良く考えてみると、エントリーシートを書く行為は就活特有の「かなり特殊な作業」といえるのではないでしょうか? 働いたことがない学生に「なぜこの会社が良いのか?」「何をしたいのか?」と問いかけるのは、相当難易度が高いように思います。それらしいことは簡単に書けますが、読み手を納得させるような文章を最初から書ける学生はほとんどみたことがありません。
しかし、自問自答を繰り返し、企業や業界、職種のことを調べ、私たちのような支援者の助言を受け入れつつ数を一定量こなすことで、大半の学生はあるレベルまでは書けるようになります。
また、掘り下げのレベルにも個人差が現れてくるようになります。誤解を恐れない言い方をすると、読み手に納得感を与えるエントリーシートを書けるかどうかと、就活でのその学生の評価レベル(どのレベルの会社にどのくらい内定をもらえるか)は相関性が高いと感じています。エントリーシートをちゃんと書ける学生は、就活でもよい評価をもらえるという事ですね。就活とは、そういう意味ではよほどの口下手でない限りはエントリーシートを上手く書くためにひたすら修行(?)する行為と言っても過言ではないかもしれません。
しかし、こうやって苦労して身に着けたエントリーシート作成スキルは、実は社会人になった後に直接的に発揮する機会はほとんどありません(転職活動の際にはある程度必要になりますが、転職の場合は経験値や保有スキルを重視するようになってくるので、それほど必要とされないケースが多い)。もしかしたら、ものすごく無駄なことに学生も企業もエネルギーと時間を費やしてしまっているのでは、という気になります。
エントリーシートの作成には文章力も大切ですが、それだけで上手く書けるわけではありません。自分のこと客観的に分析して、よく知ることが必要です。ほとんどの学生は自分の強みに無自覚です。無意識にとる行動のクセだから、というのがその理由ですが、まずはそこから自覚することが大切でしょう。さらに志望先企業、職種、業界の情報を収集・分析し、その上で自分と企業との接点を具体化し、文章に表現しなければいけないのです。
そして、何度も何度も書き直し、必要があればさらに分析し、勉強もし、助言も受け入れつつ仕上げるという作業が伴います。こうした作業は、社会人としてのベーシックな力を養ううえではとても有効です。正解のないものに対して「自分がどうすべきか?」という事を考え、実行計画を立て、勇気を持って行動するというプロセスを自律的に運用するスキルを養い、磨くことができていると思います。就活を終えた学生に就活前の学生の前で話をさせるとこの部分の成長がかなり明確に現れてきます。
そういう意味では、今の就活は学生を成長させる「人生のイベント」として一定の有効性があると思っています。しかし一方で、エントリーシートを書かせる行為にどのくらいの生産性があるのかと考えると、その効果にはやはり疑問を禁じ得ません。もっと良い方法はないのか、場合によっては産学連携で新しい仕組みを創れないか、と考えを巡らせながら、学生のエントリーシート相談に応じる日々です。
- 1