4月に新卒採用に関して二つの重要な発表がありました。一つは、4月10日に経団連から発表された「採用選考に関する指針」の手引きの改定について、そしてもう一つは4月26日にリクルートワークス研究所から発表された「第34回 ワークス大卒求人倍率調査(2018年卒)」です。
※リクルートワークス研究所公表の調査報告書はこちら
経団連会員企業にも「1Dayインターンシップ」を可能に
まずは、経団連の「採用選考に関する指針(以下、指針)」の手引きの改定の内容を確認してみましょう。採用スケジュールについては、2017年入社者からの「広報活動:卒業・修了年度に入る直前の3月1日以降、選考活動:卒業・修了年度の6月1日以降」が継続されることになりました。会員企業からは日程の前倒しを求める声が多くありましたが、度重なる日程変更の混乱を避けるとともに、学生の学業を優先させるべく安倍政権が就活日程の後ろ倒しを経済界に求めた経緯を踏まえてのものになります。ただ、指針に変更はなかったものの、手引きについては2015年12月7日以来の改定が行われました。今回の改定の一番大きな箇所は、「4.広報活動の開始日より前に実施するインターンシップについて」です。これまでは、【就業体験としてのインターンシップの在り方】として、「学生の就業体験の提供を通じた産学連携による人材育成を目的とすることに鑑み、当該プログラムは、5日間以上の期間をもって実施され、学生を企業の職場に受け入れるものとする」とされていましたが、この文言が削除されたのです。つまり、「5日間以上」の期間的制約がなくなったわけです。ここ数年、1日や半日の「1Dayインターンシップ」が横行しており、「5日間以上」という制約が会員企業にとっては大きなハンディになっていたことに譲歩した形になります。これにより、経団連会員企業においても「1Dayインターンシップ」が正々堂々と可能となったわけです。
ただし、会社説明会やセミナーとほとんど変わらない、名ばかりの「1Dayインターンシップ」をも解禁にしたわけではありません。新しい手引きには、「インターンシップ本来の趣旨を踏まえ、教育的効果が乏しく、企業の広報活動や、その後の選考活動につながるような1日限りのプログラムは実施しない。」と明記されています。「1日限りのプログラム」が禁止なのではなく、「教育的効果が乏しく、企業の広報活動や、その後の選考活動につながるような(プログラム)」が禁止されているのです。この点には注意が必要です。
また、もう一つの変更点としては、「採用選考活動と明確に区別するため、告知・募集のための説明会は開催せず、また、合同説明会等のイベントにも参加しない」との文言も削除されています。就職情報会社が主に毎年5~6月頃に開催する「インターンシップ合同説明会」への参加も容認するということになります。
経団連は、企業からの採用活動日程の前倒し要望には応えられなかった分、インターンシップに関する制約の面では大きく譲歩することでバランスを取ったと言えます。ただ、大企業までもが「1Dayインターンシップ」を堂々と開催することになる今回の改定には異論を唱える大学関係者が少なくないでしょう。
規模・業種による倍率格差が拡大
続いてリクルートワークス研究所発表の「第34回 ワークス大卒求人倍率調査(2018年卒)」を見てみましょう。HR総研や就職ナビ各社の調査でも、企業の新卒採用意欲が高止まりしている状況は鮮明に表れており、昨年以上の求人倍率になるものと見込まれていました。そうした予想のとおり、2018年3月卒業予定者の大卒求人倍率は1.78倍と、前年の1.74倍からさらに0.04ポイントの上昇となりました。全国の民間企業の求人総数は、前年の73.4万人から75.5万人へと2.1万人増加し、対する学生の民間企業就職希望者数は、前年の42.2万人とほぼ同水準の42.3万人だったとのこと。企業側の旺盛な求人意欲が、求人倍率を押し上げたことになります。
従業員規模別の求人倍率を見ると、従業員規模300人未満の企業では6.45倍と、前年の4.16倍より2.29ポイントも一気に上昇し、リーマン・ショック後の2010年3月卒の8.43倍に次ぐ高倍率となっています。一方、従業員規模5,000人以上の企業では0.39倍と、前年の0.59倍からさらに0.20ポイント低下しており、くしくも2010年3月卒の0.38倍に次ぐ低倍率になっています。この年は、大企業側の求人総数の大幅な減少が原因でしたが、今回は希望者数が大幅に伸びていること(前年比+48.9%)が原因となっています。従業員規模300人未満の企業と、従業員規模5,000人以上の企業の求人倍率のポイント差は、前年の3.57ポイントから6.06ポイントへと急拡大しています。
前回の記事で、HR総研の調査でも学生の大手企業志向が強くなっていることを報告しましたが、リクルートワークス研究所の調査ではこうした傾向がさらに色濃く出ています。ちなみに、その他の企業規模の求人倍率の変化を見ると、従業員規模300~999人の企業:1.17倍→1.45倍(0.28ポイント上昇)、同1,000~4,999人の企業:1.12倍→1.02倍(0.10ポイント低下)と、従業員規模による大企業の区切りとなる「1,000人」を境に、明暗が分かれていることが分かります。
業種別でも見てみましょう。毎年人気の「金融業」の求人倍率は、今回も前年と同じく0.19倍と依然として学生にとっては極めて狭き門となっています。「サービス・情報業」は前年の0.49倍から0.05ポイント低下の0.44倍、「製造業」は前年の1.93倍から0.11ポイント上昇の2.04倍となっています。大きく求人倍率が動いたのは「建設業」と「流通業」で、「建設業」は前年の6.25倍から3.16ポイント上昇の9.41倍、「流通業」に至っては前年の6.98倍から4.34ポイント上昇の11.32倍となっています。いずれも過去の比較可能なデータの中では最高の求人倍率です。「金融業」と「流通業」の求人倍率のポイント差は、前年の6.79ポイントから11.13ポイントへと、10ポイントをはるかに超えるポイント差となっています。「建設業」と「流通業」は、今年の採用戦線ではこれまでの比ではない、かなりの苦戦を強いられそうです。