万円低くなった」として、「従業員自身の健康維持・増進のきっかけづくりや習慣化につながるだけでなく、健保財政の改善にも寄与している」と、医療費削減効果が得られたことにも触れています。

※ 健康経営®は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。
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