海外の紛争解決システムから、今後の日本の「解雇の金銭解決制度」を考える

【パネルディスカッション】
成蹊大学法学部 教授 原 昌登氏
学習院大学 名誉教授/学習院さくらアカデミー長 今野 浩一郎氏(ファシリテーター)

改めて問われる「解雇の金銭解決制度」の是非。国内における議論の歴史を整理し、“望ましい法制度の在り方”を探る
今野氏:いくつかの論点について議論させてください。まずお聞きしたいのが、「金銭を払えば解雇できる国があるのか」という点です。

原氏:あります。ただ、基本的には解雇無効を前提にしており、そこが出発点であるというのがオーソドックスな形です。

今野氏:「諸外国並みの紛争解決システムを日本でも導入しなければ投資を呼び込めない」と言った時に、聞いている人によっては「金さえ払えば解雇できるのが諸外国並み」と感じてしまいそうです。そうではないということですね。

原氏:はい、おっしゃる通りです。ただ実際には、会社側からすれば、金銭を支払うことでスピーディーに紛争を終了させることができるのも事実です。

今野氏:当面は労働者側のみに認めようということですが、将来的には使用者側に認めることもありうるのでしょうか。

原氏:諸外国では労働者側の申立てが基本です。中には、類型を区切って使用者側に申立てを認める制度設計もあるようです。まずは労働者側の救済の選択肢拡大を目的として導入してみて、制度を使いながら改善していくことが、法政策上望ましいと思います。

今野氏:労働者側を中心に申立てを認めるのが主流なのですね。

原氏:そうですね。実際は話し合いで金銭解決されるケースが多いといえます。そのため、それを制度化した方が良いのではないかという素朴な部分もあると思います。

今野氏:「金額の基準をどうするか」が非常に重要になってきそうですが、どのように決めるかは難しい気がします。これについて、海外の事例はありますか?

原氏:ドイツでは、解決金の基準となる計算式が決まっているようです。それを日本でもガイドライン等の形で導入することは、不可能ではないと思います。

今野氏:その方が解決コストを下げられるということですね。

原氏:社会的な意味でも、紛争解決のための当事者間のコストを下げられる可能性があるといえます。

今野氏:もし日本でも計算式が導入されると、和解に対する影響が大きくなりそうです。あっせんもそれを基準にして使うようになるでしょうね。

原氏:その計算式を念頭に置きながら議論できると、和解やあっせんによる紛争解決にプラスになる面は確かにあると思います。

今野氏:その基準を法律やガイドラインとして提示した時に、どのような影響を及ぼすかを、想像力を膨らましながら制度設計をしなければいけませんね。

原氏:これまで培ってきた裁判以外の紛争解決の仕組みが、かなり機能しています。それを変に崩すのは望ましくないので、「なぜこの制度を導入するのか」という原点に立ち返りながら議論していくことが求められますね。

今野氏:これまでの研究会では、計算式に関する案は出ていなかったのですか?

原氏:私見としての発言はあっても、まとまった形で公表するのは影響が大きいということで、慎重な扱いであったと感じます。

今野氏:計算式を考える人は大変ですね。

原氏:「こうした制度にはどのような意味があるのか」、「何を可能にしていけばよいか」を労使の方々としっかりすり合わせ、きちんと示しながら議論していく必要があります。

今野氏:「労働者の保護」と「使用者の利益」、両方に資することが必要とのことでした。この時の使用者の利益として、最も典型的なものは何でしょうか。

原氏:紛争解決には時間が当然掛かりますが、ルールを具体的にすることによって、いたずらに紛争が長期化することを抑えていく意味合いがあると言えます。

今野氏:ところで、この論点に関して、今後はどうなりそうでしょうか。

原氏:スタートラインは、「お金を払えば解雇してもよいということではない」と、しっかり理解することです。その上で、何を議論するかを明らかにしながら前に進めていくことです。引き続き、こうした問題について、海外との比較もしながら議論していくことが望ましいと感じます。

今野氏:今日は、原さんに「解雇の金銭解決制度」について非常に丁寧に説明していただき、議論が深まりました。ありがとうございました。

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