「良い仕事」というシンプルな言葉をスローガンに掲げた。
三井物産は「何より人材育成を大事にする会社」であるはずなのに、どうしてこんな事件が起こってしまうのか。それは、会社の評価制度が悪いのではと考えた。当時、三井物産が採用していたのは「定量100%評価」というもの。数字を積み上げれば会社が認めてくれる評価だった。特に総合商社は、世界中のありとあらゆるところで何をやってもいいという業態なので、会社の経営陣も、社員一人ひとりの仕事をすべて把握するのは大変難しく、ついつい出てきた数字(利益)の背比べになってしまっていた。しかも商社には、競争心の強い人間が集まっている、だからこんな事件が起こる、ならば思い切って評価制度を変えようと思った。そこで、絶対評価(組織間の背比べの廃止)と、定性評価を導入した。更には、DPF問題発覚後は、数字による定量評価はわずか2割まで下げ、残りの8割は定性評価にするという大胆な変更を行った。
また、三井物産のように多彩なビジネスを行なっている会社の社員全員が、目指すべき共通のスローガンが欲しいと思った。いろいろ考えたが、結果として思いついたのが「良い仕事」というシンプルな言葉だった。
2つの不祥事で2つのストライクを取られ、次にストライクを取られたら会社が終わってしまうような瀬戸際の状態で、自分の仕事が「良い仕事」かどうか、もう一度見直してもらいたかった。
自分の仕事が、 世の中にとって役に立つのか(社会の視点)、お客様にとって有益で付加価値をもたらすのか(取引先の視点)、自分のやりがいや納得感につながるのか(自分自身の視点)を持って、常に日々の仕事に取組んで欲しいと思った。