1-4. なぜ「新たな人脈形成」が大切なのか

ベンチャーキャピタリストがスタートアップ企業に投資をする際に、いくつかの条件を出すことがあります。その1つが、外部からの経営者招聘です。スタートアップの創業者はプロダクトには詳しいものの、経営に関してはそういうわけではありません。そのため、企業を舵取りできる有能な人が経営を担うことを条件に出資するのです。
創業間もないグーグルもその条件を突きつけられ、複数社の経営に関与したエリック・シュミットをCEOに迎え入れました。シュミットの経営手腕のおかげもあって、その後のグーグルの躍進が始まりました。そのシュミットでさえも、難しい問題に直面したときには外部のアドバイザーを頼っていたことはあまり知られていません(注8)。
高いポジションに就いているほど、前例のない難しい問題に直面することが多くなります。その会社で前例がなければ、頼れる人も社内には少ないでしょう。そうした状況でも、会社や事業の舵取りをしなければならないのが、経営リーダーです。そのときにヒントを与えてくれる可能性があるのが、社外の人です。他の業界の人は異なる視点を与えてくれ、経営経験者は判断軸を与えてくれます。ポジションが変われば、付き合う人も変わるべきです。経営リーダーは、こうした人たちとの接点を増やす必要があります。

1-5. 最も効果があるのは「積極的依存」

これら3つの中で、特にどれが重要なのでしょうか。リーダーとしての周囲からの評価を成果変数(注9)にして、3つの行動変化との関係を分析しました(図表2)。
 分析したところ、最も確実で強い関係があるのは、「積極的依存」でした。リーダー独りだけで舵取りをするわけではなく、不得意なことがあったとしても務まるのです(もちろん、それを克服する努力は必要ですが)。何でも知っているふりをして判断したり、指示を出すのが最も良くないといえます。自分の不得意領域や意思決定の癖を認識して、それをさらけ出して協力を求めた方が上手くいくのです。
なぜ、経営人材へと飛躍できないのか~行動、意識・思考の転換(前編)
一方、「選択的対応」は常に効果的というわけではありませんでした。これは、選択的対応をすべきではないということを意味しているわけではないでしょう。恐らく、状況に応じて必要な場合とそうではない場合に分かれるのだと考えられます。組織を大きく変えなければならないときには、どんなに忙しくてもリーダー自らが広範に関与しなければならないこともあるでしょう。また、組織の成熟度が低い場合も、細部まで関与せざるを得ません。組織の状況を鑑みて、どちらのスタイルを採るかを判断すべきだといえます。
注1:自己組織化とは混沌とした状態からある構造が自律的に形成されていくことであり、今田氏によれば環境適応ではなく内破の力によって自らを変える特徴があるという。
注2:今田高俊(2003)「自己組織化の条件」DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー3月号、88-101ページ。
注3:フリードリッヒ・ニーチェ著、茅野良男訳(1993)『ニーチェ全集7:曙光』筑摩書房。
注4:ピーター・ F・ ドラッカー(2000)『プロフェッショナルの条件』ダイヤモンド社。
注5:この調査では、サンプルの質が重要になる。そこで、38社の企業に協力いただき、経営視点でものごとを考え行動し、かつ社内で一目置かれている部長・事業部長・本部長・役員クラスのリーダーを最大5人の範囲で選定いただいた。そしてその方々から、課長時代からの変化をいくつかの側面から具体的に回答いただいた。次に、そこで得られた約600のコメントを整理・統合して約30項目の定量調査票を作成し、インターネット調査会社のパネルを用いて調査した。その回答データを因子分析した結果、3つの行動が抽出された。
注6:Boris Groysberg, Ashish Nanda and Nitin Nohria (2004) The Risky Business of Hiring Stars, Harvard Business Review, 82(5): 92-100.
注7:Michael E. Porter, Jay W. Lorsch and Nitin Nohria (2004) Seven Surprises for New CEOs, Harvard Business Review, 82(10): 67-72.
注8:Linda Rottenberg (2014) Crazy is a Compliment, Portfolio Penguin.
注9:理想を言えば業績を成果変数にすべきなのだろうが、業績はタイムラグがあり、しかもリーダーの行動以外にも多様な要素が影響する。そのため、直接的な関係があるものを成果変数に設定した。できるだけ客観評価に近づけられるよう、「あなたは経営リーダーとしての成果を上げている」という質問にはせず、「あなたは、あなたと同じポジションの同僚と比べて、社内の上位層の人たちから相談されたり意見を求められることが多い」などより具体的な状況を尋ねる複数の質問で測定した。
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富士ゼロックス総合教育研究所では、1994年より人材開発問題の時宜を得たテーマを選択して調査・研究を行い、『人材開発白書』として発刊しています。「人材開発白書2018」は、「リーダーシップ・トランジション」をテーマに分析をしました。本コラムはその分析結果にもとづいて書かれています。なお、『人材開発白書』のバックナンバーは、弊社のホームページよりダウンロードできます(http://www.fxli.co.jp/)。

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